ちなみに、私の水着は白いワンピース…私が普段着る服も白いものが多いですし、それに白い日傘もよく差していますから、そんなイメージができたのかな。
「ですです、それもありますけど、やっぱりやっぱり麻美って清楚なお嬢さまって雰囲気がありますし、実際実際そうですから」
「わっ、夏梛ちゃん、そんな…えと、ありがと」
 私の通っていた学校には私よりもずっとそうした雰囲気のかたがたくさんいらしたんですけど、でも夏梛ちゃんにああ言ってもらえるのは悪くない気持ちですよね。
「でもでも、麻美はちょっと黒い黒いところがあるかも」
「えっ、そんな…しゅん」
 私はただずっと夏梛ちゃんのことを想い続けているだけなのに、そんな…。
「はわはわっ、そんな、冗談、冗談ですよ?」
「えっ…もう、夏梛ちゃんったら」
 さっきは冗談なんて言わないって言ってましたのに、しょうがないんだから。
 でも、内面のほうはともかく、この真夏の陽射しで白くてきれいな夏梛ちゃんのお肌が焼けたりしたら大変…別荘にあった大きなパラソルとシートを砂浜に設置して、その下へ避難します。
 もちろん、海へ着てこのまま…というのもあれですし、日焼け止めクリームも用意してて…。
「じゃあ、夏梛ちゃん…わ、私が、塗ってあげますね?」
「えっ、あ、麻美…で、ではでは、お、お願いします…」
 どきどきしながらの提案に、夏梛ちゃんは赤くなりながらもうなずいてくれました。
 夏梛ちゃんがこんな素直にしてくれるなんて、ちょっと意外…他に絶対誰もいない環境がそうさせてくれてるのかな。
「え、えとえと、麻美、はやくはやくしてくれますか?」
「あっ、う、うんっ」
 シートの上にうつぶせになるあの子…私が、直接手でクリームを塗ってあげるんですよね。
「…ふにゃっ!」
 そっと塗りはじめると、彼女はびくっとしてそんな声をあげて…はぅ、どきどきします。
 しかも、お肌が露出しているところに満遍なく塗ってあげますから…ちょっと変な気持ちになっちゃうのをぐっとこらえるんですけど、あの子も必死に目を閉じて何か我慢してるみたい?
「で、ではでは、次は私が麻美に塗って塗ってあげます」
「わっ、えっと、うん、お願い…」
 何とか彼女に塗ってあげると、今度は私の番…やっぱりものすごくどきどきしちゃいますし、それにあの子の手が私の色んなところに触れていくものですから、さっき以上におかしな気持ちになっちゃいそうでした。

 クリームが塗れたら、妙に熱くなっちゃった身体を冷やす意味も込めて海へ…海に入るなんてもう記憶にないくらい久し振りでしたけれど、ちょっと冷たい水が心地いいです。
「夏梛ちゃん…えいっ」
「わっ、もうもう、麻美ったら…こっちからもいっちゃいます」
 お互い水をかけ合っちゃったりして…こんな光景なんてお話の中だけのものかと思っちゃってました。
「あれあれっ、麻美って意外と意外と泳げるんですね」
 ちょっと泳ぎを披露すると、ずいぶん驚かれちゃいました。
「うん、一応水泳の授業もあったし…って、意外だなんてひどいよ」
「だってだって、麻美って運動神経鈍そうですし」
「うっ、それは否定しないけど…そう考えると、水泳はまだ得意なほうに入るのかも」
「そうなんですか…やっぱりやっぱり、お胸が浮きの役割とか…。でもでも、かえってかえって抵抗になりそうな気もしますし…」
 って、夏梛ちゃん、また私の胸に注目してくるものですから恥ずかしくなっちゃいます。
 ちなみに、その彼女も私くらいには泳げるみたいで、ちょっと残念かも…ううん、浮き輪を使うあの子もかわいいですよね、なんて思っちゃって。
「あんまりあんまり泳ぐと麻美のさらさらできれいなきれいな髪が痛んじゃいますし、ほどほどにしておきましょう」
 あの子はそんな気遣いもしてくれるんですけど、そういう彼女の髪もツインテールをほどくと私と同じかもっと長いくらいですよね…きれいなのも言うまでもないですし。
「んしょ、んしょ…なかなか立派立派なお城です」
「うん、二人だと砂のお城を作るのも楽しいね」
 これも海でのお約束の気のする、砂のお城を作ったり…二人でそれぞれ作ってみてもよかったんですけど、やっぱりそこは好きな人と一緒に、が一番です。
「何だか何だか今日は久し振りにたくさんたくさん遊んだ気がします」
 とっても器用な夏梛ちゃんの力で立派な砂のお城もできて、満足感に浸りながらそれを眺めて、彼女がそう口にします。
「うん、そうだね、私も…なんて、私は昔から誰かと一緒に遊ぶ、なんてことはなかったけど…」
「わわっ、何だか麻美から黒い黒いものが…」
 えっ、いけない、そんなつもりはなかったんですけど、ちょっと暗い空気にしちゃったかな…誰と過ごす時間でも夏梛ちゃんとの時間には敵わないんですから、大丈夫。
「じゃあ、そろそろ夕ごはんの準備をしなきゃ。夏梛ちゃんはゆっくり待っててね」
 気を取り直して、笑顔で声をかけます。
「もうもう、また麻美が作ろうとして。私も作りますよ?」
「…えっ、夏梛ちゃんも?」
「むぅ〜、何です何です、その反応は…私はお料理できない、とか思ってます? 確かに確かにお弁当とか持ってきたことはないですけど、私だって普通に普通にお料理できるんですからねっ?」
 夏梛ちゃん、ふくれちゃってかわいいです…それに、彼女がお料理できないとも思ってませんし、むしろ彼女の手料理は食べてみたいです。
「ごめんね、私の中でお料理はみんな私が作るもの、っていう感覚になってたみたい…夏梛ちゃんのお嫁さん気分になってた、っていうことなのかな」
「はわはわっ、な、何です何です、それは…確かに確かに、麻美がお嫁さんだなんて素敵素敵すぎますけど…!」
 そこまで言ったところで真っ赤になって口をつぐむ彼女…うふふっ、でも夏梛ちゃんがお嫁さんっていうのもまた素敵過ぎますよね。
「えとえと、とにかくとにかく、麻美にも私の手料理を食べてもらいたいんですから…!」
 しかもそんな嬉しいことまで言われてはもう断ることなんてできませんし、今夜は夏梛ちゃん、明日の朝とお昼は私、そして夜は二人一緒に作ることに決めました。
「今日は夏梛ちゃんが私のお嫁さんだね…うふふっ、とっても楽しみ」
「全く全く、何を何を言って…そ、それじゃ作ってきますから、麻美はのんびりのんびり待っていてくださいっ」
 あまりの恥ずかしさにか、あの子は別荘へ走っていっちゃいました。
「もう、夏梛ちゃんったら、本当にかわいいんだから…」
 夕焼けに染まる中、そんな彼女を微笑ましげに見送って…と、こういう光景、何だか既視感を覚えます。
 そう、あれは何度も見た夢…私とあの子とのデビュー作品での一こまです。
 でも、あちらは想いをこらえて泣くことになってしまいましたけれど、今の私は…もったいないほど、幸せいっぱい。
 あの子の想いも届いてくださればよいのに…と、これを望むのはさすがに贅沢すぎますよね。


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