翌日…さっそく、思いついたことを如月さんに相談したところ、快諾を得られちゃいました。
 ですので夏梛ちゃんに会えるのは午後からになっちゃいましたけれど、それまでの間はお部屋で一人気持ちを落ち着けて、そのときがくるのを待ちました。
「うん…行こう」
 高鳴る気持ちはなかなか抑えられませんけれど、深呼吸をしてお部屋を後に…向かうのはとあるスタジオです。
 今日はそこで夏梛ちゃん個人として今回の東京での最後のお仕事が行われることになっていて、私はそこへお邪魔させてもらったわけです。
「あ、あの、私、石川麻美と申しますけれど、夏梛ちゃ…あっ、いえ、灯月さんの収録は…」
 受付でたずねてみますけれど…はぅ、緊張してしまいます。
 でも、これから先、一人で収録現場などへ行くことなんて普通にあるはずなわけですし、人見知りだなんて言っていられませんし、勇気を出さなくっても入れる様に慣れておかなきゃ…。
 と、ただ、その場はすでに如月さんから話が通じていて、割とすんなりと中へ、そして夏梛ちゃんが収録を行う現場へ通してもらうことができました。
「あら、麻美ちゃん、こんにちは。さっそくきましたね」
「あっ、はい、如月さん、こんにちは。さっそくこさせてもらっちゃいました」
 通してもらったスタジオには、お電話で色々協力をしてくださった如月さんの姿もあります。
「あの、こんにちは、石川麻美です。今日は突然のことでご迷惑をおかけいたしますけれど、よろしくお願いいたします」
 その場にはスタッフのかたがたもおりまして、すでに如月さんにお話を聞いていらしたみたいで笑顔で応対してくださいました。
 そして、夏梛ちゃんの姿はといえば…この場にはなくって、ガラス越しのブース内に相変わらずのゴスいおよーふく姿が確認できましたけれど、とっても集中した様子で、こちらには全く気づいていません。
 うん、ああしてお仕事に集中する夏梛ちゃんもとっても素敵でかわいいです。
「あら、まぁ、もうすぐに本番がはじまりますけれど、麻美ちゃんの心の準備はいいですか?」
 夏梛ちゃんに見とれそうになっていますと、如月さんに声をかけられて…いけません。
「あっ、えと、大丈夫です」
 本当はどきどきが収まらないんですけど、こうしてぎりぎりの時間にきたのは、夏梛ちゃんがブース内に入って集中しているときを見計らって…と、私が狙ってそうしたのですから、戸惑っているわけにはいきません。
「あら、まぁ、それじゃ、もうはじまりますから、よろしくお願いしますね」
 微笑みかけてくださる如月さんに小さくうなずきます。
「灯月夏梛のアリスティックラジオ! どうも、こんばんはっ。パーソナリティの灯月夏梛です」
 と、本番がはじまった様で、ブース内から彼女の元気な声が届いてきました。
 そう、今日は夏梛ちゃんのラジオ番組の収録なんです…デビューしてまだ間もないのにラジオ番組を持つなんて、とってもすごいですよね。
 そして、私がここにやってきた理由は…いけません、タイトルコールがはじまっちゃいましたし、急がなきゃ。
 大きく深呼吸をして、扉を開けてブース内へ入っちゃいますけれど、夏梛ちゃんは集中しているのかまだこちらに気づきません。
 ブース内には夏梛ちゃんしかおらず、扉を閉じると二人っきりの世界…うん、ここまできちゃったからには、ね。
「…どうも、こんにちはっ。アシスタント兼夏梛ちゃんのお嫁さんの石川麻美です」
「ふにゃっ!?」
 テーブル越しに向かい側に座りながら声を上げると、あの子はびくっとして固まっちゃいました。
 わっ、そんなにびっくりしちゃうなんて…でも、ようやく夏梛ちゃんと言葉を交わすことができて、嬉しいです。
「はっ、はじめまして?」
 と、まだ驚いた様子の彼女、そんなことを言います…?
「もうっ、夏梛ちゃんったら何言ってるの?」
「なっ、何で何で麻美がこんな場所に…!」
 あたふたしちゃうあの子ですけど、私はさっきまでの緊張とは別の気持ちに包まれていきます。
「えへへ、きちゃった」
「きちゃったって…もうもう」
 そう、こうして夏梛ちゃんと一緒にいて、そしてお話ししていると自然と幸せな気持ちになってきて、微笑んじゃいます。
「昨日の夜は、出るタイミングを逃しちゃったけど…」
「…へ?」
 夏梛ちゃん、一瞬きょとんとしますけれど、すぐ意味に気づいたみたいで顔が赤くなっていきます。
 そんな反応をされちゃったら…もう、隠しておくことなんてできませんよね。
「まさか、あんな激しい愛の告白を受けるなんて…」
 思い出しただけで、こっちまで赤くなっちゃいます。
「ちょっ、まっ、麻美っ! どういう…どういうことですか!」
「私、ずっとお部屋の陰に隠れてたんだよ?」
「なっ…えっ、ええっ!?」
 やっぱり全然気づいていなかったみたいで、顔を真っ赤にしてあたふたされちゃいました。
「もうっ、夏梛ちゃん、本番中だよ?」
 そんなあの子もやっぱりかわいくって、愛しい気持ちがあふれちゃいます。
「うふふっ…夏梛ちゃん」
 昨日見た、あの子の私への想い…私からも、伝えてあげなきゃ。
 …私も、大好きだよ?
