別荘で過ごす二日め、午前中は声優やユニットとしてのお稽古をすることにしました。
 今はお休みではありますけれど気を抜きすぎるのもいけませんし、それに二人っきりのお稽古も楽しいものですから。
 それから、浴衣を持ってきていたことを思い出して、それで夜にやってみたいことも思い浮かびましたので、近くのお店まで必要なものを買いに行ったりもしました。
「このあたりはのどかでのどかでいいですね。でもでも…やっぱり、暑い暑いです」
「もう、夏梛ちゃんったら…ほら、もっとこっちに寄って?」
 近くといっても結構歩かなくってはいけなくって、お散歩みたいなもの…私は日傘を差して、それに夏梛ちゃんを入れて相合傘にしちゃいます。
 その彼女の言葉どおりこのあたりは田園風景の広がる、そして車などもほとんど走っていない、お散歩ものんびりした気持ちになれてよいものでした。
 そうしたところですから、お店ではあの子のゴスいおよーふくがとっても目立っちゃってましたけど、ともかく必要なものは買えましたので一安心。
 午後はまた水着に着替えて二人海で遊びました…きれいな砂浜を二人だけで使っちゃうなんてとっても贅沢ですけれど、私にとっては夏梛ちゃんと二人きりでいられる事実のほうが…。
 さらに、夕ごはんは夏梛ちゃんと一緒に作ったのですけれど、好きな人と一緒にお料理をする、というのがあんなにも楽しいものとは思いませんでした。
 もちろんそれを一緒に食べるのも楽しく、お料理もよりおいしく感じられて…お泊りにやってきてから少しずつ抱いてきていた気持ちをより強くさせました。
 その夕ごはんも終えた私たち、二人揃って別荘の裏手から外へ出ました。
「やっぱり、夏の夜は浴衣がいいよね…うん、夏梛ちゃん、よく似合ってる」
「そ、そういう麻美のほうこそ…麻美は和服がとてもとてもよく似合います」
 月明かりの照らす静かな砂浜へやってきた私たちは、お互い私の持ってきた浴衣姿。
 このままお散歩したり、のんびりするのもいいんですけど…お昼に買ってきたものをしなきゃ。
「花火なんてとってもとっても久し振りです」
「うん、私も…っと、えっと、とにかく夏っていったら花火だし、一緒に楽しもっ?」
 いけません、危うくまた誰かとそんなことする機会なんて、と言って場を暗くしちゃうところでした。
 それはともかく、お昼に買ってきたのは花火セットで、砂浜で二人、それを楽しむんです。
「わぁ、夏梛ちゃん、とってもきれい…って、もちろん夏梛ちゃんには及ばないけど」
「全く全く、麻美ったら何を何を言って…でもでも、きれいなのは確かですけど」
 うふふっ、それは夏梛ちゃんと花火、どちらのことを言っているのかな。
 いろんな種類の花火…中には小さな打ち上げ花火などもあって、それらをみんなやってみて最後に残るのは、もちろん線香花火です。
「やっぱりやっぱり、麻美には線香花火が似合います」
 しゃがんで一つめに火をつけているとそんなことを言われちゃいましたけれど、確かに華やかな花火が似合う夏梛ちゃんに較べて…。
「言っておきますけど、麻美が地味、って意味じゃないですよ? とってもとっても画になる、大人の雰囲気を感じるってことなんですから…黙って黙っていれば、ですけど」
「わっ、夏梛ちゃんったら…」
 やっぱり彼女には私の思っていることなんてお見通しみたい…それなら、一緒にお泊りをしていく中で私がこれから先こうしたい、って強く思い出したことにも気づいてるのかな…。
 そんな私の思いを知ってか知らずか、あの子も私のそばにしゃがんで線香花火へ火をつけます。
「麻美、今日もとってもとっても楽しかったです。明日で帰らなきゃいけないのはさみしいさみしいですけど…こうして別荘まで用意してくれて、本当本当にありがとうございました」
「ううん、そんなこと…」
 線香花火を見てしんみりしちゃったのか、あの子はそんなさみしいことを口にします。
 この幸せな時間も明日まで…と思うと私もとってもさみしいですけど、だからこそやっぱりあのことを言わなくっちゃ。
「…ねぇ、夏梛ちゃん?」
 一つめが落ちてしまい、二つめの線香花火へ火をつけながら声をかけます。
「ちょっと、お願いごとしても、いい?」
 これは、今までもそうできたらいいな、って思っていたこと…でも、一緒にお料理をしたりしているうちにもう抑えられなくなってきた気持ちで、意を決します。
「どうしたんですか? そんなのそんなの、言われないと解りません」
「うん、えっとね……夏梛ちゃんがよかったらその…」
 うぅ、やっぱり緊張しちゃう…!
「もうもう、はっきりはっきり言ってください」
「う、うん、じゃあ言うけど…わ、私と、こういうお泊りじゃなくって、一緒に暮らさない、かな…?」
「え…あ、麻美? い、今、何て何て言いました…?」
「う、うん、だから、私と一緒のお家で暮らさないかな、って…」
「な、な…!」
 私の提案を受けた彼女…真っ赤になって固まっちゃいました。
「あ、ご、ごめんね? いきなりこんなこと言って…迷惑、だったかな…」
「そっ、そんなそんなことありませんっ!」
「わっ、か、夏梛ちゃん…?」
 しゅんとしかけた私にあの子は強い声をあげて…お互いの線香花火が落ちちゃいました。
「い、今のはただ、いきなりいきなりのことで、びっくりびっくりしちゃっただけのことですっ」
「えっ、それじゃ…」
「そ、そんなこと、急に急には決められませんし、考えさせてくださいっ」
 よかった…嫌がられては、いないみたい。
「うん、そうだよね…じゃあ、考えておいてね?」
「わ、解りました」
 真っ赤なまま小さくうなずいてくれる夏梛ちゃんはやっぱりとってもかわいいです。
 そんな彼女と一緒に暮らせる様になったら…うふふっ、そのときにはいっそのこと名前も「灯月麻美」にしちゃおうかな?
 今回のお泊りはついにそんなこともお願いできましたし、本当に幸せな時間でした。
「も、もうもう、麻美ったら、そのことは考えておきますから、花火をしましょう。線香花火、まだ残ってますよ?」
「あっ…うん、夏梛ちゃん」
 うん、この時間、まだ終わりじゃないんですから、先のことを考えるのはほどほどにして…今は、この時を二人でめいっぱい楽しもうね、夏梛ちゃん。


    (第5章・完/第6章へ)

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