事務所からすぐ近くにある公園は、今日も人の姿がほとんど見られなくって静かなもの。
 私と夏梛ちゃんはよくここでお昼のお弁当を食べていて、今日もその普段と同じ場所で待ち合わせ。
 大きめの木の下にあるベンチ…そこが私たちのお決まりの場所で、色々な気持ちを何とか抑えながらそこへ向かいますけれど、そのベンチの前に二つほどの人影が立っていることに気づきます。
 他の人に取られちゃってたのかな…じゃあ、あの子は別のベンチかな?
「…あれっ?」
 と、立っている二人の先…ベンチにはとっても見覚えのある子、つまりあの子が座っているのが見えました。
 そのお二人、あの子へ声をかけているみたい…胸がざわついてしまいますけれど、ともかくゆっくり歩み寄ってみます。
「かなさまにお会いできるなんて感激です」「その、今日はこんなところで何をしているんですか?」
 あの子へ声をかけているのは私とそう変わらない年齢に感じられる女の子たちで、あの子のファンみたい…うん、あの子は人気もありますしあんなにかわいいんですから、ああして声をかけられても何らおかしくありません。
 そう、おかしくないのに、私の胸はずきっとして…やきもちなんてやいちゃいけないのに、さっきのことでさらに心が弱くなってるのかも…。
「えとえと…って、麻美? そんなところに立って、どうしたんです?」
 少し離れたところで足を止めて動けないでいると、あの子のほうがこちらに気づいちゃいました。
「えっ、え、えっと、夏梛ちゃん…」
 胸の痛みを隠すため、ぎゅってにぎった手を胸の上で重ねながらゆっくりと歩み寄ります。
「麻美、って…えっ、この人、まさか?」「もしかして、アサミーナ…ですか?」
「は、はい、その、石川麻美です…は、はじめまして」
 あのお二人も私へ目を向けましたけれど、「アサミーナ」って定着しているんでしょうか…でも、さすがに私じゃ一目見ただけでは誰なのか解りづらいみたい?
「かなさまとアサミーナ、って…お二人でお出かけ中でした?」「もしかして、お二人ってプライベートでもお仕事のときみたいに仲がおよろしいんですか?」
 あっ、私たち、少なくってもお仕事の場では仲がいい、って見てもらえているんですね…私が結構イベントとかで夏梛ちゃん大好き、って言ったりしてますから当然といえばそうな気もしますけれど、でもそれってお仕事で言っている、とか思われてしまっているんでしたら、複雑です…。
「…もうもう、麻美ったらどうしてどうして黙っちゃうんです? いつもどおりに言ってくれないと…わ、私から言うことになっちゃうじゃないですかっ」
 と、あの子が少し慌ててそんなことを言ってきました…?
 …うん、そうですよね、私の想いはお仕事中でもプライベートでも、そして何があっても同じなんですから…黙っていることなんてありません。
「えっと、わ、私と夏梛ちゃんはこれからデートをするんです。だって、私たちは…恋人同士ですから」
「は、はわはわっ」
 私の言葉にあの子は真っ赤になっちゃいました。
「わっ…お二人はやっぱりそうだったんですね」「プライベートでもラブラブだなんて…素敵です」
 対するお二人も赤くなってしまったものの解ってくださったみたいで、応援のコメントを残して立ち去っていきました。
 そうして残されたのは私とあの子の二人きり…まだ色々な気持ちが胸の中にありますけれど、さっきまでよりは落ち着いてきた気もします。
「もうもうっ、あんなにはっきりはっきり言っちゃうなんて、恥ずかしいです…!」
 そう、そんなかわいらしいあの子を見ていたら、少なくてもやきもちなんてものは消えていきます。
「わっ、えと、夏梛ちゃんがいつもどおりに言えばいい、って言ったから…」
「そ、それはそうですけど、そ、そもそも麻美はどうしてどうしてあのお二人の後ろで、不安不安そうな顔して立ってたんです?」
 はぅ、私ってやっぱりそんな表情をしちゃってたんですね…。
「全く全く、麻美の人見知りは何とか何とかしないとです」
「う、うん、そうだね…」
「それにそれに、心配性もです。心配心配しなくっても、私は誰に声をかけられても麻美への想いが変わったりしないんですから…!」
「う、うん、ごめんね…それにありがと、夏梛ちゃん」
「べ、別に別に…!」
 夏梛ちゃんの私への想いがとっても嬉しくって思わず泣きそうにもなりますけれど、それは何とかこらえます。
 でも、夏梛ちゃん…私が元気のなかった理由、やきもちだけが原因と思っているみたい。
「と、とにかくとにかく、麻美もきたことですし、行きましょうか」
「あっ、うん、夏梛ちゃん。待たせちゃってごめんね?」
 それならそのほうがいいですよね…余計な心配とかかけちゃいけませんから。
「別に別に謝ることじゃないです。麻美はお仕事を頑張ってきたんですから」
 と、夏梛ちゃんのその言葉に、また少し胸が痛くなっちゃいました。
「う、うん、夏梛ちゃんも、東京のほうでのお仕事、頑張ってきたんだよね。お疲れさま」
 でも私は全然…と、いけません、あくまで普通にしていなくっちゃ。


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