元々一人でいることが多かった私だけれど、あの日のことがあってから、それがより強くなった。
 第一、私は生徒会長なのだから、誰よりもしっかりとして生徒たちの規範とならなければならないわ。
 そうして日々気を張り詰めてきた結果、私はますます孤立を深めていくことになったけれど、そんな態度でいればそうなるのも当然でしょうし、私はそれで構わないと思っているから問題ないわ。
 と、今日の授業も何事もなく終わったけれども、今日は生徒会の会合の日か…。
 私が先にいても気まずいでしょうし、どこかで少し時間をつぶしていこうかしら…そう思い、校舎を出て中庭などを散策する。
 まだ、さすがに外は少し暑いわね…。
「あっ、生徒会長さん…!」「こ、こんにちはっ…」
「…ええ」
 すれ違う生徒が声をかけてくるけれど、私は軽く一瞥をするだけ…彼女たちの声が多少上ずっていたけれど、何となく理由は想像できる。
 私があまりうろうろしていても迷惑でしょうし、そろそろ生徒会室へ行きましょう。
「…あら?」
 生徒会室の前までやってきて扉へ手をかけたのだけれど、中から賑やかな声が聞こえてきたので手を止めた。
「わぁ、とってもおいしいよ〜」「本当、桔梗先輩の味にも負けてないよ…ラティーナさん、大好きっ」
「わわっ、ソンナ、抱きしめラレタリシタラ、照れチャイマース」
 何となく、中の様子は想像できる…南雲さんは無闇に人へ抱きつく悪癖を持っているし。
「あっ、会長さんの分のティーも用意シテおいたホウがイイデショウカ?」
「う〜ん、どうなのかな〜? 会長さん、お茶会するのを快く思ってないみたいだよ〜?」
「うん、あのときの反応を見ると、彩菜がくる前に片付けておいたほうがいいかも…」
 …そう思うならはやく片付けなさい、入りづらいでしょう。
「ソウイエバ、会長さんはアンナニ怖い人ダッタンデスか? クラスの子も『氷の女王』ダナンテ呼んでマシタ〜」
 ふぅん、いつの間にかそんな名前がつけられていたなんてね…。
「いや、真面目すぎるところはあるけれどいい子のはず…なんだけど、確かに最近はちょっと様子がおかしいかも。私ともほとんど口をきいてくれなくなっちゃったし」
 誰もおかしくないし、いい子でもないわ。
「わわ、やっぱりみーさの書いた物語を読んだせいなのかな〜」
「そんなことないよ、みーさちゃんの百合な物語はとっても素敵だもの」「ハーイ、私もソウ思いマース」
「わっ、あ、ありがとうだよ〜」
 また百合というものの会話になるのね、全く…こんなくだらない会話をさせて時間を空費させるわけにはいかないわ。
 邪魔者がきた、と思われるでしょうけれど…大きく深呼吸をしてから、ゆっくり扉を開いた。
「わっ、か、会長さん〜?」「こっ、コンニチハデース…!」「っと、は、はやく片付けなきゃ…!」
 中にいた三人、慌ててカップなどをしまいにかかる。
「…待たせたわね」
 私はそんな皆のことは気にせず、ゆっくり席についた。
 慌しく片づけを終えた三人は多少怯えた様にも見える様子で席につく…ま、私は『氷の女王』らしいし、仕方ないわね。
「では、今日の生徒会会合をはじめます」
 そんな彼女たちの慌てた様子も気にせず、淡々と会合をはじめた。
「今日の議題は、学園祭におけるメインイベントの選定、だったわね。全員に案を考えてきてもらったはずだけれど、何かあったかしら」
「ハーイ、考えてキマシター」
 先ほどまでの慌てぶりはどこへやら、いつもの元気な声があがった。
「ショーをスル、とイウノはドウデショウ?」
「ショー? それは、演劇のことかしら?」
「ハーイ、ソウデース」
 何だか、初等部にあるらしい学芸会みたいね。
 ちなみに、初等部の生徒は学園祭については基本的に客としてのみの参加。
「けれど、演劇ならば演劇部が何かをするのではないかしら」
「オーゥ、ソンナ部がアッタンデースか?」
 そこを把握していないで、よく生徒会役員ができるわね…後で南雲さんあたりに教育しておいてもらいましょう。
「ま、いいわ。その案は演劇部の企画を見てから判断をするということで、まずは保留ね。他には何かあるかしら?」
「じゃあ、みーさの書いた本を脚本にして劇をする、っていうのはどうかな〜?」
「あっ、それは素敵…」
「…演劇は保留にする、とさっき言ったばかりでしょう?」
 人の話をきちんと聞いているのかしら。
「う〜ん、じゃあみーさの本をみんなに配る、っていうのは…」
「…そういうことは、文芸部のほうでしていただけて?」
 全く、私がくる前にあの様なことを言っていたのに、全く反省していないわね。
