そうして、午前中は夏梛ちゃんとユニットとしてのお稽古をして。
 私たちのユニットはアイドル系で…私がアイドルだなんてとっても不思議な感覚ですけれど、元々は夏梛ちゃん一人でのデビュー予定で、彼女は歌も踊りもとっても上手な上にあんなにかわいいのですから、彼女がアイドルだというのはとってもよく解りますよね。
「麻美もなかなか動きがよくなってきました。これでしたら本番も、あんまりあんまり緊張しすぎなければ大丈夫大丈夫だって思います」
「わぁ、そうかな…ありがと、夏梛ちゃん」
「べ、別に別に…」
 想いが一緒だっていうことが解っても、夏梛ちゃんはやっぱりちょっと素直じゃないみたい…でも、そんなところもやっぱりかわいいんです。
「…夏梛ちゃん、大好きっ」
「はわはわっ…も、もうもうっ、何するんですっ」
 かわいすぎて、想いが抑えられなくなって思わず抱きしめちゃいます。
「うふふっ、ごめんね、がまんできなくって」
「全く全く…あ、麻美は素直になりすぎですっ」
 ゆっくり身体を離すと赤い顔でぷいっとされちゃいますけど、さっき私が夏梛ちゃんのこと素直じゃないって思ったこと、読まれちゃったのかな…昨日解ったんだけど、夏梛ちゃんは私の考えていることがすぐ解っちゃうみたいだし。
「そ、それはそうと、もうお昼過ぎみたいです」
「え…あっ、本当だね」
 話をそらされちゃった感じですけれど、言われてみると確かにもうそんな時間。
「麻美にしてはずいぶんずいぶん集中集中してお稽古できましたね」
「うん、だって少しでも頑張って、夏梛ちゃんの足を引っ張らない様にしなきゃいけないから」
「そ、そうですか、その調子で頑張ってくださいね」
「うん、夏梛ちゃん」
 声優としてはもちろん、歌やダンスも本当にまだまだ…でも、私からお願いして二人のユニットにしてもらったんですし、そんなことは言っていられません。
「それじゃ、そろそろお昼ごはんにしましょう」
「うん、私、今日もお弁当作ってきてるよ」
 朝はあんなに慌てて出てきちゃいましたけど、それでもこれはちゃんと用意してきていました。
 だって、私の手料理を彼女に食べてもらえるなんて、とっても幸せなことですから…と。
「…そういえば、今日ってほとんど誰もここにこない様な…」
「あっ、そう言われてみればそんなそんな気がします。朝の山城さんと、あとはあとは如月さんがちょっと様子を見にきたくらいです」
 夏梛ちゃんの言葉のとおりで、その如月さんにしても少し様子を見ただけで頑張ってくださいね、と言って出ていっちゃいました。
 今日はここを使っていいことになっていますけれど、ここまで自由にお稽古させてもらったりして、かえって不気味に感じられるかも…ううん、そんなおかしな風にとらえちゃいけませんよね。
「お昼ごはん、今日はこのままここで、二人で食べよ?」
「えっ、でもでも、如月さんたち…は、こんなこんな時間ですし、もう終わらせているかもですよね」
 うん、もう午後一時を過ぎていますし、それに今日は夏梛ちゃんと特に二人きりでお弁当を食べたくってあんな提案をしてみて…彼女もうなずいてくれました。
「うん、それじゃ…すぐに用意するね」
 持ってきたお弁当を広いダンスルームの端に広げて、そこに夏梛ちゃんと二人で座ります。
 このまま食べてもらってもいいんですけど、その…私たちって、もう恋人同士っていうことで、いいんですよね。
 だったら…。
「えっと、夏梛ちゃん、私が…食べさせてあげるね?」
「…はわはわっ? そっ、そんなそんなこと、しなくっても大丈夫大丈夫ですっ!」
 私の提案に、彼女は顔を真っ赤にしちゃって…もう、かわいいんだから。
「他に誰もいないですし…ダメ?」
 本当はこのままぎゅってしてしまいたい気持ちを何とか抑えながら見つめてみます。
「…も、もうもうっ、しょうがないんですから」
 私の視線を避ける様に少しうつむいてしまいながらも、彼女はそう言ってくれました。
「…わぁ、ありがと、夏梛ちゃんっ」
「はわはわっ、だ、抱きつこうとしないでくださいっ。それよりそれより、食べさせてくれるんですよねっ?」
「うん、夏梛ちゃん」
「全く全く…そんな嬉しそうにしなくっても…」
 そんなこと言われても、とっても嬉しいんですから仕方ありません。
 思わず抱きしめたくなるのをこらえて、でもすぐ隣にまで寄ります。
