「じゃ〜ん、夏梛ちゃん、これが高校時代に着てた制服だよ。どうかな?」
再び部屋へ戻った私が着ていたのは、そういう服装…これに着替えてきたんです。
「わ…わわっ、あ、麻美、その服装、どうしたんどうしたんです?」
「うん、夏梛ちゃんが学生時代の私のことを見たい、って言ってくれたから…」
そして制服はこっちに置いたままにしていましたからこうして着てみたわけ…なんですけど。
「えっと、もしかして、やっぱりおかしい、かな…? 卒業してからまだ半年と少しくらいしかたってないから、大丈夫かなって思ったんだけど…」
思いのほか彼女がびっくりしていたものですから、不安になってしまいます。
「い、いえいえ、そんなそんなことないです!」
「…本当?」
「あぅあぅ、本当本当ですから、そんなにそんなに見つめないでください…!」
夏梛ちゃん、真っ赤になってあたふたしちゃったりして、かわいいです。
「もう、しょうがないなぁ…でも、どうしてそんなに慌てたり驚いたりしたの?」
「え、えとえと、それは…そのその、麻美の制服姿がとってもとっても素敵で似合ってて…」
そして今度は恥ずかしそうにして小さな声でそんなことを言ってきて…もう我慢できません。
「…ありがと、夏梛ちゃんっ」
「…むぎゅっ!?」
ちょっと言いすぎな気もしましたけれど、それ以上に彼女がかわいらしすぎまして思わずぎゅってしちゃいました。
「はぅはぅ、あ、麻美ったら…」
あたふたしちゃう彼女ですけれど、でも離れたりしようとはしませんでしたから、私もしばらくぎゅってし続けちゃいます。
「…うふふっ、夏梛ちゃんに喜んでもらえてよかった」
「あぅあぅ…そのその、わざわざ制服着てくれたりして、ありがとうございます…」
しばらくしたところでゆっくり身体を離して微笑みかけますと、彼女はとっても恥ずかしそう。
「いえいえ、どういたしまして」
そのかわいらしさにまたぎゅってしたくなっちゃいますけど、そこは何とか我慢をします。
「でも、そんなに喜んでもらえるなんて、ちょっと意外だったかも。ほら、夏のイベントのときにも制服姿になったし」
「…夏のイベント、です? えとえと…あぁ、あれのことですか」
首をかしげる彼女ですけれど、すぐに思い当たったみたいです。
「でもでも、あれはあくまであくまでコスプレみたいなものでしたから。今の麻美が着てるのは、学生時代の麻美が実際実際に着てたものですし、やっぱり全然全然違うって思います」
「う〜ん、そんなもの…なのかな」
「ですです」
私と夏梛ちゃん、夏にあったイベントのときに、私たちのデビュー作なゲームで登場人物が着ているデザインの制服を着たんです。
そのときの夏梛ちゃんもまたとってもかわいらしかったですけど…もし夏梛ちゃんが学生時代に着てました制服姿を見せてくださいましたら。それはとっても感激しちゃいそう。
「…あ、そうですそうです、いいこと考えました」
夏梛ちゃんの気持ちに納得したところで、その彼女がそんな声をあげます。
「夏梛ちゃん、どうしたの?」
「はい、明日の学園祭ライブ…麻美は今の格好で出たらどうです?」
「…えっ? それって…制服で、ってこと?」
ちょっと唐突で意外な提案に戸惑っちゃいます。
「ですです、せっかくせっかくの麻美の母校での学園祭なんですし、迎えてくださる皆さんも喜んでくださるって思いません?」
「う〜ん、そうかな…?」
私があの学園の生徒でしたのを知っているの人なんて、ほんの一握りな気もします。
でも、もしそうでも…私がほんの少し前まで過ごしてきた場所でのライブ、それを制服姿でするっていうのは確かに夏梛ちゃんの言うとおりいいことな気がしてきました。
「…うん、夏梛ちゃんがそう言ってくれるなら、そうしてみようかな」
「ですです、それがいいです」
「うん、じゃあ夏梛ちゃんもそうしてみる?」
「…えっ? それってそれって、私も麻美と同じ同じ制服着てライブに出る、ってことです?」
「うん、どうかな?」
夏梛ちゃんも一緒にこの制服を…想像しただけでもどきどきしてきちゃいます。
「えとえと、私は別に別にその学校の出身じゃありませんし、着なくて着なくていいんじゃないでしょうか」
