「ごめんな、あやちゃん。お料理、手伝ってもらって」
「いえ、いいのよ…私がそうしたかっただけなのだから」
 できあがった料理をテーブルへ並べながらそんな言葉を交わした様に、あれから私も料理の手伝いをしたの。
 料理をする彼女をながめているのもよかったのだけれど、やはり一緒にしたくなってきて…。
 私も学生寮ではほぼ毎日料理はしているけれど、それは必要に迫られてのものといってよかったし、こんなに楽しい気持ちで料理ができたというのは、はじめてのことの気がする。
「じゃ、あやちゃん、いっぱい食べてな…いただきます」
「ええ…では、いただきます」
 テーブルに向かい合うかたちで座った私たちだけれど…南雲さんなどと食事をするときにはこの様なことはないのに、なぜか緊張する。
 それに、美月さんもどことなく緊張した様子でこちらを見つめてきているのだから、なおさら…と、とにかく、まずは食事をしましょう。
 私の前に並ぶ料理…サラダなどは私が作ったのだけれども、メインとなるハンバーグなどは美月さんが作ったもの。
 見た目からしてとてもおいしそうで香りもよく、美月さんが南雲さんの様な味覚のおかしな人でなければ何の心配もいらなさそう。
 現に、その香織を前にしてずいぶん食欲が出てきたし…さっそく、まずは遠慮がちに一口口にし、よく味わってみる。 「…ど、どうかな、あやちゃん。おいしい?」
 と、そんな私に少しだけ不安げに声をかけてくる彼女…なるほど、そういうことだったのね。
 そんなこと、心配するまでもないでしょうに、何だかかわいい…って、私が同じ立場なら、もっと不安になっていたでしょうね…。
「ええ、とてもおいしいわ…私の作ったものよりずっと」
「えっ、そうかな…ありがと。でも、あやちゃんの手料理も食べてみたいなぁ」
「それは…機会があったら、ね」
 お互いに微笑み合って食事を続けるけれど、彼女の作ってくれた料理は本当においしくって、それだけに私の料理を食べてもらう、というのは…こんなにおいしくなんて作れないから、少なからず不安になる。
 でも、それでもやはり大切な人に食べてもらいたい、という想いはあるし…そうね、機会があれば…。

 食事をしながら、それに食事が終わって一緒に後片付けをしてからも、私たちは色々なことを話した。
 それはお互いに会えなかった数年間のことだったり、普段の学校生活のことだったり…とはいっても私は知ってのとおり少々すさんだ日常を送っていたから特に話す様なことはなくって、だいたいは美月さんの話を聞かせてもらう、という感じ。
 その美月さんの話を聞いていて感じたのは、彼女は天才肌の人物っぽい、ということ…いえ、色々な部活から度々応援を要請されて、さらにそのたびに優秀な成績を収めているそうだもの。
 そんな彼女だから当然色々な部活から誘いがあったみたいなのだけれど、彼女は結局どの部活にも入っていない…何かに縛られすぎたり、あまり目立ちたくないからだという。
 それでも生徒会に入っているのは、他の役員の皆さんと仲がよかったり、あるいは学校を楽しくしたい、っていう気持ちがあるからみたい。
 翻って私が生徒会へ入った理由を思い浮かべると…その落差に少し恥ずかしくなる。
「あやちゃんが生徒会長さんやなんて、やっぱぴったりやなぁ」
「そ、その様なことはないわ…」
 だから、彼女のまっすぐな眼差しにも言葉を詰まらせるしかなくって…。
「そ、それよりも、美月さんは部活の応援で色々なものをしているそうだけれど、どんなものをしたの?」
 さらに、そうして話をそらせてしまった。
「ん〜、そうやなぁ、個人競技やったらフェンシングとか薙刀とか…」
 す、すごいわね、本当に色々している上、どれも未経験者には荷の重いものばかり…と。
「薙刀なら、私も多少は心得があるわね」
「そうなんや? じゃあ、また今度手合わせしてみたいなぁ」
「そ、そうね、機会があれば…」 
 何だか「機会があれば」ばかりになっているけれど、私の薙刀の実力なんて本当に多少といった程度で…大会で優秀な成績を収めている美月さんには遠く及ばないでしょうね…。

「あっ、あやちゃん、もうそろそろお風呂が沸いたみたいやけど、どうする?」
 この学生寮にも一部屋ごとにお風呂があるみたいで、少し前に準備をしていた彼女がそうたずねてきた。
「ええ、そうね…」
 返事をしかけたところで、ちょっとしたことに気づく。
「…そういえば、着替えを持っていないわ」
 今の私は制服姿で、しかも出かけるときにはまさかこんなことになるとは思っていなかったから、もちろん何も持ってきていない。
 ま、このまま休んでも特には構わないのだけれども…。
「あっ、それならうちのパジャマを貸してあげるから、心配いらへんよ?」
「そう、ありがとう…って、えっ? そ、そんな、私も美月さんのものを着るなんて…本当にいいの?」
「うん、遠慮することなんてないし…下着もいるかな?」
「えっ、そ、そんな、大丈夫よっ?」
 美月さんの下着を身につける、なんて…想像しただけで、どきどきしてしまう。
「ほんまにええの?」
「え、ええ…」
 パジャマだけでも大変なことなのに、下着までとなるとどこまで落ち着いていられるか解らないものね…ここは丁重に遠慮しておいた。
「そっか、じゃあお風呂やけど…一緒に入ろっか?」
「…えっ、い、一緒にっ?」
 誰かと一緒にお風呂に入るなんて私はそんなこと思い浮かびもしなかったのだけれど、美月さんと…い、いけない、想像しただけで顔が真っ赤になってしまう。
「もう、あやちゃんったらかわいいなぁ…じゃ、行こっか」
「な、何を言って…み、美月さん?」
 かわいい、なんて私にはおよそ似つかわしくないことを言われてうろたえてしまった間に、すっと手を取られて連れていかれてしまった。
 …ま、まぁ、その、好きな人となのだから、そう気にしなくってもいい、わよね?


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