長い口づけの後、夏梛ちゃんは真っ赤になって慌てふためいちゃいました…もちろん、そんな彼女もとってもかわいくって愛しいんです。
 私はもう少し余韻を味わっていたかったんですけど、彼女が慌てながらお稽古の再開を促しますから、それにうなずいて午後も一緒にお稽古です。
「あら、まあ、お疲れさまです。今日はたくさんお稽古をしたみたいですね」
 もうそろそろ終わりかな、という時間になって、如月さんがダンスルームへ姿を見せました。
 それから少し如月さんと今後の予定について打ち合わせを行いましたけれど、結局今日はお稽古の間、ほとんど誰もダンスルームにきませんでした…。
「うふふっ、今日は久し振りのお二人揃ってのお稽古でしたし、お二人の自主性にお任せしてみようかと思いまして。そのご様子ですと大丈夫でしたみたいですね」
 不思議に思っていますと、打ち合わせが終わったところで如月さんが微笑みながらそんなことを言ってきました。
 確かに昨日はあの後夏梛ちゃんに個別のお仕事があって一緒にいられませんでしたっけ…。
「この調子で、これからも二人仲良くされてくださいね。では、お疲れさまでした〜」
 そして、相変わらずの穏やかな様子でそうおっしゃられて如月さんは去っていきました。
 えっと、何でしょう、もしかして気を使われた、ということなのでしょうか…。
 でも、如月さんにもまだ私たちの関係は言っていませんし…もしかして、もうすでに見透かされちゃってます?
 ううん、そんなこと…きっとユニットや事務所の仲間としてもっと仲良くしてほしい、というだけのことで他意はありませんよね。
「…えとえと、それじゃ帰りましょうか」
「う、うん、そうだね、夏梛ちゃん」
 彼女もまた戸惑い気味ですけれど、こうしていても仕方ありませんし、事務所を後にしました。
 夏場ですから外はまだ暑いですけれど、でも日も傾いてきて少しは大丈夫になってきているでしょうか…そんな中、私たちは一緒に夕ごはんを食べに行くことにしました。
 その、恋人同士になったんですし、私のお家に呼んで料理を作ってもよかったんですけど、夏梛ちゃんを迎え入れる準備が何もできていませんから今日はやめておきました。
「…ねぇ、夏梛ちゃん。如月さん、私たちの関係…気づいてたり、するのかな?」
 二人でのんびり歩道を歩きながら、ふとそんなことをたずねます。
「えっ、そ、そんなそんなことはないと思いますけど…」
「う、うん、そうだよね…よかった」
 さっきのことがあって少し引っかかっちゃったんですけど、夏梛ちゃんがそう言うなら心配ないですよね。
「でもでも…私たちのこと、きちんときちんと如月さんにも説明しなきゃかもです」
「えっ、でもそんな…」
 彼女の言葉に言い返しそうになりましたけれど、でも思い直します。
 私と夏梛ちゃんは恋人同士、それにこれからもずっとそうでありたい…でしたら、それをずっと隠し続けるのはよくないことですし、また無理でもありそうです。
「確かに確かに、アイドルが恋愛するのはイメージダウンにつながりかねませんし、それにそれに女の子同士なんてなおさらなおさら理解されないかもですけど…でもでも、それでも私は麻美のことが、その、えとえと…」
 最後は恥ずかしそうに口ごもっちゃいましたけれど…うん、夏梛ちゃんも私と同じ気持ちですよね。
「…うん、私も夏梛ちゃんのこと、大好きだよ」
「はぅはぅ、あ、麻美…」
 そっと手をつなぐと、彼女からも繋ぎ返してくれました。
「これからもずっと一緒にいたいから…明日、如月さんに言ってみよ?」
 そして、私の言葉に顔を赤くしながらうなずいてくれたのでした。

