「…はぁ、情けない」
 先ほどの生徒会室でのやり取りを思い出し、特別棟の二階へ降りたところでため息をついてしまう。
 我ながら、幼稚な言い争いをしたものね…。
 学園祭のイベントを何にするかなんて、もういいわ…私が反対した理由も、彼女たちからすれば言いがかりに感じられたのでしょうし、好きにさせてあげましょう。
 でも、やっぱり気分が悪いわ…。
「二年の草鹿彩菜さん、来客者が見えておりますので応接室へきてください。繰り返します…」  と、放送で私の名前が呼ばれた?
 しかも来客なんて、もう天涯孤独となっている私には全く心当たりがないし、それに今は気分もよくないのだけれど、仕方ないか。
 向かった応接室は教室棟の一階、職員室の隣にあった。
 そこは名前の通りの場所なのだけれど、生徒個人への客が学園へくるなんてあまりないことだし、私も一度も入ったことのない部屋。
「…失礼します」
 はじめて入った応接室はさすが来客用の部屋だけあって、内装も凝っており立派なソファーがあったり、あまり学校という雰囲気ではない。
「あっ、こんにちは」
 そんな部屋で一人ソファーに腰かけていた人が立ち上がり挨拶をしてくる。
「…こんにちは。私が草鹿彩菜だけれど、私への来客とは貴女?」
「はい」
 いたのは私と同い年くらいに見える一人の少女…おしとやかそうな雰囲気をまとった長髪の美少女で、こことは違う学校の制服を着ている。
 もちろん、これまでにこんな人と出会った記憶など、私にはない。
「はじめまして、よね…私に、何かご用かしら?」
「はい、はじめまして。わたくし、私立燈星学園高等部二年で、生徒会長を務めております鴬谷菖蒲と申します」
 優雅に一礼されたけれど…燈星学園?
 名前くらいは目にしたことがあったかしら…確かここから電車で数駅離れたところにある学校。
 ここと同じく小中高一貫型の学校で、確か芸術関係など多彩な学部を持つ、専門色の強い学校だったはず。
「そう。その燈星学園の生徒会長が、私に何か?」
「はい、燈星学園と明翠女学園、両校の交流を深めようと思いまして、学園祭の共同開催を提案しにまいりました」
「…学園祭の、共同開催?」
 先ほどに続いて、また学園祭のことか…しかも、またずいぶんと唐突なこと。
「今まであまり交流らしい交流のなかった両校ですけれど、こんなに近くにあるのですし、この機会に仲を深められたら素敵です、と思って…」
「それで、生徒会長の私に話を?」
「はい、両校の学園祭で共同イベントなど、行えましたら…」
「…お断りするわ」
 穏やかな笑顔で話を進めようとする彼女に、一言冷たく言い放った。
 あまりにはっきり返事をしたためか、彼女は言葉を失ってしばらく呆然としてしまった。
「あ、あの、どうして…ですか?」
「別に、仲を深める必要なんてないでしょう。これまでだって、そうだったのだから」
 悲しそうな声をあげられたけれど、気にせず言い放つ。
 これが、理事長の鷹司先輩へ話を通せば了承されたでしょうけれど、話す相手が悪かったわね。
 私は、必要以上に他人と仲良くする必要なんて、ないと思っているから。
「話はそれだけかしら。では、失礼させていただくわ」
「そ、そんな、待ってください…!」
 悲痛な声をあげる彼女を無視して、私はその場から立ち去ったのだった。


    (第2章・完/第3章へ)

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