第六章(二小節)
―今年の学園祭にて私、草鹿彩菜がライブを行う…そんなことが生徒会の会合にて決まってしまった。
けれど、美月さんが一緒の舞台に立つと言ってくれて、とても心強かった。
そして…そう言ってくれたのは、美月さんだけではなかったの。
「そのライブ、私たちにもお手伝いさせていただけませんか?」
午後の生徒会室、私と美月さんがステージに立つと決まったのだけれど、ふと扉の外からそんな声がかかってきたの。
南雲さんや藤枝さん、ラティーナさんはきょろきょろしてしまうけれど、その声は私や美月さんにとっては聞き覚えのあるものだった。
「美月さん、今の声…」「あっ、いらしたみたいですわね…」
私たちは顔を見合わせ、そして扉へ目をやった。
「失礼いたします」
穏やかな声とともに扉を開け、中へ入ってきたのはこの学園とは違う学校の制服を身にまとった少女。
優雅な雰囲気のかただけれど、彼女とは今朝お会いして以来。
「は、はわっ…!」
と、なぜかさっきまではしゃいでいた藤枝さんが慌てた声をあげかけ、そしてうつむいてしまったけれど…今はそれよりも彼女を迎え入れるほうが先ね。
「こんにちは、鴬谷さん。さっそくきてくださったみたいで、わざわざ申し訳ありません」
席から立って彼女へ頭を下げる。
「ごきげんよう、彩菜さん、それに美月ちゃ…美月さん。あの、今日は他の生徒会役員の子たちにもきてもらっているのですけれど、入れてもらってもいいですか?」
「ええ、もちろん構わないわ」
「ありがとうございます。あの、皆さんもどうぞ」
彼女の声に促されて、やはり彼女と同じ制服を着ていらっしゃる少女が三人入ってきた。
一人はどことなく古風な趣を感じさせる、一人は眼鏡に三つ編みといった文学少女を思わせる、そしてもう一人は一見すると男性にも見える人。
中性的な容姿の人を見ると年度はじめの失敗を思い出してしまうけれど…こ、こほんっ。
「ねぇ彩菜、この人たちって?」「見たことナイ制服デース」
とにかく、まだ何も事情を知らず首を傾げるこちら側の皆にきちんと説明をしなければならないわね。
「ええ、この皆さんは燈星学園の生徒会のかたがた。みんなには話すのが遅れたけれど、私たちの私立明翠女学園とこちらの燈星学園とで学園祭の共同開催をすることになったの。そのために、今日はこちらへ挨拶をしにいらしてくださったのよ」
「燈星学園生徒会長の鴬谷菖蒲です。皆さま、よろしくお願いいたします」
「あっ、うん、こちらこそ」「ヨロシクお頼み申し上げマース」
鴬谷さんの挨拶に返事をした南雲さんたち、そのまま目をこちらへ向けてきた。
「それにしても彩菜ってばいつの間にそんなことしてたのよ…というか、彩菜がそういうことしてたのが意外だよ」「デモ、他の学校と仲良くするのはイイコトデース」
…まぁ、今までの私の態度を考えると、そう思われて当然よね。
実際、鴬谷さんの提案を受け入れたのは今朝、つまり美月さんと結ばれてからのことだったのだし。
「ええ、これは美月さんの縁もあって…」
そう、美月さんがいなければ、この両校の縁が繋がることもなかったでしょうね。
美月さんのこと…ここにいる人たちにはきちんと説明しておいたほうが、いいわよね。
鴬谷さんたち燈星学園の皆さんにも席についてもらって、その皆さんは知っているであろう話、美月さんのことについて説明する。
つまり、美月さんは本来燈星学園の生徒、さらにいえば生徒会役員ながら、とある理由で学園祭終了までこちらの学園へ通うことになっている、ということ。
その「とある理由」、本当は私に会うためなのだけれど、さすがにそれは恥ずかしいので両校の交流の一環、ということにしておいた。
「ナルホドデース、そういうコトだったんデースね」
「はい、今まで黙っていて申し訳ございませんわ」
「そんな、気にしなくってもいいよ。ただ学園祭が終わったら離れ離れになるなんて彩菜はさみしがらないのかな〜、ってことは気になったけど」
「なっ、南雲さん、貴女ね…!」
「大丈夫ですわ、私たちの愛はそのくらいで切れるものではありませんもの」
「み、美月さんも何を言って…!」
「わぁ、お二人って本当に素敵な関係なんですね…」「羨ましいです…」
私たちのやり取りを燈星学園のかたがたも微笑ましげに見守ってきているけれど、全く、恥ずかしい…でも、とにかく南雲さんたちは美月さんのことを納得してくれたみたい。
ちなみに、美月さんの口調や髪型は学園祭の日までこのままでいくみたい…いずれは明翠女学園の皆さんにも本当の姿を見てもらうみたいだけれど。
「…こほん、そういえば鴬谷さん、先ほどライブのお手伝いをしたいと言っていたけれど、あれはどういうことでしょうか?」
このままではさらに恥ずかしい方向へ話が進んでしまいそうな気もしたため、軌道修正…本題へ入る。
「はい、私たちもそのステージに上がらせていただいて、両学園の生徒会合同でのライブにする、というのはどうかと思いまして…」
「なるほど、そういうこと…確かに、学園祭の共同開催という目で見ても、それはよいかもしれないわね。私は異存なしよ」
私と鴬谷さん、二人で微笑みながらうなずき合い、それに他の皆からも反対意見は出なかったのでそういうことに決定した。
「ありがとうございます。あっ、私たちは一応何かしらの楽器の演奏はできますから、心配いりません…歌のほうは、彩菜さんにお任せしますね」
うっ、そ、そう、結局私だけが歌うことになるのね…。
でも、美月さんに加えこれだけのかたがたがいてくださるのならば、心強いわ…同時に皆さんの演奏に見合うだけの歌を歌わなければ、と緊張もするけれど。
「あと、生徒会の子じゃありませんけれど一緒にバンドを組んでいる子たちがいまして、その子たちも一緒に参加してもいいですか?」
「ええ、それは全く構わないわ」
そういうことなら、そのバンド単独での演奏も聴いてみたいものね…専属のボーカルがいるのならなおさら。
「では、その子たちはまた今度ご挨拶に伺うとして…ごめんなさい、自己紹介がまだでしたっけ」
「あ…そういえば、こちらもそうね」
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