そう意気込んだんですけど、お台所にはすでに豪華っていっていい食材が揃えられていまして。
 でも、使わずに残しちゃうのはもったいないことですから、今回はそちらをありがたく使わせてもらうことにします。
「じゃあ、夏梛ちゃんはお料理ができるまでのんびりしてて?」
 もう夕方ですし、その食材を使って夕ごはんの準備をしましょう…と。
「麻美一人にそんなそんなことさせるなんて悪い悪いです。私も一緒に一緒に作ります」
 夏梛ちゃんはそんなことを言ってきます?
「ううん、ここは私のお家だし、お客さんな夏梛ちゃんにそんなことさせられないよ」
 それに、夏梛ちゃんのためにお料理を作る、なんてお嫁さんみたいで幸せいっぱいであっても全然苦にはならないですし。
「もうもう、私だってお料理はできますし…って、何だか何だか、こんなやり取りを前にも前にもした気がします」
「…あ、別荘でお泊りしたとき?」
「ですです」
 あのときも、私がみんなお食事作ろうとして、夏梛ちゃんが自分も作る、って言ってくれたんでしたっけ…。
 私が彼女のためにお料理を作ってあげたい、って気持ちも強いですけれど、でも同時にあの子の作ったお料理を食べたい、って気持ちも確かにあって…。
「じゃあ…夏梛ちゃん、一緒に作ってもらって大丈夫?」
「ですです、もちろんもちろん大丈夫です…一緒に一緒に作りましょう」
 そういうことで、私たちは一緒にお台所に立つことにしました。
 そういえば、別荘のときもこうすることにしたんでしたっけ…あとは、私と夏梛ちゃんとが交代で作ったりもしました。
 そのどれもがそれぞれに幸せで、この先もこうしていけたらいいですよねって感じさせてくれるもので…そうです。
「私たちが一緒に暮らす様になっても、こうやって一緒にお料理作ったり、お互いにお料理を作り合ったりしようね」
「はわはわっ、いきなりいきなり何を何を言うんです…危うく危うく指を切っちゃうところでした…!」
 お料理を作りはじめてしばらくしたところで私がそんな声をかけますと、夏梛ちゃんはあたふたしちゃって…って!
「わっ、そんな、夏梛ちゃん、大丈夫っ? どこを切っちゃったのっ?」
 私も慌ててお料理の手を止めてすでに包丁を置いていた彼女の手を取ります。
「も、もうもう、落ち着いて落ち着いてください。危うく危うく切っちゃうところだっただけで、実際実際には切ってませんから」
「あ…よかった…」
 彼女の言うとおりそのきれいな指には傷一つついていなくってほっとします。
 あっ、でも、ちょっとした怪我でしたら、私が指をなめてあげる、なんてことができたのかも…。
「…麻美? 今、何か変な変なこと考えませんでした?」
「えっ、う、ううんっ、そんなことないよっ?」
「怪しい怪しい…ですけど、まぁいいです」
 はぅ…やっぱり、夏梛ちゃんは私のこと、お見通しみたいです。
 でも…そうですよね、ちょっとした怪我ですまないかもしれないんですし、おかしなことは考えないで、夏梛ちゃんに何事もなかったことを喜ばなきゃ。
「とにかくとにかく、いきなりいきなり驚かせないでくださいね?」
「驚かす…って、さっきのこと?」
 私、何か驚かす様なおかしなこと言いましたっけ…う〜ん。
「あっ、お料理はやっぱり基本的には私が作ることにしたほうがよかったかな? 私はもちろんそれでも全然大丈夫だよ」
 夏梛ちゃんのほうがお仕事忙しいと思いますし、そのほうがいいですよね。
「もうもう、私が言ってるのはそこじゃなくって…そのその、一緒に一緒に暮らす様になっても、のところです」
「えっ、夏梛ちゃん、私と一緒に暮らしてくれないの?」
 今度は私が少し驚いた声をあげてしまいます。
「別荘でのお泊りのとき、約束してくれたのに…」
「あぅあぅ、あれはあれは考えておきます、としか言って言ってないはずです…!」
「そうだっけ…じゃあ、夏梛ちゃんは私と一緒に暮らすの、嫌?」
「い、嫌な嫌なわけありませんっ。ただただ、そういう重要重要なことはしっかりしっかり考えてからにしたい、って思っているだけですっ」
 もう、それならあんなに驚かなくってもいいって思うんですけど。
「…あっ、そうだ。なら、ここで一緒に暮らす、とかどうかな…お台所も広くってこうして二人で一緒にお料理しても余裕で動き回れるよ」
「やっぱりやっぱり…麻美ももう少ししっかりしっかり考えたほうがいいです。ここじゃ事務所が遠かったりと不便不便です」
「…あぅ、そ、そうだね」
 彼女に呆れられちゃいましたけれど、私が実家を出た理由はまさにそういうことで、だったのでした…。
 でも、いくら考えても夏梛ちゃんと一緒に暮らしたい、という気持ちは変わりようがありませんし、夏梛ちゃんも本心ではそう思ってくれているはず、ですよね…そんなに恥ずかしがらなくってもいいのに。

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