終章

 ―十一月はじめの週末、明翠女学園の学園祭が行われる。
 高等部を中心に色々なイベントが行われ、一日めの土曜日は盛況のうちに、そして特に大きな混乱もなく終了した。
 二日めとなる今日、日曜日には前日を、さらに例年を上回るたくさんの人たちがやってきた。
 来客者が増えた一番の理由、それはやはり近くにある燈星学園と協力をするかたちで開催したからかしら…その学校の生徒が多数きているみたい。
 その様な中、今日は明翠女学園、燈星学園の両生徒会が共同しての、メインイベント扱いの企画が行われることになっているわ。

 時間は午後の一時になろうとしている中、私は講堂の舞台袖にいた。
 幕の下りた舞台上には、すでにマイクや様々な楽器が並べられていて、イベントの準備が万端整えられていたわ。
「わわわ〜、お客さん、立ち見もいるくらいいっぱいいるよ〜」
 こっそり幕の間から外の様子をうかがっていた藤枝美紗さんが慌てて戻ってきた。
「あらあら、みーさちゃん、大丈夫ですか…?」
「う、うん、さすがにちょっと緊張しちゃうよ〜」
「うふふっ、大丈夫です、私がいますから…」
「うん、あーやちゃん…きゃ〜っ」
 藤枝さんが抱きついた相手は、燈星学園の生徒会長を務める鴬谷菖蒲さん。
 この二人、いつの間にか恋人になっていた…美月さんでさえ気づかぬ間に、なのだから本当に何があったというのかしら。
 そのあたりは、また藤枝さんが自分たちのことを書いた物語にするそうね…ちなみに、私と美月さんの物語はすでに書かれてしまっていて、文芸部の催し物で本として売られてしまっているそう。
 にしても、ベースの鴬谷さんはともかく、藤枝さんは何とカスタネットの演奏担当なのだから、そう緊張をしなくてもいいと思う。
 ま、小さい藤枝さんがカスタネットを奏でる姿は微笑ましそうで、むしろそうした癒しの効果を狙ったものっぽいし、それにまだ出るだけいいわ。
「そんなにお客さんがきてるんだ。やっぱり、昨日の彩菜と美月さんの舞台がとってもよかったからかな。今日もまたやってほしい、ってリクエストがあったくらいだし」
 南雲さんが言っているのは、昨日のこの場所で行われた、私のクラスでの出し物のこと。
 演劇部の出し物もあり、また今日これから行われるイベントや生徒会長として忙しい私のことを考えてもらえ一度だけの公演だったけれど、どうもかなり好評だったらしい。
 そこは美月さんと一緒に稽古をした甲斐があったというものだけれど、演劇部の人にスカウトされたのはやりすぎ…美月さんの演技のほうが見事だったと思うけれど。
 物語の最後はあつい口づけで幕を下ろしたのだけれど、私たちはそこで実際に…と、こほん。
「ソンナにタクサンの人がキテルナンテ、チョット緊張しちゃいマース」
「大丈夫だって、気楽に行こうよ、ねっ」
 …いや、そんなこと、南雲さんが言うことではないでしょう。
 わざわざきてくださった、鴬谷さん以外の燈星学園の生徒会のかたがたも各々楽器を演奏してくれることになっているというのに、南雲さんは私の歌がどのくらいのものなのかじっくり聴いてみたいからって、ライブに参加せずこの舞台袖にいるだけなのだから。
「…あやちゃんは、緊張してへんのん?」
 そして、私のすぐ隣で待機するのは美月さん…眼鏡を外し、髪も束ねていない、本来の「天羽美月」さんの姿をしている。
 彼女が本当は燈星学園の生徒会役員であること、それに今日までしかこの学園にいないこと…それはいずれは言わなくてはならないことだったのだけれども、まさか昨日の演劇終了後、満座の聴衆を前にして発表するとは思わなかった。
 だから、今日が同じ高校の生徒として一緒にいられる、最後の日…。
「…大丈夫よ、美月さんがいてくれるから」
 そう、一緒の学校でなくなっても、会えなくなるわけではない…それに、今日はこれから一緒に想い出の一つを作るのだから、さみしさや緊張もあるけれど、それよりも高揚感のほうが大きいかしら。
「美月さんは、大丈夫?」
「うん、大丈夫や…あやちゃんの歌に合わせて演奏する日を夢見て練習してきたけど、まさかこんな舞台ですることになるなんて思ってなかったけどな」
 昔、私の歌に合わせ何かを奏でられる様になりたいと言ってくれていた美月さんは、本当にその言葉の通りに頑張って楽器を扱える様になってくれていたの。
 それがドラムだというのは少し意外なところだったけれど、ともかく嬉しい。
「皆さん、大変長らくお待たせいたしました〜。ただいまより、明翠女学園学園祭のメインイベントを開始いたしますぅ〜」
 と、どうやら開演時間を迎えてしまったらしく、幕の外から司会進行役の子の声が聞こえた。
 ちなみに、声の主は声優志望の松永いちごさん…彼女が声優を目指していて日々あの場所で練習をしていることは秘密なのだけれども、ね。
「よし、あやちゃん、行こか」
「ええ、よろしくね、美月さん」
 美月さん、それに他のみんなともうなずき合って、私たちは舞台上の所定の位置へついたのだった。


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