「何、今日も貴女たちなの? まぁ、別にいいけど」
翌朝もレストランには片桐さんがいらして、私たちが歩み寄りますとそうおっしゃりますので一緒の席へつかせてもらいます。
「私たちは今日のお昼までお仕事してそれからそれから帰るんですけど、里緒菜さんはいつ帰るんです?」
席について店員さんへ注文を伝えてから夏梛ちゃんがそう声をかけます。
「私は明後日ね」
「まだ少し少しありますね…すみれセンパイとお会いできなくてやっぱりさみしいさみしいです?」
「そうね…さみしくない、って言ったら嘘になるかも。一緒にいる貴女たちが羨ましいわ」
そうですよね、お仕事のタイミングが会う機会ってなかなかないことですし…夏梛ちゃんとユニットを組んでよかった、と少し思っちゃいますかも。
「でもでも、お電話とかしてるんじゃないんです?」
「それが、センパイからは何もこないのよね。めんどくさいから私からもしてないんだけど」
「…それはそれは不思議です。すみれセンパイのほうが我慢我慢できなさそうなイメージですのに」
「そうよね」
「もしかしてもしかして、お仕事のお邪魔にお邪魔になったらいけませんから遠慮遠慮、なんて麻美みたいなこと考えて考えてるのかもです」
「えっ…わっ、か、夏梛ちゃんっ?」
突然私のことが話題に出てきちゃうものですから少しあたふたします。
「何、麻美さんってそんなこと考えてたの?」
「ですです、本当本当はさみしくってお電話したいって思ってましたのにそれで我慢我慢してたんです」
「ふぅん…センパイでもあり得そうかも」
うぅ、確かに私は夏梛ちゃんがお仕事で遠くへ行ったとき、そういう理由でお電話とか遠慮してしまいましたけれど…何だか恥ずかしくなっちゃいます。
と、まさにそのとき、お電話…夏梛ちゃんのお電話がなりました。
「えとえと、ちょっとちょっと失礼します」
夏梛ちゃんはゴスいおよーふくの中からお電話を取り出して通話…お相手はどうやら如月さんみたいです。
「えとえと、麻美、あちらに帰ったら一度一度事務所へきてほしいそうです」
「あっ、うん」
お電話を終えた夏梛ちゃんの言葉に私はうなずいて…。
「…ねぇ、夏梛ちゃん」
と、片桐さんが夏梛ちゃんのことじぃ〜っと見てまして…どうしたんでしょう。
「えとえと、どうしたんです?」
「貴女って…猫のことが好きなの?」
「…えっ?」
少し意外な質問に、私もあの子もちょっと戸惑います。
「ほら、その携帯…猫のストラップついてるじゃない。だからそうなのかしらね、って」
言われてみればそうなっていまして…かわいらしくっていいですよね。
「あっ、これですか…ですです、猫さん大好き大好きです」
そう言って微笑む夏梛ちゃんのほうがさらにかわいらしいです…けど。
「…信じられないわ。猫よりも犬のほうがいいに決まっているでしょ?」
片桐さんはといえば、なぜか表情をこわばらせてしまっていました?
「いえいえ、それはおかしいおかしいです。犬も悪く悪くはありませんけど、猫が一番一番です」
「おかしいのは夏梛さんのほうよ。犬のほうがかわいいじゃない」
あっ、お二人ともにらみ合っちゃいました。
ま、まさかこんな些細なことでこんなことになっちゃうなんて…ど、どうしましょう。
「あ、あの…」
「麻美はどう思います?」「そうね、麻美さんの意見も聞きたいわ」
おどおど声をかけようとした私へ、お二人はそう言ってこちらを注目してきちゃいました…!
「えっ、あ、あの、私は…!」
「麻美ならもちろんもちろん私と同じ同じですよね?」「いいえ、いくら恋人だからってそんなところまで同じってことはないはずよ…どうなの?」
「そ、その、私は…よ、よく解りません…」
お二人に迫られてちょっと萎縮しちゃって、小さい声になっちゃいます。
「そんなそんなことないと思うんですけど」「そうよ、そんなの一目見たり触ったりしたらすぐ解ることでしょ?」
「そ、そんなこと言われましても…わ、私、触るどころか間近で見たこともありませんから、どちらのほうが好きかなんて、その、考えたこともなくって…」
「…えっ?」
あっ、お二人とも固まっちゃいました。
「あ、麻美ったら、それってそれって本当本当です?」「いくら何でも、犬も猫も触ったりしたことないなんて…」
「その、機会がなくって…」
信じられない、といった様子になっちゃいましたけれど…あっ。
「でも、猫や犬はありませんけれど、馬に乗ったりしたことでしたら、ありますよ…?」
うん、そうです、私だって全く動物に触れたことがないわけじゃありません。
「…えとえと、馬に、です?」「それってどういう機会なのよ…」
「あっ、はい、北海道に私の家の牧場がありまして、そこで…」
最近は行っていませんけれど昔はよく行っていまして、ですので父が亡くなった今でも私が所有というかたちにさせてもらっています。
「あぅあぅ、麻美ってやっぱりやっぱり…」「別世界の存在、って感じよね…」
って、お二人とも、椅子に深々と身を預けてため息をついちゃいました?
「あ、あのっ…?」
戸惑う私ですけれど…おかしな空気になったことで、お二人の言い合いも収まったみたいでした。
よく解りませんけれど、それはよかった…の、かな?
-fin-
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