 あの子を見つめて、そして口の動きだけでそう伝えて微笑みます。
 それが伝わったのか、あの子もまだ赤いながら笑顔でうなずいてくれて…うん、よかった。
「アリスティックラジオ、今日もスタートします!」
 二人で声を合わせて改めてタイトルコール…心も一つになった感じで、幸せです。

 夏梛ちゃんには内緒で、彼女のラジオ番組に突然お邪魔させてもらって。
 とってもびっくりしちゃった、でも嬉しそうでもあった彼女を見られて、私もとっても嬉しくなっちゃいます。
「私と夏梛ちゃんは一緒のゲームで声優デビューをして、それに同い年でもあるんです」
「ですです、それにそれに麻美とは二人でユニットを組んでまして…そちらのほうもよろしくです」
「あっ、でも、私たちはそれ以上に強い絆で結ばれた関係だけど…ね、夏梛ちゃん?」
「はわはわっ、そ、そんなそんな、えとえと…!」
 引き続き二人で進行させてもらっちゃいましたけれど、ブースには二人きりですし、収録だって解ってはいるもののとっても幸せな気分…私にとってはじめてのラジオ番組出演なんですけど、緊張することなく進められます。
「とにかくとにかく、せっかくこうして麻美がきてくれたんですし、私たちのユニットについてお話しましょう」
 うん、二人きりの世界に浸ってばかりだと聴いてくれてる人に失礼になっちゃうかもしれないし、二人共通の話題にしていったほうがいいよね。
 そんな私と夏梛ちゃんは二人でアイドルユニットを組んでまして、デビュー曲は私たちの声優としてのデビュー作でもあったあのゲームの主題歌で、あれは挿入歌も担当しています。
 までデビューして間もないですからイベント関係もあまり出ていなくって、ライブはこの間あの神社であった事務所のイベントでのものがはじめて。
 ユニット名は私と夏梛ちゃんの名前を重ねた『kasamina』です…少なくても、デビューから今までの間は。
「でもでも、ずっとずっと同じ名前、っていうのも面白くないですし、ときどきの気分気分で変えていこうかなって思ってます」
 夏梛ちゃんが言った通り、私たちのユニットはそうしていこう、ってなってます。
 ユニット名を覚えてもらえない、ということは出てきそうですけれど、新鮮味はありますし、私たち二人の名前を覚えてもらえれば、それが一番ですよね。
「そうですそうです、リスナーの皆さんに私たちのユニットの名前を考えてもらう、というのはどうでしょう?」
 夏梛ちゃんがそんなことを思いついてさっそく採用することになりましたけど…そうです。
「それなら、ここで夏梛ちゃんのニックネームを募集してみたらどうかな?」
「ニックネーム、ですか?」
「うん、ファンの皆さんが夏梛ちゃんを呼ぶときの…何かあったほうが、色々よさそうな気がして」
 私はもちろん「夏梛ちゃん」ってこれからも呼んでいきますけれど、夏梛ちゃんほどのアイドルも兼ねた声優さんなら、そういうものの一つくらいあったほうがこの先いいですよね。
 もう皆さん何かつけて呼んでいらっしゃるのかもしれませんけれど、そういう情報を集計する意味でもいい企画かなって思います。
「でしたらでしたら、麻美のニックネームも皆さんに考えてもらったらどうです?」
「…えっ、私の? でも、この番組は夏梛ちゃんのものですし、それに私なんかのを考えても仕方ない気がしちゃうんですけど…」
「もうもうっ、麻美は『なんか』じゃありませんっ。それにそれに、麻美はこの番組のアシスタントなんですから、全然全然いいんですよ?」
 あっ、そういえば冒頭でそんなことも言っちゃいましたっけ…お嫁さん、とも言っちゃいましたけれども。
 でも…これって、夏梛ちゃんが私のことを想ってくれているから、こう言ってくれているんですよね。
「…うん、ありがと、夏梛ちゃん」
 ですから、とっても嬉しくって、笑顔でうなずいたのでした。


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