「あら、まぁ、お二人とも、お疲れさまでした。とってもよかったです」
 私の乱入なんてことはありましたけれど無事に収録も終わって、ブースに入ってきた如月さんが声をかけてくださいました。
「あっ、睦月さん、ありがとうございます」「ありがとうございます」
 二人揃って頭を下げます…けれど。
「でもでも、麻美がくるなんて、全然全然聞いてなかったんですけど…睦月さんは知っていたんですか?」
 夏梛ちゃんは少し不満げな様子にも見えちゃいます?
「ええ、はい〜。麻美ちゃんがこっちにきたことを聞きまして、色々相談に乗ってあげていたんですよ?」
「そ、そうなんですか…それでそれで、麻美はさみしいさみしいからこっちにきたんです? 他にやらなきゃいけないこともあったって思うんですけど…」
 はぅ、この間みたいなことになっていないか、って心配されてるのかな…?
 ですから、先日まで私なりにしっかり練習をしてきたこと、それにいくつかオーディションを受けるためにその選定を行っていたこととか、そのうえでさみしさが抑えられずにきちゃったことを説明します。
「えと、それでも…きちゃ、ダメだったかな…?」
 美亜さんにああ言われてから勢いでここまできちゃいましたけれど、練習の時間とかを短くしちゃったのは確かですし…ちょっと不安になっちゃいます。
「全く全く…そんなこと、ないです。麻美も頑張ったみたいですし、それにそれに…私だって、麻美に会えなくって、その、さみしかったんですから…」
 そんな私に、彼女は顔を赤らめながらそう言って…もう我慢できません。
「うん、夏梛ちゃん…大好きっ」
「…むぎゅっ! は、はわはわ、ちょっ、あ、麻美っ?」
 もう想いが抑えられなくなって、夏梛ちゃんをぎゅっと抱きしめてしまいました。
 はぅ、久しぶりの夏梛ちゃんのぬくもり…心がほわんとしてしまいます。
「あぅあぅ、あ、麻美、その…む、睦月さんたちの前ですよ?」
「…あ」
 恥ずかしげな夏梛ちゃんに指摘されるまで他の人の存在を忘れていて…はっとして彼女から離れます。
「あら、まぁ、お気になさらなくっても大丈夫ですのに」
 そんな私たちを如月さんなどは微笑ましげに見ていまして、さすがに少し恥ずかしいかも…。
「ま、全く全く、とにかくとにかく、会いにきてくれるのは嬉しいですけど、ちゃんとくるって教えて教えてくださいね?」
「えぇ〜っ、でも、びっくりさせたかったんだもん」
「で、でもでも、私は麻美に隠し事はしてもらいたくないですっ」
 はぅ、そう言われると…返す言葉がありません。
「う、うん、でも、夏梛ちゃんも隠し事とかしないでね?」
「そ、そんなのそんなの当然当然です」
 …うん、夏梛ちゃんのその約束がもらえただけでも十分かも。
「あら、まぁ、でも、予定になかった麻美ちゃんの登場でもちゃんとラジオは進行できていましたし、お二人はやっぱり息もぴったりですね。これはいずれ、お二人が一緒にパーソナリティをする番組を作ってもいいかもしれません」
 と、如月さんがそんなことをおっしゃって…私たち二人のラジオ番組だなんて、とっても素敵です。
 それを実現するには…夏梛ちゃんはすでにこうして単独で番組を持てるんですから、私が頑張らなくてはいけませんよね。
「では、今日はお二人とも、お疲れさまでした。明日からはユニットのお仕事がありますし、ゆっくり休んでくださいね」
 うん、夏梛ちゃんと一緒にお仕事…しっかり頑張らなきゃ。
「そうそう、今日からお二人は二人部屋にしておきましたから、一緒にお休みしてくださいね」
「…えっ?」
 と、続けてのその言葉に、私も夏梛ちゃんも固まってしまいました。

