無事に放課後を迎え、私と美月さんは二人で校舎、それに学園を後にした。
向かう先は言うまでもないわね…連絡はしていないけれど、軽い挨拶程度だし特には構わないでしょう。
先日先方がいらした際には生徒会役員全員でいらしてくださったけれど、今日は私が急に決めたことだし、それに会合の予定もなかったので、私たち二人だけで行くことにしたの。
朝と同様に腕を組んで歩く…やはりまわりを歩く他の下校する生徒たちの視線を感じるけれど、気にしないでおく。
駅から電車に乗り、数駅先…先の日曜日、燈星学園の学生寮へお邪魔した際にも利用した駅で下車した。
「あっ、彩菜さん、学園へ向かう前に、少し学生寮へ寄ってもいいですか?」
と、駅を出たところで美月さんがそう尋ねてきた…特に断る理由もないのでうなずいて、まずは先日もお邪魔した学生寮へ向かった。
「えっと、お邪魔します…」
「はい、いらっしゃいませ、彩菜さん」
まだ他の子の帰ってきていない学生寮、自然の流れで私も彼女の部屋へと入る…先日お邪魔しているとはいえ、まだやはり緊張してしまうわね…。
「それで、わざわざ自分の部屋へ戻ってきたりして、どうしたの?」
「はい、彩菜さん、少しだけ待っていていただけますか?」
彼女はそう言うなり制服を脱ぎはじめた…?
「って、えっ、み、美月さん、何ををしているの…!」
慌てて背を向けてしまったけれど、これって…!
「何って、着替えるだけですわ?」
「…あ、ああ、そういうこと…」
もう、驚かせないでいただきたいものだけれど、けれどどうしてわざわざ着替えなど…。
「…お待たせ、あやちゃん」
と、しばらく背を向けて待っていると彼女の声がかかってきたけれど、それはさっきまでとは明らかに違った雰囲気…。
振り向いてみると、そこに立っていた彼女は先日の鴬谷さんたちと同じ、つまり燈星学園の制服に身を包んだ、そして眼鏡も外し髪もポニーテールにした、明るい印象を受ける少女の姿になっていた。
そう、それが本来の彼女、天羽美月さんの姿。
「燈星学園に行くってことで、うちが学園の生徒としてあやちゃんの案内をしようと思うてな」
「なるほど、だからわざわざ着替えを…」
お互いに微笑み合うけれど、そういえばこちらの制服を着た彼女を見るのは、これがはじめてね。
でも、明翠女学園の制服を着ているときの彼女は「白波美月」さんか…いずれにしても新鮮な感じを受けるし、それにとてもよく似合っている。
「…ん〜? あやちゃん、どしたんよ〜?」
「えっ、い、いえ、何でもないわ?」
いけないいけない、思わずじっと見つめ続けてしまった…。
「そうなん? じゃ、さっそく燈星学園に行こか、あやちゃん」
「え、ええ、そうね」
…笑顔を向けられた瞬間、胸が高鳴ってしまった。
燈星学園の制服へ着替え、雰囲気もすっかり本来の天羽美月さんとなった彼女と、学生寮を後にした。
「じゃ、手をつないでこっか、あやちゃん」
「え、ええ、そうね…」
ということで手をつないだ二人が向かう先は、もちろん彼女の通う学校。
「あっ、美月さん、お久し振りです」「…そちらの、他校の制服のかたはどなたですか?」
当然今のこの時間はこちらも放課後なのだから、道を歩いていると美月さんと同じ制服を着た子たちとすれ違うこともあり、時にはそんな声もかけられる。
「うん、この子は草鹿彩菜さんっていって、今後学園祭を共同開催することになった私立明翠女学園の生徒会長さん」
「よ、よろしく…」
「それに、うちの大切な人でもあるんやで」
「…な、み、美月さんっ?」
相手の子たちは黄色い歓声をあげるけれど…や、やはり恥ずかしいわね。
しかも、私はかっこいいからお似合い、とか言ってくる人もいたけれども…私がかっこいいだなんて、とても自分では思えないわ。
それはともかく、さすが美月さんは燈星学園の生徒会役員らしく道ゆく生徒たちはみんな彼女のことを知っていたけれど、ふと気になることが出てきた。
「そういえば、美月さんが私の学校へ通っている間、当然燈星学園からは姿を消すことになっていたはずだけれども、不審には思われないのかしら。いくら生徒会長の鴬谷さんは知っていることとはいっても、一般の生徒は事情を知らないのでしょう?」
何週間も学校から姿を消したら、さすがに色々怪しまれそうな気がするわ…と、けれど学生寮にはいるのだから、どう思われるのかしら。
「あっ、うん、そのあたりはみんなにもちゃんと説明してあるから心配いらへんよ。あーやちゃんだけやなくって、両方の学校の理事長さんにも許可を取ってあるし」
そういえば、私の学校の理事長にして前の生徒会長、鷹司摩耶先輩には話をしてある、というのは聞いていたわね。
「そうなの…と、理事長さん、か。学園祭の共同開催のこともあるし、今日はともかくいずれは挨拶へ伺ったほうがいいのかもしれないわね…どの様なかたなのかしら」
「ん〜と、そうやなぁ…まーやちゃんに似た感じかもしれへんよ」
まーやちゃん、って…ま、まぁ、あの人が容認をしているのならば別に構わないのだけれども。
「あの人に似た、というと…厳しそうな人なのね」
これは、会う際には気を引き締めないと…と、彼女が首を横へ振る。
「ううん、似とるんは性格とかやなくって、境遇ってことかな。うちの学校の理事長さんも、高等部の生徒として学校に通ってるから」
「あ、なるほど…」
「理事長さんは、かわいらしい女の子やよ」
高等部に通っているということは、年齢も私たちとそう変わらない、か…こちらの理事長さんは生徒会長まではしていないとのことだけれども、それだけ若くて学校へ通っている、というだけでもすごい共通点よね。
「…あっ、学校の門が見えてきたよ」
と、その美月さんの声につられて前をよく見ると、私たちの歩く先に立派な門、そしてその奥にはいくつかの建物が見えてきた。
あれが、美月さんの通う学校、燈星学園か…。
どの様な学校なのかしら…そもそもこれまで他校を訪れたりしたことのない身としては少し緊張するけれど、それ以上に楽しみでもあるわね。
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