舞台の幕が開くと、人でいっぱいの観客席が目に入った…昨日の演劇のときよりもはるかに多い。
「それでは、明翠女学園と燈星学園の両生徒会が贈ります、草鹿彩菜生徒会長のスペシャルライブをはじめますぅ」
 進行をしてくれる松永さんの声…それがかすかにしか聞こえなくなるくらい、この期に及んで私の心が、先ほどまでとは打って変わって怖気づきはじめてしまった。
 ただ生徒会長として、あるいはクラスの一出し物の主役としてこの場に立つくらいならまだいい、けれどこれは学園祭のメインイベント…それが、私などの歌程度のことで満足されるのか。
 これだけの観客、高名なアーティストを呼んだほうがよかったのでは…そのくらいがちょうどいいでしょうに、私などでよいのか…。
「…あやちゃん!」
 ほとんど何も届かなくなってしまった耳に、はっきりと…美月さんの声が届いた。
 思わず目を向ける私へ、あの子は笑顔で、そして力強くうなずいてくれた。
 …私には美月さんがいてくれる、のよね。
 それに、ここまできたのだから、余計なことは考えずに美月さんや皆の音色に合わせて歌うこと、それを楽しみましょう。
「…ありがとう、美月さん」
 彼女に小さくうなずいて、私はマイクを手に取った…。

 美月さん、それに皆が音色を奏でてくれ、それに乗って歌を歌う…。
 それは一人で歌うよりずっと楽しく、心地よくって…三曲歌ったのだけれど、その時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。
 歌っている間、観客席のことは全く気にならなくって、全てを歌い終えた後、たくさんの拍手が鳴り響いていることでようやく存在を思い出したくらい。
 ふと美月さんへ目を向けると、満面の笑顔…あの子も同じ気持ちを持ってくれたみたい。
 …あぁ、美月さん、貴女のおかげでようやく解った、気づくことができたわ。
 そう、私がこれから先、していきたいことに。

 舞台袖へ引き上げ、さっそく美月さんへ歩み…寄ろうとしたのだけれど。
「あっ、彩菜、彩菜ぁ〜っ!」
「って、なっ、い、いきなり何をするの、貴女はっ!」
 その前に南雲さんが不意に駆け寄ってきて、そのまま飛びついてきてしまった…危ういところを手を出して抑えつけたけれど、本当に突然何なのよ。
「むぐっ、ひ、ひどいよ、私はただ彩菜の歌が素敵すぎて感動しちゃっただけなのに」
「…私の歌が、素敵だった? それは、本当?」
「えっ、う、うん、本当だって。まさか、私の追い求めていた最高の歌姫が同室の彩菜だったなんて、してやられたよ」
「それは言いすぎでしょう…」
 ずいぶん気恥ずかしくなってしまうことを言われたけれど、でも色々な女性ボーカルの曲を聴くのが趣味な南雲さんがそこまで言ってくれるのか…。
「うんうん、みーさもびっくりしちゃったよ〜…ねっ、あーやちゃんっ」「はい、本当に素敵な歌声でした」「ワタシもビックリシテ、思わず演奏の手が止まりソウデシタ〜」
「そんな、みんなの演奏あってのことよ…ありがとう」
 やはり恥ずかしくなってしまうけれど…これで、決心は固まったわ。
「あやちゃん、お疲れ様っ。ほんまに素敵な歌声やったよ」
「そんな、美月さんの演奏もよかったわ…ありがとう」
 そばへ歩み寄ってくれる美月さんと微笑み合う…と、私は改めて彼女と向き合った。
「…美月さん、私、決めたわ」
「えっ、決めたって…何をや?」
「ええ、私は…これから先、もっとたくさんの人に歌を聴いてもらう、って」
 その一言に、美月さんだけでなく、その場にいる全員が驚いた表情を向けてきてしまったけれど、あまりに唐突だろうし、仕方ないか。
「今のライブで、私は歌を歌うことが好きだと、気づくことができた…それに、私の歌は人を満足させられるだけのものがあるかもしれない、ということも。そう、美月さんが私の背中を押してくれてこの舞台で歌う機会を作ってくれたから、それに気づくことができたの」
 美月さんがいなければ、たくさんの人の前で歌う勇気など、持てなかったでしょう…。
「それに、たくさんの人へ歌声を届けることで、今は会うことのできない妹へも、私の想いの一部としての歌を、届けることができるかもしれないから…」
 もしもそうした活動をして、実際に妹が耳にしてくれるかどうかは、解らない…けれど、少しでも可能性があるのならば、努力する価値はある。
 私はまだ、妹のことを忘れたわけでも、諦めたわけでもないのだから。
「もちろん、そんな簡単な道ではないということは、解っているわ。けれど、美月さんがいてくれれば…美月さんの支えがあれば、頑張っていけると思うの。だから、その…」
「…うん、うちはあやちゃんのこと、全力で応援するで。だから、いくらでも頼ってな」
 見つめあう私たち…そのまま、そっと抱きしめあった。
「わわわ、これはさらにいいお話が書けそうだよ〜…きゃ〜、きゃ〜っ」「うふふっ、みーさちゃんのお話も、彩菜さんのデビューも、楽しみです」
「よし、本人もやる気があるみたいだし、これで彩菜のCDデビューは決まったね。どんな路線がいいかな〜」「ソウイエバ、元々歌姫コンテストの優勝者はCDデビューなんデシタッケ…会長さんデシタラヒット間違いなしデース」
 みんなが色々言い出したけれど、私はもうそんな言葉に慌てることも、心惑わすこともない。
 見守ってくれていると思いたい母に心配をかけない様に、そして妹へ想いが届くことを願って、信じる道を歩くだけ。
「美月さん…これからも、一緒にいてくれる?」
「うん、うちとあーやちゃんは、ずっと一緒やよ?」
 そう、私の愛する人とともに…どんなことがあっても、この人と一緒ならば、乗り越えられる。


    -fin-

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