「はい、それじゃ夏梛ちゃん…あ〜ん?」
「え、えとえと…あ、あ〜ん…」
 私が端につまんだおかずを夏梛ちゃんの口元へ運んでいくと、彼女はとっても恥ずかしそうにしながらも口を開いて、そしておかずを食べてくれます。
「夏梛ちゃん、どうかな…おいしい?」
「もきゅもきゅ…え、えとえと、その、わ、悪くはないですね…」
「うん、ありがと、夏梛ちゃん」
 あんなことを言いながらもおいしそうに、それにかわいらしく食べてくれる夏梛ちゃんに、私の頬は思わず緩んじゃうのでした。

 私もちゃんとお昼ごはんを食べたほうがいい、ということで結局最後には普通に食べることになっちゃいました。
 夏梛ちゃんからも食べさせてもらいたかったのに、残念…でも、とってもおいしそうに食べてくれましたし、それにはとっても満足。
「ところでところで、麻美はどうしてどうして昨日のことを夢だった、なんて思っちゃったんです?」
 食後、お茶を口にしてくつろいでいると、夏梛ちゃんがそうたずねてきます。
 もしかして怒ってるのかな、とも思っちゃいましたけれどそうではなくって、純粋に気になっちゃったみたい…ですから、あの夢の内容を説明します。
「なるほどなるほどです、そんなそんな夢を見たんですね…」
 それを聞いた彼女、呆れたりすることなくうなずいてくれました…けれど。
「でもでも、麻美が演じた子…綾子さんって、主人公に恋とかしてましたっけ?  少なくても、作中にはそういう描写は特になかったなかったって思うんですけど」
 同時に首を傾げられちゃいました。
「う〜ん、確かに作中ではサブキャラで個別ルートとかありませんでしたから…でもでも、ずっと響子さんのそばにいて彼女のことを見守り続けた綾子さんは、言い出せないながらも想いを秘めていたんじゃないかなって、私は思うの」
「まぁ、あのゲームをしてますとその子の声がとってもとっても切なそうに聞こえたりもしたんですけど、あれは麻美が私への想いを重ねちゃってるだけかって思っちゃってました」
「はぅ、それもないことはないんだけど、でもやっぱりあの子も私と同じ想いを彼女に秘めているんじゃないかなって、私は思うの」
「まぁ、はじめて演じた役ですし、それにそれに想いが本当本当にそうでもそうでなくっても、他にも色々色々麻美に似てる子でしたから、自分に重ね合わせちゃってそんな夢まで見ちゃうのも仕方ないかもですね」
 私たちが話しているのは、私たちの声優としてのデビュー作になるゲーム作品について…私たちがユニットとして主題歌も歌った作品で、さらにこの作品のオーディションで私たちはデビューすることができましたし、そしてゲーム自体の内容も私の好きなテーマ、つまり百合を主題にしたものでしたりしますから、とっても思い入れのある作品です。
 そのなかで、夏梛ちゃんは主人公の佐倉響子さん役、私はサブキャラで個別ルートのない桃井綾子さん役を演じました…そう、先日の夢はこのゲームの中の一シーンを、私が演じた子視点で見たものだったのです。
 綾子さんについて、私は響子さんへ片想いをしているって感じていたりして、夏梛ちゃんの言うとおり色々自分と重ね合わせちゃってたんですけど…。
「でもでも、麻美はその子と違って、そのその…か、片想いなんかじゃないんですから、もう余計な余計な心配はしないでくださいねっ?」
 顔を赤くしてそんなことを言ってくれる彼女の言葉どおり…うん、私たちは想いが通じ合ったんですよね。
「うん、夏梛ちゃん…ありがとっ」
「はわはわっ、も、もうもう、麻美ったら…!」
 嬉しさのあまり思わず抱きついてしまって、彼女も慌ててしまいながらも特に抵抗などはしてきませんでした。
 はぅ、やっぱりこうしていると心の中がふわふわしてきます…とっても幸せです。
「夏梛ちゃん、大好き…」
「え、えとえと…わ、私も、です…」
 間近で彼女を見つめて、胸の高鳴りがどんどん大きくなっていきます。
「夏梛、ちゃん…」
「麻美…」
 その距離も自然と縮まっていって、そしてお互いに目を閉じて…そのまま、唇を重ねあいます。
 夏梛ちゃんとの、あつい口づけ…もうとろけてしまいそうで、ずっとこうしていたいです…。


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