 次の日、私と夏梛ちゃんは事務所のあるビルの前で待ち合わせをして、一緒に事務所へ向かいました。
 扉を開ける前に、大きく深呼吸をして…はぅ、オーディションを受けにはじめてここへきたときよりも緊張しているかもしれません。
「麻美…大丈夫、大丈夫です」
 すぐ隣にいて、私に声をかけてくれる夏梛ちゃん…そういえば、あのときも夏梛ちゃんと出会って緊張が和らいだのでした。
 彼女と出会ったおかげで、今こうしていられて…その彼女が一緒なんですから、今日もきっと大丈夫。
 意を決し、ゆっくり扉を開けて事務所の中へ入ります。
「あら、灯月さん、石川さん、おはようございます。今日はお二人ご一緒にいらしたんですね」
「あっ、えとえと、おはようございます」「お、おはようございます、如月さん…」
 事務所にはすでに如月さんがいらして挨拶を交わしますけれど…はぅ、やっぱり緊張します。
「まぁ、お二人とも、何だか緊張した様子に見えますけれど、どうかしましたか?」
 不思議そうに見られちゃいましたけれど、ちゃんと言わないと…。
「あ、あのあのっ、私たち、如月さんに言わなきゃいけないことがあって…」
 でも、私は声が出なくって、夏梛ちゃんが声をかけていきます。
「まぁ、何でしょうか?」
「え、えとえと、私たち…」
 さすがの夏梛ちゃんもちょっと緊張気味…そうですよね、場合によっては一緒にいられなくなるかもしれないですし、声優などの活動にも大きな影響が出てしまうかもしれないんですから。
 でも、私たちの想いは本物なんですし…私が、しっかりしなきゃ。
「あ、あの…私、夏梛ちゃんのことが好き、大好きなんですっ」
「…って、あ、麻美っ?」
 私の叫ぶかの様な声に彼女はびっくりしちゃいましたけれど…い、言っちゃいました。
「それで、私たち、お付き合いをしたくって、それをマネージャの如月さんにお伝えしたくって…」
「あら、まぁ…」
 勇気を使い切ってしまってどんどん小さくなっていく私の言葉に、さすがの如月さんも言葉がない様子、なのでしょうか…や、やっぱりおかしい、ですか…?
「あ、あのあの…わ、私も麻美のことが好きでそうしたいと思っているんですけど、ダメですか…?」
 夏梛ちゃん、それに私も、不安な気持ちに包まれながら、如月さんの言葉を待って…。
「あら、まぁ、ダメだなんて…そんなことありませんよ?」
 如月さん、いつもの笑顔でそうおっしゃいました…?
「えっ…如月、さん?」「ほ、本当本当、です?」
「ええ、本当ですよ。好き合っているお二人のお付き合いを止める理由は何もありませんし…よいお付き合いをしてくださいね」
 特に驚いたりすることもなくいつもの様子でそうおっしゃられるものですから、こちらが戸惑っちゃいます。
「あら、まぁ、お二人とも、どうしたんですか?」
 そんな私たちを見た如月さんは不思議そう…。
「え、えとえと…そ、そのその、全然全然驚かないんですね…」
「あら、まぁ、だって、灯月さんと石川さんがお互いのことを好き合っているなんて、ずいぶん前から解っていましたから。いつ告白されるのかと思っていましたけれど、よかったです」
 はぅ、ということは、昨日のあれもやっぱり気を使われたんですね…。
 しかもそんな、夏梛ちゃんから見て私の想いは丸解りだったみたいなのですけれど、まわりから見ると二人ともそうだったのです…?
「あぅあぅ…で、でもでも、今後の活動に問題問題とか、ありませんか…?」
「うふふっ、大丈夫だと思いますよ? 百合ップルとか、結構違和感なく受け入れられていますし…お二人が、その方向で先頭を目指すのもいいと思いますよ」
 さらに、もう一つの不安もそんな一言で解消しちゃいました。
 百合ップル…確かにそう呼ばれる声優さんたちもいたりしますけれど、私と夏梛ちゃんがそうなる…。
 …うん、悪くないかも。
「ですから、変に気にすることなく、お二人はお二人の思い描くよい関係を築いていけばいいと思いますよ」
 最後にそう言い残して、如月さんはその場を後にしてしまわれました。
 その場に残された私たち二人、思わず顔を見合わせて…そのまま、お互いに笑いあっちゃいます。
 だって、あんなに緊張しちゃったのに如月さんには全てお見通しだったみたいでそれがおかしかったり安心したり、はたまた嬉しかったりと色々な気持ちが混じりあっちゃって。
「えっと、夏梛ちゃん、これからもよろしくね…そして、一番の百合ップルを目指そっ」
「はいです、こちらこそ…って、はわはわ、そ、そんなそんな恥ずかしいものは目指さなくってもいいですっ」
 真っ赤になって慌てる彼女はやっぱりとってもかわいくって、何より愛しい存在。
 如月さんに解ってもらえても、他のかたがたはどうなのかなどまだ色々問題はありますけれど、これからもずっと、夏梛ちゃんと一緒に幸せでいたい…その想いは一緒ですし、私たちでしたら大丈夫、ですよね。


    (第1章・完/第2章へ)

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