一緒に作ったお料理はやっぱりとってもおいしくって。
「夏梛ちゃん、お休みするの私のお部屋で一緒に、で本当によかった? お部屋はたくさんあるけど…」
 お食事、それにお風呂も終えて私の自室へやってきたわけですけど、そこでそう声をかけます。
「も、もうもう、お風呂も一緒に一緒に入りましたのに、何を今更今更…あ、麻美がそうしたいんですよね?」
 顔を赤くする彼女ですけれど、それはもちろんそのとおりです。
「え〜っ、夏梛ちゃんは違うの?」
 でも、あえて不満げにそんなこと言っちゃいます。
「そ、それはそれは…ち、違いませんからこれでいいんですっ」
「わぁ、夏梛ちゃん…うんっ」
 うふふっ、恥ずかしそうにする夏梛ちゃん、かわいいです。
「…あぅあぅ、麻美が意地悪意地悪です」
「わっ、ご、ごめんねっ?」
「いいんですいいんです…そんな麻美のお部屋、隅々まで見ちゃうんですから」
 そんなこと言って彼女は私のお部屋を見回しちゃいますから、恥ずかしい…。
「…そう思ったんですけど、何だかずいぶんずいぶんすっきりしたお部屋です」
 と、そんな彼女の言葉どおり、部屋にはベッドなどの大きな家具はあるものの、本棚に空きが目立ったりと少しさみしくも感じられます。
「あっ、うん、必要かなって思ったものはあっちに持っていっちゃったから」
「そういうそういうことでしたか…麻美はずっとずっと向こうで生活してく、って考えてここを出たんですね」
「うん、それはもちろん…ずっと声優として頑張っていく、って決めましたから」
 それでも、長く暮らしてきて思い出深い、それに明治時代くらいからずっとここにあるっていいますお家を私の思い一つで手放すのも申し訳のない気もしましてこうしてあるのでした。
「それはえらいえらいです…けどけど、それじゃあ面白そうなものは特にはなさそうなさそうですね…」
 あっ、夏梛ちゃんがしゅんとしちゃいました。
「う、ううん、特に持っていく必要はないかな、って思ったものはここに残していっているし、何かないかな…」
 部屋を見回しながら考えをめぐらします…と。
「…あっ、そうです、確かアルバムがあるはず。それなんてどうかな?」
「麻美のアルバム…それはとってもとっても気になります」
「うん、じゃあ今から出すから待ってて」
 自分から提案しておいて何ですけど、昔の自分を見られるのって恥ずかしい…でも、夏梛ちゃんが喜んでくれるんでしたら。
「えっと…はい、これが昔の写真を収めたもので、こっちが学園の卒業アルバムだよ」
 空きの目立つ本棚からそれを取り出して机の上へ置きます。
「ありがとうありがとうございます…けどけど、卒業アルバムとか、向こうに持って持っていかなかったんですね…」
「わっ、それは…まさか誰か他の人に見せる日がくるなんて思ってなかったから…」
 お友達ができる、とも思っていませんでしたし…ましては夏梛ちゃんみたいな関係の人、なんてことは全く想像もつきませんでしたよね…。
「ではでは、卒業アルバムから見せて見せてもらっていいです?」
「あっ、うん、どうぞ」
 私のお返事を受けて彼女は卒業アルバムを手にして開いていきますから、私は少しどきどきしながらそれを見守ります。
「さすがさすが、いかにもいかにもお嬢さま学校、って感じです…」
「そ、そうかな?」
「それでそれで、麻美は…あっ、いましたいました。やっぱりやっぱりとっても…い、いえいえ、何でも何でもないです」
 クラス写真と個別写真を見た彼女、少し慌てて顔を赤くします?
「夏梛ちゃん、どうしたの?」
「で、ですからですから別に何でも何でもありません」
 あまり何でもない様には見えませんでしたけれど、慌てる夏梛ちゃんもかわいくってそれに満足してしまってそれ以上たずねるのはやめておきました。
「えとえと…あれあれっ、麻美が全然全然写ってません。クラス写真くらいにしかいなかったんじゃないです?」
 と、一通り卒業アルバムに目を通した夏梛ちゃんがそんなことを言ってきます。
「あっ、うん、私って特に部活とかもしてなかったから、それはしょうがないかも」
「そうはいっても全然全然いないです。修学旅行とか学園祭とか、ちゃんとちゃんと参加してますよね?」
「わっ、それはもう、私って卒業間際までは一応無遅刻無欠席だったんだよ?」
「確かに確かに麻美はそんな真面目真面目そうな印象ですけど、でしたらでしたら一枚くらい写って写ってても…」
「う〜ん、私ってとっても目立たない存在ですから、それはしょうがないんじゃないかな」
「またまたそんなそんなことを…あ、でもでも、麻美って自分から気配を消して消してそうでしたりしますかも。そんなことしてませんよね?」
「…えっ? う、うん…」
 思わずうなずき返しちゃいましたけど…実際にはしちゃってましたよね、そういうこと…。
「とにかくとにかく、もっとたくさんたくさん学生時代の麻美のこと見られるかと思いましたのに、残念残念です」
 あっ、夏梛ちゃんがまたちょっとしゅんとしちゃいました…こんなことでしたら、恥ずかしがったりせずにもっと写っておけばよかったです。
 でも今更そんなことを考えても遅すぎますし…あっ。
「あの、夏梛ちゃん。ほんの少しだけ待っていてもらえませんか?」
「えとえと…どうしたんです?」
「うん、ちょっと…ね?」
 首をかしげる彼女を置いて、私はクローゼットからあるものを取り出して一旦部屋を後にしたのでした。

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