「失礼します…あっ、ラティーナさん、こんにちは」
「あっ、美月さん、ソレに会長さんも、コンニチハデース」
 特に寄り道などもせずまっすぐ生徒会室へやってきたから、まだラティーナさんしか姿が見えない…あの名前で呼ばないで、なんてさすがに他の人には言えないか。
 気にしないことにして、静かに席へとつく…。
「今からティーを淹れマスケド、お二人ともイイデスヨネ?」
 でも、この賑やかな留学生がいるから、なかなか静かにはならないか。
「あっ、それでしたら私もお手伝いいたしますわ。彩菜さんはお待ちくださいね」
「…ええ」
 生徒会室はお茶を飲むところではない、と白波さんにも言っておかなければならないのだけれど…。
「はい、どうぞ、彩菜さん。私が淹れたものですので、お口に合うか解りませんけれど…」
 不安げにされつつ紅茶を出されては、黙ってそれを口にするしかなくなる。
「…いかが、ですか?」
 い、いや、その様に固唾を呑んで見守られても困るのだけれど。
「…ええ、おいしいわ」
「わぁ、よかったです」「美月さん、ヨカッタデースネ」
 しかも、そこまで喜ばれても…それもラティーナさんまで一緒になって。

 結局、その後にやってきた南雲さんや藤枝さんも交えて、しばしお茶の時間を過ごすことになってしまった。
 彼女たちがやってきたときにちょうど私が紅茶を口にしていたのだから、何の文句も言えなかったわ。
「そうなんだ〜、みーさの新作を使うことにしたんだね〜」
「うん、そう。今、クラスの子たちが台本を作ったりしてくれてるはずだよ」
 しかも、聞いていて憂鬱になってくる話題で盛り上がっているし…。
「それを会長さんと美月さんが演じるんだね〜。みーさも楽しみだよ〜」
「…黙りなさい」
 思わずにらみつけてしまう…けれど。
「はい、頑張りますから、楽しみにしていてください」
「うんうん、わくわくだよ〜…きゃ〜、きゃ〜っ」「ワタシも楽しみデース」
 私の一言よりも、白波さんの一言のほうへ皆がついていってしまった。
 …はぁ、会合をはじめる前から疲れてしまったではないの。
「では、そろそろ会合をはじめるわ。今日の内容は…先日応募の締め切られた、学園祭での生徒会主催イベントの参加者確認だったかしら。では、この件については南雲さんへ任せるわ」
 ま、そういうことで、今日の会合には私の出る幕はないのだから、疲れていても問題はないのだけれども。
「えっと、じゃあ、ここに参加者を募集した箱を持ってきてるから、さっそく開けてみるね」
 元は南雲さんの趣味から企画された様なものなこのイベントなので、やはりその彼女が一番やる気…私は逆に全くやる気がないし、彼女に仕切ってもらったほうがこのイベントのため。
 だから私は書類整理でもしていたいところなのだけれども、白波さんがうるさいものね…だから一応この場にはいるけれど基本的には何も話さずただ見守るだけ。
 そんな私の前で、今日まで生徒会室前に設置されていた箱が南雲さんの手により開けられた…のだけれど。
「さてさて、どうかな〜…って、あれ?」
 箱をひっくり返した彼女が言葉を失い、他の三人も固まってしまった。
「一枚だけ…みたいですわ」
 そう、かろうじてつぶやいた白波さんの言葉どおり、箱の中からは紙が一枚しか出てこなかったの。
 ま、以前の生徒会役員募集のときも結局ラティーナさんしか立候補者が出なかったわけだし、まして今回は全校生徒の前で歌わなければならないということなのだから、むしろ一通でも応募があっただけでも驚きかしら。
 本当は南雲さんへそう言ってあげたいところなのだけれども、私はあくまでいるだけの存在…別にことを荒立たせるつもりはないので黙っている。
「え、えぇ〜っ、う、嘘、一枚だけ? 他にはないの?」
 必死な様子で箱の中をあさったりのぞいたりしているけれど、残念ながら何も出てこない。
「わわわ、これじゃコンテストはできないよ〜」「サスガにワタシも歌は無理デース…」「これは、困りましたわ…」
 今からまた一から企画を考え直せば、まだ当日には間に合うかしら…。
「ま、まだ諦めるのははやいよっ。ほら、参加しようって人が一人はいるんだし…!」
「さすがに、一人のかただけでコンテストをするのは、難しいと思いますわ…」「確かにソウデース…」
 南雲さん以外の三人も、さすがに現実味がないと感じてきているみたい…当たり前か。
「い、いや、この参加者の子のライブってことにすればいいんじゃないかな?」
「それは…その子がいいよって言ってくれたらいいって思うけど、どうなのかな〜?」
 わざわざ立候補する様な生徒ならばあるいは…けれど、一人だけでとなると不安も大きくなるでしょうし、無理はさせられないわ。
 となると、やはり別の企画を考えるか、さもなくば最終手段として中止するしかないか。
「あの、ところで、参加したいとおっしゃっているのは、どなたなのでしょう?」「ソウデース、見てみまショーウ」
「そ、そうだったね、まずはこの一枚を確認しなきゃ」
 慌てて机の上にある一枚の紙を手にして目を通す南雲さん…と、なぜかそこで愕然とした様子となり固まってしまった。
 あの一枚すら悪戯だった、だったりするのかしら…仕方ない、やはり何かの展示などにしたほうがよいかしら。
「…南雲さん?」「怖い顔して、どうしたの〜?」「何て書いてアッタンデース?」
 三人が心配げに声をかける中、当の彼女は…なぜかこちらへ目を向けた。
 何…私が事の顛末を笑っている、とでも思ったのかしら。
「残念だけれども、この企画は中止をして、他の企画を考えましょう。それでよいかしら?」
 もう言い争いは望んでいないので、つとめて冷静にそう告げた…のだけれど。
「い、いや、よくないよ、待ってよ彩菜、彩菜…えっ、あれなの?」
 明らかに動揺した様子で声をあげられてしまったけれど、ずいぶん久し振りに人の名前を呼んだりして、何?
「あれって、何かしら…はっきり言いなさい」
「だ、だから…彩菜、歌を歌えたの? 参加してくれるの?」
「…は? ど、どうしてそうなるの?」
 あまりに唐突な言葉に、こちらが驚いてしまった。
「だって、この紙に…」
 紙がどうしたと…彼女の言葉が言い終わらないうちに、私は席を立ってその紙を奪い取り目を通していた。
「…な、何よ、これは…」
 その紙には確かに参加希望者として私の名前が書かれていたのだから、絶句せずにはいられなかった。
「えっ、彩菜さんが…歌われるのですか?」
「その様なわけ、ないでしょうっ?」
 思わず強く言い返すけれど、こんなことをするのって演劇のときと同じで白波さんなのでは…と思ってしまったものの、紙をよく見ると他にも記述がある。
「推薦者…松永いちご? 誰よ、これは…」
 はじめて目にする名…少なくとも、二年生の生徒にそんな人はいないはず。
「松永いちごさんがドウシタンデース?」
「その生徒が私を推薦したらしいわ…ラティーナさん、何者かご存知なの?」
「ハーイ、松永さんデシタラ、ワタシのクラスメイトデース」


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