「えぇ〜っ、そんなぁ…」
「それにそれに、そんな急に急に私の分の制服も用意できないって思いますし…」
「あぅ、それはそうかも…」
私はもちろん自分が使っていた分しか持っていませんし、それに私のものじゃサイズが違いますよね…。
「ライブはもう明日だし、今から用意するなんて無理だよね…はぅ、残念だよ」
「もうもう、残念残念も何も、制服着るのは麻美だけでいいんですから」
う〜ん、でも夏梛ちゃんのこの制服姿、何だか諦め切れません…。
「…あっ、そうだ、ライブは諦めるけど、その後でも用意したら着てくれる? 私の前でだけでいいから」
ううん、そんなそんな素敵な姿の夏梛ちゃん、他の人には見せたくないかも。
「えっ…もうもう、そんなそんな無駄遣いしないでください」
う〜ん、そんな無駄なことじゃないって思うんだけど…でも、確かにお金をかけるのはよくないですよね。
じゃあ…うん、自分で作ってみて、それを夏梛ちゃんに着てもらいましょうか。
学園祭ライブで制服を、っていうことはそれから夏梛ちゃんが如月さんに連絡をして許可を取ってくれて。
「ではでは、明日のこともありますし、今日はそろそろ休みます?」
「うん、そうだね、夏梛ちゃん」
改めて着替えた私に彼女はああ声をかけてきまして、ライブのことも考えてうなずきました。
私と彼女はもちろん一緒の、大きめなものですから二人入っても余裕のあるベッドへ入りますけれど、そこはここに住んでいた頃に毎日お休みしていたベッドで…その頃はもちろん一人でしたところを今日は夏梛ちゃんと一緒に、ということでどきどきしてしまいます。
「ではでは、おやすみなさいです、麻美」
「うん、おやすみ、夏梛ちゃん…」
明かりを消して、夏梛ちゃんのぬくもりを感じながら目を閉じます…けれど、眠れません。
さっきのどきどきが収まっていないから、というわけではないのですけれど…。
「…麻美、もう寝ちゃいました?」
と、しばらくたったところで夏梛ちゃんの声が届きました。
「ううん、まだ起きてるけど…どうしたの?」
「はい、麻美が緊張緊張して眠れないんじゃ、って思ったんですけど…大丈夫大丈夫です?」
「あぅ…やっぱり、夏梛ちゃんは何でもお見通しなんだね。うん…明日のことを思うと、ちょっと」
私って元々人見知りでしたり上がり性でしたりと緊張しやすくって、これまでも収録やイベントなどの前はやっぱり緊張してきちゃってました。
そして…明日の学園祭ライブは私がついこの間まで通っていた場所で、っていうこともあってやっぱりとっても緊張してきちゃって、それを思うと眠れなくなるのでした。
「もうもう、麻美ったら…大丈夫、大丈夫です」
と、そんなやさしい声が届きますから目を開けて彼女へ顔を向けてみますと、そこにはやさしく微笑む彼女の顔。
「夏梛、ちゃん…」
「麻美は今までだってちゃんとちゃんとやれてきてますし、それにそれに…私がそばにいますから」
夏梛ちゃん、そう言って私のことをやさしく抱きしめてくれました。
ついさっきまで私を包んでいた緊張や不安は消えて、ぬくもりや幸せに包まれていきます。
「明日も私が一緒に一緒にいますし…ですからですから、安心安心して休んでください」
うん、こんな私が本番で何とかやってこれたのも、夏梛ちゃんがいてくれたおかげ…。
こんな私のことを想ってくれる彼女の気持ちに、涙が出そうになっちゃいます…。
「…一緒にいてくれるの、明日だけなの?」
でも、涙をこらえて…彼女を見つめながら、そんな意地悪を言っちゃいます。
「もうもう、解って解ってるくせに…!」
「それでも、夏梛ちゃんの口から聞きたいの…どう、なの?」
「そんなのそんなの…こ、これからも、ずっとずっと、です…」
「…うん、ありがと、夏梛ちゃん」
恥ずかしそうに答えてくれた彼女のことを、ぎゅって抱きしめ返します。
うん、私にはこうやって大好きな夏梛ちゃんがいてくれますから…ですから、大丈夫です。
「私も、これからも夏梛ちゃんとずっと一緒にいるから…んっ」
その想いを込めて、彼女と口づけを交わしました。
-fin-
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