「わぁ…うん、夏梛ちゃん、とってもおいしいっ」
「そ、そうですか、でしたらでしたらよかったよかったです」
 夕ごはんは夏梛ちゃんの作ってくれたお料理。
「…って、あ、麻美っ? ど、どうしてどうして泣いてるんですっ?」
「…えっ? あ、あれっ、私…」
 それを一口食べた私の目から、自然と涙があふれてきてしまっていました。
「も、もうもうっ、泣くほど泣くほどまずかったんですか? でしたらでしたら、無理して食べなくっても…」
「…ううん、違うよ? とってもおいしくって、それに夏梛ちゃんの手料理を食べられたことが嬉しくって、感激しちゃったの」
「はわはわ…ま、全く全くっ」
 あの子は赤くなってあたふたしながらも私の涙を拭ってくれましたけれど、これは本当に幸せの涙。
「ほら、とってもおいしいから、夏梛ちゃんも…あ〜ん?」
「あ、あ〜ん…もきゅもきゅ」
 こうしてあの子が作ったお料理を食べさせあったりするなんて、本当に幸せ以外の何物でもありません。
「これなら、これからも夏梛ちゃんにお料理を作ってもらったほうがいいのかも」
「そ、そんなのそんなのダメですっ。私だって、麻美の手料理をとってもとっても楽しみにして…あぅあぅ」
 とっても強い口調でそんなことを言ってくれるのが嬉しく、また最後には真っ赤になってあたふたしちゃう姿がかわいらしすぎて、そんな彼女をなでなでしてあげます。
 そうした幸せな夕食も終わって、後片付けを終える頃にはお風呂も沸きます…水着から着替えたときに軽くシャワーは浴びましたけれど、ちゃんと入っておいたほうがいいです。
「夏梛ちゃん、お風呂…一緒に入って、いい?」
 ここまで幸せな気持ちの中、東京滞在時に一緒のお部屋に泊まっていたときには結局言い出すこともできなかったことを言っちゃいました。
 だって、あのときはお仕事を控えていたりお風呂が小さかったりしましたけれど、今はそういう心配はありませんし…何より、いくら我慢をしようとしても想いが抑えられません。
「え、えとえと…あ、麻美がそうしたいっていうんでしたら、いいですよ?」
 今日はやっぱり夏梛ちゃんも素直で、同じ気持ちなのかもしれません。
 私たち、一緒に脱衣所へ向かって、一糸纏わぬ姿に…なるんですけど、どきどきしすぎてとてもあの子の姿を見ることができません。
 も、もう、水着姿とか、それにこれまでも下着姿とか見ちゃってるのに…ううん、それらの姿でもとってもどきどきしちゃってるんですから、仕方ないですよね。
 お風呂のほうは私の住んでいるマンションのものより大きくって、二人で入る私たち、微妙な距離を取っちゃって湯船につかります。
 二人ともとっても緊張しちゃって、せっかくの一緒のお風呂なのに、ちょっと気まずささえ覚える沈黙や空気が流れちゃって…これじゃいけません。
「えと、夏梛ちゃん…それじゃ、お身体洗ってあげるね?」
 ですから、勇気を出して私からそう切り出します…と。
「…麻美ってすごいすごいですよね」
「えっ、夏梛ちゃん…?」
 突然感心されたみたいになりますから戸惑っちゃいます。
「普段はずいぶんずいぶん引っ込み思案な気がしますのに、こういう…私に関することですと、とってもとっても積極的になってます。私は全然全然言い出せませんのに…これじゃ、私のほうが恥ずかしがり屋さんみたいです」
 う〜ん、言われてみるとそうなのかも…私は夏梛ちゃんに対してなら素直になれるけど、対する彼女は他の人へのほうが素直になれる?
「大丈夫だよ、夏梛ちゃん…そんなこと、気にしなくっても」
「そ、そうでしょうか…」
「うん、だって、私は夏梛ちゃんのことが大好きだから素直になれて、夏梛ちゃんも私が大好きだから他の人とは違う態度になっちゃうだけなんだもん」
 それで、ちょうどよくつりあってるのかも。
「それに、私はそんな夏梛ちゃんがかわいくって仕方ない、って感じてるんだもん」
 そんなことを言っているうちにさっきまでの緊張感はなくなって、かわってあの子への愛しい気持ちが大きくなってきて、自然と身体を近づけちゃいます。
「あぅあぅ、そんなそんな…あ、麻美だってとってもとってもかわいいくせに」
「そ、そうかな…私のどんなところがかわいい、なんて感じちゃうの?」
「えとえと、ほわほわしてるところとか、私の前だととってもとっても素直なところとか、あとあとそんなきれいなきれいな顔で微笑まれるとどきどきしちゃいますし…って、なっ、なな何を何を言わせるんですっ!」
「わ…か、夏梛ちゃん、ありがと…」
「べっ、別に別に…!」
 ちょっと恥ずかしいですけど、でも嬉しくって、もうすぐ隣で寄り添うかたちになっていたあの子をなでなでします。
 そしてまたちょっと沈黙が流れますけど、これはさっきまでの気まずいものとは違う、心地よい幸せをかみしめているんです。
 ずっとこうしていたいですけれど、何だかとっても熱くなってきた様な…って、いけません。
「夏梛ちゃん、このままじゃのぼせちゃうから、一度あがろ? お身体洗ってあげるから」
「あっ、えとえと、そ、そうですね、麻美…」

 夏梛ちゃんと一緒にお風呂…お互いの身体を洗いあったりして、とてもどきどきしちゃいましたけど、でもとっても幸せで、背中から彼女を抱きしめたりしちゃいました。
 そのときの彼女の反応…うふふっ、思い出してみても、やっぱりかわいすぎます。
「やっぱりやっぱり、麻美の髪はさらさらできれいきれいです」
「そんなこと言って、夏梛ちゃんの髪もとってもきれいだよ?」
 お風呂から上がったら、お互いの髪を乾かしあったりもしましたっけ。
 そうしてお休みの時間を迎えて…この別荘にはいくつかお部屋がありますけど、もちろん私たちは一緒のお部屋、それに一緒のお布団でお休みします。
「麻美、今日はとってもとっても楽しかったです。この別荘を用意してくれて、本当本当にありがとうございました」
 お布団へ入った夏梛ちゃん、すぐ隣で向かい合うかたちでいる私にそう言ってきます。
「うん、私もとっても楽しかった…明日も、よろしくね?」
「ですです、それじゃおやすみなさい、麻美…」
「うん、おやすみ、夏梛ちゃん」
 そっとあの子を抱きしめながら、お互い微笑み合って目を閉じます。
 今日は、今まで生きてきた中で一番楽しくって、幸せだったかも…明日もありますし、夏梛ちゃん、よろしくね。


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