美月さんに連れられて、燈星学園の門をくぐる。
 さすがに敷地の広さは明翠女学園には及ばないものの、それでもなかなか立派で、過ごしやすそうな学び舎…。
 ここも、明翠女学園同様に幼稚園から一通りあるみたい。
「全部回るんは大変やし、高等部のほうを案内するよ、あやちゃん」
「ええ、ありがとう」
 やっぱり今の美月さんが普段どの様なところで過ごしているか見てみたいものね…と、いけない、浮かれるのはまだはやいわ。
「美月さん、その前に生徒会室へ連れて行ってもらえないかしら。まずは、皆さんにご挨拶をしないと」
 先日はこちらの皆さんがわざわざいらしてくださったのだから、まずはこうしないと。
「うん、そやな。それじゃ、生徒会室はこっちの校舎になるから、行こっか」
 そうして彼女に手を引かれ、校舎の中へと入る。
 さすがにもう放課後となって結構たつので人の姿もほとんどない廊下…そこを歩いていくけれど、なかなかきれいにされているわね。
「あっ、あやちゃん、ここが生徒会室やよ」
 と、三階に上がった先にあった扉の前で彼女が足を止めた。
 …先日いらした皆さんは至って普通の様子だったけれども、逆の立場になると少し緊張する…編入初日にはじめて教室へ入る気分、かしら。
 南雲さんたちに一緒にきてもらえたら少しは気が楽だったかしら…いえ、美月さんがいるのだからそれだけで十分。
「じゃ、うちから入るから、後についてきてな」
 そう言って扉を開け、美月さんは中へ入っていってしまった。
 大きく深呼吸をして…ええ、大丈夫、行きましょう。
「…失礼します」
 私も生徒会室へと入るけれど、中はとっても静か…歓迎されていないのかしら、とも思ったけれども、そうではないらしい。
「あれっ、誰もおれへんなぁ…」「そ、そうみたいね…」
 そう、生徒会室には誰の姿もなかったのだから、静かなのは当たり前。
「そうよね、毎日会合をしているわけがないのだし…やはり、事前に確認を取っておいたほうがよかったわね」
 そう思うと、先日の鴬谷さんたちは本当にタイミングがよかったわね、と感じる。
「う〜ん、みんな帰ったとも思えへんし…やっぱ、あそこにおるんかな」
「えっ、美月さん…皆さんがどこにいるか、心当たりがあるの?」
「うん、多分やけど」
 そうね、美月さんも本来ここの皆さんの一員なのだし、当たり前といえばそうなるか。

 誰の姿もなかった生徒会室を後にした私たちは、その美月さんが思い浮かべた心当たりのある場所へと向かうことにした。
 といってもただ向かうだけではなくって、途中色々学校の中を案内してもらいながら。
「あっ、さぁや先生や、こんにちは」
「美月ちゃん、お久し振りっ。そっちの子は…あっ、美月ちゃんの恋人さんだねっ」
 途中、廊下ですれ違った先生に一目見ただけでそんなことを言われてしまい少し慌ててしまったけれど、それ以上に驚いたのは、その先生…蕨小夜さんというそうなのだけれど、ともかく彼女が小さい、初等部くらいの年齢にしか見えなかったこと。
 そんな先生なんて私の学校にいる永折美紗先生くらいしかいないと考えていたから…そういえば、永折先生と読みは違うながら漢字は同じな藤枝美紗さんもとても小さいわ…。
 藤枝さんといえば、今日は元気だったけれど先日は本当にどうしたのかしら…なんてことを考えている間に、グラウンドに面した廊下へとやってきていた。
 この学校は様々な部活が活発に行われているとのことで、グラウンドでも様々な部が活動を行っていた。
「うちは特定の部には入らへんのやけど、あやちゃんも何にも入っとらへんよね…あんな運動神経ええし頭もええのに、運動系にも文化系にも入らへんなんて、どうして?」
 グラウンドの様子を二人で眺めているとふとそんなことをたずねられたけれど、ちょっと私を買いかぶりすぎなのでは…授業の様子を見てそう思ったのでしょうけれど、それほどでもないでしょうに。
「そうね…特に興味がわかなかったし、私も何かに縛られるのは好きではないもの」
「あっ、うちと一緒やね」
 お互い微笑み合うけれど、私の場合は本当に何にも興味を抱くことができなかっただけかもしれないのに…でも、いずれにしてもそんな私たちが生徒会役員をしているというのは、何だか不思議な話。
 その廊下を歩いて校舎を出ると、体育館、それに立派な武道場まで見えてきた。
「そういえば、あやちゃんって薙刀ができるんやっけ」
「え、ええ、少したしなむ程度には…」
 先日その様なことも話したわね…歌うことほど好きというわけでも得意というわけでもないし、公式の試合などにも出たことはないのだけれど、私の数少ない特技、なのかもしれない。
「じゃあ、あそこでちょっと手合わせしてみよっか」
「えっ、それは…今日は遠慮しておくわ」
「そっかぁ、残念やなぁ…」
 いくら何でも、大会で好成績を残す美月さんに、私で相手が務まるとは思えない。
 でも、美月さんと一緒に何かをできる、というのは嬉しいことだし…まずは、ちょっと腕を戻しておかないと。

次のページへ…

ページ→1/2/3/4

物語topへ戻る