今日のデートは、まず夏梛ちゃんが着ているゴスいおよーふくをよく買っているお店へ行くことになりました。
 あの子の着ているもの…私も作ってあげてプレゼントしたいと考えているんですけど、ともかくほとんど全てのものはそのお店で買っているというんです。
 そこへ向かう間、二人並んで手を繋いで市街地の歩道を歩きながら、まず夏梛ちゃんがあちらであったことなどを話していきますけれど、やっぱり夏梛ちゃんはお仕事をしっかり頑張れていて、えらいって感じると同時に自分が情けなくなっちゃいます。
「それでそれで、麻美のほうはどうでしたか?」
「え、えっと、その…」
 あの子のお話が終わったら当然次は私の番になるわけですけど、言葉を詰まらせちゃいました。
「…どうしたんです? そういえば今日はずっとずっと元気がない様子です…もしかして、さっきのことをまだ気にしてるんですか?」
「う、ううん、そういうわけじゃないし、何でもないよ?」
 そう、やきもちなんてものはもう消えてますし、余計な心配はかけられませんからあのことは言えません。
「本当本当ですか?」
「え、えと…」
 でも、それじゃ今日のお仕事についてはどう言えばいいのかな…と困ってしまう私の目にあるものが留まりました。
 そういえば、今歩いている道、私ははじめてなんですけど、この町にもああしたものがあったんですね…。
「…麻美? 本当本当にどうしたんです?」
 そんな私の様子を不審に思っちゃってか、あの子は足を止めて声をかけてきます。
「あっ、うん、ちょっとあそこの建物が気になっちゃって…」
 彼女と手を繋いでいた私も足を止めて、気になったものをよく見てみますけれど、視線の先にあった建物は、看板などにもある様に声優さんの養成所みたいなんです。
「麻美…まさか、通うとか言うつもりですか?」
 と、夏梛ちゃん、ちょっと冷ややかな目を向けてきちゃいます…けれど。
「え、えっと…もしかしたら、そうしたほうがよかったのかな、なんて…」
 あの建物が目についた瞬間にふと思っちゃったことを口にしちゃいました。
 きちんとしたところで勉強とかしていたら、今日みたいな情けないことにはならなかったんじゃ…なんて、そんなことを考えちゃって…。
「な、な…冗談冗談で言ったつもりでしたのに、本当本当にそんなこと考えちゃってたんですかっ?」
 夏梛ちゃん、私の手を振りほどいちゃいます。
「養成所に通っても夢をつかめるのはほんの一握りですのに、夢をつかめた麻美がそんなこと言っちゃうなんて…自分に自信がないっていってもいきすぎですっ」
「で、でも、私ってやっぱり全然ダメで、今日だって…あ、えと…」
 勢いであのことを言ってしまいそうになって、はっと口をつぐみます。
「やっぱりやっぱり、ラジオの収録のあたりで何か何かあったんですね?」
「あっ、え、えと、う、ううん…」
 はぅ、つい首を横に振っちゃいましたけど、気づいてたんだ…やっぱり、夏梛ちゃんには何でもお見通しなんでしょうか…。
「でしたらでしたらちゃんとちゃんと言ってください。隠し事なんてされちゃったら、麻美のこと…き、嫌い嫌いになっちゃうかもしれませんよっ?」
 わっ、それは絶対に嫌です…けど。
「で、でも、その、私の失敗の話なんかをして、夏梛ちゃんに余計な心配をさせちゃったり、嫌な思いにさせちゃったりするのは嫌で…」
「…麻美のバカ、バカバカっ!」
 しゅんとうつむいてしまう私ですけれど、あの子の強い語調にはっと顔を上げます。
「大好きな人の心配心配をするのは、当たり前のことじゃないんですっ? それにそれに、大好きな人の失敗のお話なんて、そんなのそんなの、ちゃんと聞いて励ましたいって思うのが普通普通ですっ」
「か、夏梛ちゃん…」
「ですのにですのに、麻美はそんなそんなこと言って…一人で抱え込もうとしないでくださいっ。私、本当本当に麻美のことが大好き大好きなんですから…麻美のためなら、何だってしたいんですからっ」
 叫ぶかの様にそう言うあの子の目には、涙があふれてて…その想いが、痛いほどに伝わってきちゃいます。
「それともそれとも、麻美は私なんかには言いたくない、頼ったりしたくない、って言うんですかっ? 麻美がそう言うんでしたら…」
「…う、ううんっ、そんなことないっ」
 夏梛ちゃんの想いをぶつけられて、私も我慢ができなくなって…ぎゅっと、彼女に抱きつきます。
「ごめん…ごめんね、夏梛ちゃんっ」
 私は夏梛ちゃんのことが好きで、夏梛ちゃんは私のことが好き。
 なのに、私はあの子の想いを信じ切れていないみたいなことを言っちゃって…それがとっても情けなく、悲しくって、涙があふれてきちゃいます。
「もうもう…全く全く、謝らなくってもいいです。麻美だって、私のことを想って…心配心配かけない様にって、黙って黙ってようとしたんですよね?」
「うぅ、で、でも…ぐすっ」
「ですからですから、大丈夫大丈夫ですから…。でもでも、これからは…何かあったら、一人で抱え込まないで何でも何でも私に言ってくださいね?」
「うん…うんっ。ぐすっ、夏梛ちゃんっ…」
 あの子のやさしい言葉が心に響いて…涙が止まらなくって、さらにぎゅっとしちゃいます。
「全く全く、麻美は泣き虫さんなんですから…。いいですよ…こうして私が支えて支えてあげますから、いくらでも泣いてください」
「うぅ、かなちゃ…」
 あの子からもそっと抱きしめ返してもらえて、そしてやさしくなでてもらって…今までの色んな想いがあふれちゃって、私は泣き続けました。
 はぅ、夏梛ちゃんのぬくもりに包まれていると、気持ちが抑えられなくって涙が止まりません…。
「…え、えとえと、麻美? そ、そろそろ…」
 と、しばらく泣きついてしまっていると、あの子は少し戸惑った様子でゆっくりと私を離します…?
「あっ、ご、ごめんね、夏梛ちゃん…いつまでも泣いちゃってて…」
 さすがにちょっと泣きすぎだったのかも…しっかりしなきゃ。
「い、いえいえ、そういうことじゃなくって…そのその、ここだと人目がずいぶんずいぶんありますから、どこかどこかへ移動しませんか…?」
「…あ」
 はっとしてあたりを見回しますけど、ここは街中の歩道ですから当然それなりに人通りもあって…目が合うとそそくさと立ち去るものの立ち止まって遠巻きにこちらを見ている人までいました…!
「わっ、えっと、そ、そうだね、夏梛ちゃん…!」
「で、ですです、話は後でゆっくりゆっくり聞きますから、行きましょう…!」
 ちょっと…ううん、かなり恥ずかしくなってきちゃって、夏梛ちゃんともども赤くなってしまいながら、手を繋いでその場を後にしたのでした。


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