第五章(五小節)
―私の初恋の相手、天羽美月さん。
もう二度と会えないと諦めていた彼女…あの日から数年を隔てた今日、二人の想い出の場所で再会を果たせた。
ずっと伝えられなかった想い…それも伝わったうえ、彼女も私と同じ想いを抱いてくれていたの。
そして…私たちの想いは、一つになった。
数年前、私と美月さんが日々会っていた場所…静寂に包まれた社の、さらに奥の森。
あの頃、美月さんは私の歌を聴いてくれていて…今日もまた、彼女が作ってくれたというとてもおいしいお弁当を食べた後、彼女のために歌った。
あの頃のことを思い出しながら、それにこうして彼女と会え、さらに想いが繋がった喜びを乗せて…。
「…どう、だったかしら。美月さんと離れ離れになってから今までまともに歌う機会なんてなかったから、あの頃よりも下手になっていたかと思うけれど…」
歌い終えるまでは美月さんにまた聴いてもらえて嬉しい気持ちでいっぱいだったのだけれど、ふとそんな不安が大きくなってきて思わずたずねてしまった。
実際、音楽の授業などでもきちんと歌ったりしていなかったし、先日のあれだって感情に身を任せてのものだったもの…声質だってあの頃とは変わっているでしょうし、もう人に聴かせられるものではなくなっているかもしれない…。
「そんなことあらへんで…あやちゃんの歌、やっぱりとっても素敵やったもん」
と、私を見つめ歌を聴いてくれていた美月さんはそう言ってくれたのだけれど…その目には、涙が浮かんで…?
「えっ、み、美月さん、どうしたの…?」
心配になって、少し前に立っている彼女へと駆け寄ってしまう。
「あっ、ううん、ちょっとな…久し振りにあやちゃんの歌を聴けたのが、嬉しくってな…」
「み、美月さん…」
もう、そんなこと言われると私まで嬉しくって涙があふれてきそうになってしまうじゃない…。
「それにな、あの頃より下手になっとるどころか、さらに素敵な歌声になっとったし…」
「…えっ、本当?」
「うん、ほんまやで…」
涙をためながら微笑んでくれる彼女の言葉は、本心からのものだって信じられる…。
「ありがとう、美月さん」
あふれそうになる涙を何とかこらえつつそう言って、そっと彼女の涙をぬぐう。
あの頃よりも私の歌がよくなっているというのならば、その理由は一つしかないわ…やっぱり、美月さんのおかげよ。
「あやちゃん…」
「美月、さん…」
見つめあう私たち…想いが抑えられなくなって、そのまま彼女をそっと抱き寄せてしまう。
そして、目を閉じて…再び、唇を重ね合わせたの。
美月さんと一緒にいるのはとっても幸せで、それからも何曲か歌ったけれど、疲れなどは全くなかった。
けれど、どんな幸せも、時間というものには勝てなくって…気付くと、もうすぐ夕方という時間になっていた。
「そろそろ帰らなければ、すぐに暗くなってしまうわね…」
「そやな…このあたりは明かりとかあらへんから、ほんまに真っ暗になると思うし…」
名残惜しいけれど、その森、そして神社を後に…と、美月さんがそっと手をつないできた?
「えっ、美月さ…」
少し驚いてしまったものの、彼女のぬくもりが伝わってきて嬉しかったし、もちろんそのままでいることにした。
けれど、いくら手をつないでも、歩くたびに別れは近づいていくわけで…別に明日にはまた会えるとは解っているのだけれども、やはりさみしいものはさみしい。
彼女も同じ気持ちなのか、お互いに交わす言葉も少なく、つないだ手にこもる力ばかりが大きくなっていってしまう…。
「…なぁ、あやちゃん?」
と、日も沈んでしまった中で差し掛かった住宅街にまでやってきたところで、手をつないで歩いたまま彼女が口を開いた。
「ええ、どうしたの…?」
「その、な…もし、あやちゃんがよかったら、うちのお部屋に、お泊りにきてくれへんかな…?」
「…えっ?」
「あっ、ご、ごめんな、やっぱりあかんかったかな…?」
い、いえ、今言葉を詰まらせてしまったのは、思いもよらない提案に驚いてしまったから…ただそれだけ。
「そんな、そうしてよいのなら、もちろん嬉しいわ」
「えっ、ほんまに? よかったぁ…」
「けれど、私が行っても本当に大丈夫なの? 何分、突然のことだし…」
「うん、大丈夫やで。うちが暮らしとるんは燈星学園の学生寮やし、そこは一人部屋やから」
えっ、学生寮って…そこに泊まるなんて、大丈夫なのかしら。
少なくても相部屋な私の学園の学生寮では無理でしょうけれど、あちらは…美月さんがああ言っているのだし、きっと大丈夫なのよね。
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