私と夏梛ちゃん、それぞれお互いに似合いそうな水着を買って、でもそれを実際に着た姿を見るのは当日までのお楽しみ、ということにしました。
 私のほうでも少し準備がありましたから、その日は夕食を一緒に食べた後で一度お家へ帰って、出発は翌日ということにしました。
 その準備のほうも問題なく終わりまして、迎えた翌日…海へ行くのにもよい、快晴に恵まれて。
「あら、まぁ、ではまた明後日のお昼過ぎにお迎えにきますから、それまでお二人で楽しんでくださいね」
「ありがとうございます、如月さん」「本当本当に、わざわざありがとうございました」
 目的地までは、マネージャの如月さんの運転する車でこさせてもらいました…いえ、私たちはそこまでしてもらうつもりはなく、ただ少し旅行をするっていうことを報告しただけなんですけど、如月さんがそうしたいと言ってくださいましたので…。
「いえいえ、それでは失礼します〜」
 その如月さんも私たちを降ろして車で去っていきまして、その場に残されたのは私と夏梛ちゃんの二人だけ。
「それでそれで、今まで詳しい詳しい説明なしで連れてこられちゃいましたけど、ここはどこなんです? 立派な立派な洋館があって、それに静かな静かなところですけれど…」
 あたりを見回す夏梛ちゃんの言葉どおり、私たちが降ろされたのは白い洋館の前でした。
 周囲は離れたところにぽつぽつ家が点在しているものの道には車通りもなく静かな中、そう遠くない場所から波の音が届きます。
 …そうでした、夏梛ちゃんには楽しみにしてもらう意味で黙っていたんでしたっけ。
「うん、ここは私の実家の別荘だよ。プライベートビーチもあるから、二人で海を満喫できるね」
「わっ、そ、そういうそういうことだったんですか…。確かに確かに、それでしたら他の人を気にしなくってもいいですけど、やっぱりやっぱり麻美ってお嬢さまなんですね…」
 といっても、私は海にくることはまずありませんでしたし、両親が存命なときもほとんど使われていなかったみたいですけれど…その様な場所のことをあのときにとっさに思い出せて、本当によかったです。
「中も立派立派です…けど、やっぱり静か静かですし、他に誰かいないんですか?」
 さっそく扉を開けて中へ入ると、あの子は中の様子を眺めながらそうたずねてきます。
「うん、ここには私たち二人きりだよ。夏梛ちゃんと二人だけで過ごしたいんだもん」
 そのために、荷物の中には道中スーパーに立ち寄ってもらって買ってきた食材もあります。
「は、はわはわ、も、もうもう、そんなこと…!」
 もう、夏梛ちゃんったら、そんな顔を赤くしたりして、かわいいんだから。
 でも、ここで明後日のお昼まで丸二日も二人きりだなんて、旅館やホテルでもこうはいきませんし、私もどきどきしちゃいます。

 長い間使っていない別荘とはいっても定期的に管理はしていただいていましたし、それにきちんと電気もきていますから、まずは食材を冷蔵庫へ入れてから、お昼ごはん…私が軽いものを作りました。
 食後、お互いに別々のお部屋へ入ってそこで水着に着替えてから、別荘の裏手の扉から外へ出ます。
「わぁ…すごいすごいです。きれいきれいな砂浜が広がって…」
 そこからの景色に感嘆の声をあげる夏梛ちゃん…そう、別荘の裏はすぐに砂浜、そして海になっているんです。
 なかなか広い砂浜なのですけれど、他に人の姿のない、まさに私たち二人だけの場所…夏梛ちゃんに気に入ってもらえたみたいで、よかったです。
「えと、夏梛ちゃん、私たち二人しかいないんだし、まずは…上着を脱ごっか」
「そ、そうですね…」
 外へ出た私たち、お互いに上着を羽織っていたんですけど、同時にそれを脱ぎます。
 その下は、昨日お互いに選びあった水着姿で…。
「…わぁ〜、夏梛ちゃん、素敵っ」「わ、麻美…」
 彼女のその姿を見た瞬間、彼女の選んでくれたものは私に似合ってるかな、とか私の選んだもので大丈夫だったかな、とかそういう不安な気持ちはみんなどこかに吹き飛んじゃいました。
 普段ゴスいおよーふくをよく着ていてそれがとっても似合っている夏梛ちゃんですから水着もフリルのたくさんついたものを選んであげたんですけど…うん、大正解。
「夏梛ちゃん、とってもかわいいっ」
「そ、そうですか? ちょっとちょっと、子供っぽいんじゃ…」
「そんなことないよ、とってもよく似合ってて、ぎゅってしちゃいたくなるくらいかわいいんだからっ」
 あぁ、夏梛ちゃんの水着姿をこうして見られるなんて、しかも私だけのものだなんて…幸せすぎます。
「も、もうもうっ、そんなそんなことばかり言って…!」
 うふふっ、照れて身をよじらせちゃったりする夏梛ちゃんもかわいすぎて、我慢できなくなっちゃいそう。
「あ、麻美だって…とってもとってもかわいいくせにっ」
「…えっ?」
 と、顔を真っ赤にした彼女の言葉に、私は固まっちゃいました。
「も、もう、夏梛ちゃん? 私なんて…」
「私は冗談冗談なんて言わないんですから…麻美だって、私をとってもとってもどきどきさせちゃうくらいかわいいんですよっ?」
「そ、そんな、夏梛ちゃん…」
 あまりに意外すぎる言葉に、返す言葉が見つかりません。
 だ、だって、あの誰よりもかわいい夏梛ちゃんが、こんな目立たない私のことをあんなふうに…はぅ、嬉しいですけど、とっても恥ずかしいです…!
「顔を赤く赤くしておろおろする麻美、かわいいかわいいです」
「も、もうっ、そんな、夏梛ちゃん…!」
 私のすぐ前に立ってなでてきたりして…はぅ、ものすごく恥ずかしいですし、何だかいつもと逆になっちゃってます。
 でも、やっぱり同時にとっても嬉しく、幸せで…どきどきしちゃったり、心がほわんとなったりしちゃいます。
「…でもでも、やっぱりやっぱり…そのお胸とかは、私と全然全然違います」
「…きゃっ? か、夏梛ちゃん、どこ見てるのっ?」
 胸元にあの子の強い視線を感じて、思わず手で隠しちゃいました。
 い、いえ、夏梛ちゃんにでしたら見られても何も問題はないんですけど、やっぱり恥ずかしくって…。
「やっぱりやっぱり、麻美はスタイル抜群で…羨ましいです」
「も、もう、そんなこと…夏梛ちゃんは、そのかわいらしさが魅力の一つなのに」
 はぅ、自分ではあまり意識したことがなかったんですけど、私ってそうなんでしょうか…でもやっぱり夏梛ちゃんのほうがずっと魅力的だって思えて、ぎゅってしちゃいます。
「むぎゅっ…はぅはぅ、麻美は私が小さく小さくなかったら好きじゃないんですか?」
「もう、そんなこと…魅力の一つ、って言ったでしょ? でも、今のままの夏梛ちゃんが一番好きかも…変わっちゃうなんて、あんまり考えたくないし」
「あぅあぅ、私だって、今の麻美が大好き大好きですっ」
「わっ、夏梛ちゃん…嬉しいっ」
「…むぎゅぎゅっ!」
 とっても嬉しくなっちゃって、彼女の頭を胸で抱え込むかたちでぎゅっとしちゃいました。


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