 だいたい、あの様な本を配るのをメインイベントにするなんて…考えられないわ。
「では、他には何か?」
 しゅんとしてしまった藤枝さんを放っておいて話を先へ進める。
「う〜ん、そうだね、去年は何をやったか、みんな覚えてる?」
 そう言い出すのは南雲さん。
「ウーン、去年はコノ学園にイマセンデシタ〜」
「あっ、そうだよね。去年は学園一の大和撫子を選ぶコンテストをしたんだよ」
「オーゥ、ヤマトナデシコデスか〜。ソレは面白ソウデース」
 そういえば、去年は鷹司先輩の発案でそんな外国人の人が喜びそうなことをしたのだったわね。
 あれは結局鷹司先輩自身が目立ちたかったからしてた気がする…でも、優勝したのは別の人だったのには驚いたわ。
「それじゃ、今年もそういうコンテストみたいなのをしようと考えてるのかな〜?」
「そうそう、そんな感じなんだけど、私が考えたのは歌姫コンテストだよ」
「…歌姫?」
 歌、という単語につい反応を示してしまった。
「そう、学園中から歌に自信のある美少女を集めて、コンサートみたいにして歌ってもらうの。で、優勝した子や、優勝できなくってもとってもよかった子はCDデビューさせるとか……どう、すごいでしょ」
「わわっ、CDデビューまでさせたりしちゃうんだ…確かにすごいよ〜」
「そうね、確かにずいぶん大掛かりな企画ね」
「あっ、じゃあこれに決定」
「…いえ、却下ね」
「え、えぇ〜、どうしてっ?」
「そのイベント、結局貴女の趣味からきているのでしょう?」
「そ、そうだよ、でもそれが悪いの?」
 南雲さんの趣味とは女性ボーカルの曲を聴くこと…同室の私もずいぶん勧められたわ。
「私が生徒会に入ったのも、この学園に素敵な歌唱力を持った、そして美少女な子がいないか探し出しやすくするためだったんだから、せっかく合唱部とか作ろうと思ったのに…」
「誰も入部希望者がいなかった、と」
 そんな趣味全開の理由に付き合わされるかたちで生徒会に入れられた私は…本当、馬鹿ね。 「だいたい、歌が好きなら自分が歌えばよいでしょう。聴いているだけなど…いえ、ともかく、そうすればいいでしょう?」
 危うく自分で歌うほうが楽しいはず、なんて言いそうになってしまった…私がかつて歌を歌うのを好んでいたなんて、知られたくない。
「もう、そんなの、きれいでかわいい女の子が歌ってるのを見たり聴いたりするのがいいんだよ。自分で歌ってもしょうがないじゃない」
 …ダメね、これは。
「ともかく、南雲さんの案は却下するわ」
「そんな、動機が何だっていい企画なら関係ないじゃん。なのにそんなの、横暴だよっ」
「何とでも言えば結構よ」
「むぅ〜、そうやって人の案を潰しておいて、彩菜は何か案があるのっ?」
「私は、今年で創立百周年を迎えるこの学園の歴史を展示してみては、と思っているわ」
「えぇ〜っ、真面目な彩菜の考えそうなことだけど、そんなの全然つまんないじゃない」
「つまらないも何も、これは学園の学園祭の企画なのだから、よいでしょう。娯楽要素はクラスや部活別の企画に任せればよいわ…だいたい、貴女の言う歌に自信のある美少女とは何? 美少女でなければ出場できないのかしら…それは誰が判断するというの?」
「もう、何よ何よ、彩菜ってば人の揚げ足ばっかりじゃんっ。それにずいぶん冷たいし、そんなんじゃみんなに嫌われるよっ?」
「嫌われるも何も、私はすでに嫌われ者の『氷の女王』なのでしょう? 言いたいことはそれだけ?」
「なっ…ふ、ふんっ、案としては私のやつのほうが絶対いいに決まってるし、なら多数決にしましょ? みーさちゃんとラティーナさんもそれでいいよね?」
「わ、わわわ、え、えと〜!」「はわはわ…!」
 私たちの言い争いから突然話を振られ、二人とも慌ててしまう。
 でも、この二人なんて南雲さんと仲がいいのだから、多数決なんてしたら結果は見えてるじゃない。
「…好きにしたら、いいでしょう?」
 負け戦になると解っていても何も返事をしないわけにもいかず、一言返す。
「あっそ、じゃあ好きにさせてもらうよ。じゃあ、私の案がいいと思う人は手をあげて」
 やっぱり結果は見えてて、あの二人が遠慮がちに手をあげた。
「うんうん、これで決まり。会長さんも、文句ないです?」
 ずいぶん厭味な物言い…もう、どうでもいいわ。
「…ええ。では、そういうことで、今日の会合は終了するわ。さようなら」
 その場にいるのが気分悪く、そう言い捨てると皆の顔も見ることなく生徒会室を後にした。


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