「え、えっと、夏梛ちゃん…ふ、不束者ではございますけど、よろしくお願いします、ね…?」
「で、ですです、こ、こちらこそよろしくよろしくお願いします…」
 夕ごはんも食べて、そしてホテルの今日泊まるお部屋へきたのですけれど、そこへ入った私も夏梛ちゃんも、ものすごく緊張した様子…どきどきが収まりません。
 それも当たり前のことで、今日は私と夏梛ちゃん、一緒のお部屋でお休みするんです…こんなこと、これがはじめてなんですから。
 しかも、そのお部屋…二人部屋だとはいっても、ベッドは大きめのダブルベッドが一つあるだけなんです。
 つまり、彼女と一緒のお布団でお休みするわけで…こ、恋人同士なんですから何もおかしくはないんですけど、やっぱりものすごく緊張しちゃいます。
「え、えとえと、ま、まずはお風呂に入ったらどうです?」
 そんな中、まず口を開いたのは夏梛ちゃんでした。
「あ、えと、そ、そうだね。それじゃ、夏梛ちゃんのほうが今日まで忙しかったんだし、先にゆっくり入ってきていいよ?」
「そんなのそんなの関係関係ありません。麻美がお先に入っていいですよ?」
「ううん、そんな、やっぱり夏梛ちゃんが…」
 しばらくそうしてお互いに譲り合っちゃって…何だかおかしいですよね。
「もう、夏梛ちゃんったら…」
「全く全く、麻美こそ…」
 お互いに微笑み合って、そうしているとさっきまでの緊張は消えていき、代わりに愛しい人と二人きりだという幸せな気持ちが増してきました。
 結局、お風呂は夏梛ちゃんに先に入ってもらいました…一緒に入る、についてはまだちょっと心の準備ができていないこともあって、今回はやめておきました。
「わぁ…夏梛ちゃんのパジャマ姿、かわいいっ」
「むぎゅっ…はわはわっ、そ、そんなことより、麻美もはやくはやくお風呂に入ってくださいっ」
 だって、彼女のパジャマ姿を見ただけでもぎゅってしたい衝動に負けちゃったんですから…一緒にお風呂になんて入ったりしたら、気絶しちゃったりするかもしれません。
 私もお風呂に入って、その後は久し振りに夏梛ちゃんと二人でゆっくりできるんです…ベッドの端に座って、色々お話しをしました。
 夏梛ちゃんのこちらでのお仕事のことを聞かせてもらったり、逆に私がどう過ごしていたのか話してあげたり…。
「麻美ってきちんときちんとお知り合いができていたんですね…意外意外です」
「わっ、それってちょっと失礼かも」
 美亜さんのことを話すとそんなこと言われちゃって…でも私ってかなり人見知りですからそう思われても仕方ないかもしれません。
 でも、今度一緒にあの喫茶店へいってくれる、って約束できましたし、よかった。
「美亜さんが、離れ離れで夏梛ちゃんもさみしいのを我慢できなくなってるかも、って言ってたんだけど…夏梛ちゃんも、私と会えなくってそれくらいさみしかった?」
「そ、そんなのそんなの…き、昨日、見ちゃったんですよね?」
 美亜さんの話題が出ましたのでふとたずねてみた言葉に、彼女は顔を真っ赤にして…あの光景を思い出した私も赤くなっちゃいます。
「で、ですからですから…あ、麻美が会いにきてくれて、とってもとっても嬉しかったんですっ」
「夏梛、ちゃん…うん、私も、ちょっとでもはやく夏梛ちゃんに会いにきて、よかった…」
 私を見つめて、素直な言葉を伝えてくれる夏梛ちゃん…とっても愛しくって、ぎゅって抱き寄せちゃいます。
「あぅあぅ…そ、それって、あ、あんな私を見られたからですかっ…?」
「ううん、大好きな人と、少しでも長く一緒の時間を過ごせるから、だよ…?」
「はぅ、麻美…」
 夏梛ちゃんも私に身を寄せてきて…ベッドに身体を倒しちゃいます。
「夏梛ちゃん…今日までお仕事、本当にお疲れさま」
 すぐ目の前にいる、誰よりも愛しい人…そう声をかけながら、やさしく頭をなでます。
「あぅ…麻美こそ、練習とかしっかりしっかり頑張ったみたいで、えらいえらいです」
 夏梛ちゃんからも、私の頭をなでてくれて…もう、心の中は幸せでいっぱいです。
「明日からは一緒にお仕事だね…私、頑張るよ」
「はいです…でもでも、無理はしないでくださいね? それとそれと、そのお仕事が終わったら…ちょっとちょっと予定が空きますし、えとえと…」
「…夏梛ちゃん?」
「そのその、二人で一緒に…どこか行きましょう。どこでもどこでも、麻美と一緒でしたら…」
「…わぁ、夏梛ちゃんっ」
「むぎゅっ」
 夏梛ちゃんからのデートのお誘い…とっても嬉しくって、また彼女をぎゅっと抱きしめます。
「夏梛ちゃんとデート…どこがいいかな? うんうん、とっても楽しみ」
 どこへ行くにしても、二人一緒でしたら楽しいに決まってます。
「もうもう、浮かれるより、まずはまずは明日からのお仕事をしっかりしっかりしてくださいねっ?」
「うん、もちろん」
 デートも、お仕事も…大好きな彼女と一緒で、とっても楽しみで、頑張れます。
 でも、今は…そんな先のことよりも、すぐ目の前にいる愛しい人とのひとときを大切にしなきゃ…。
「夏梛ちゃん…大好き、だよ」
「も、もうもう、麻美ったら…わ、私も、です」
 見つめあう私たち、もう想いは抑えられなくって…目を閉じて、あつい口づけを交わすのでした。


    (第3章・完/第4章へ)

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