毎週一回、深夜の一時から私と夏梛ちゃんの二人が出演するラジオ番組が放送されています。
それは新人の声優にしてはとっても贅沢なことなのですけれど、夏梛ちゃんはすでにとっても人気がありますから…私も、一緒にユニットを組んでいるということで出演させてもらっています。
「もきゅもきゅ、今日もはじまりました、『アサミーナとかなさまのあさ・かなRadio』、パーソナリティを務めますのは『カナカナ』こと灯月夏梛と…」
「『アサミーナ』こと石川麻美です」
生放送でお送りしているこの番組名は私が考えたんです。
でも、本当は『かなさまとアサミーナの』だったんですけれど、語呂がって夏梛ちゃんが逆にしちゃいました…私の名前のほうが前だなんて本当にいいのかな、なんて思っちゃいますけれど。
「う〜ん、麻美、放送がはじまってもう二ヶ月になりますし、そろそろ番組の出だしを変えませんか?」
「えっ、そんな、たいやきを食べる夏梛ちゃん、とってもかわいいのに…」
そう、番組のはじめは、私の提案でそうしてもらっちゃってるんです。
「番組に寄せられるお便りでも、とっても好評みたいなんだよ?」
「もうもう、ちょっと恥ずかしいですけど…」
私と夏梛ちゃん、普段とあまり変わらない感じでしゃべっていきます…スタッフさんからもこんな感じでいいって言われてますし、変に台本を用意したりするよりかえって気楽です。
「えとえと、まずは、皆さんから寄せられたお便りを見ていきましょう…たくさんたくさんのお便り、ありがとうございます」
「うん、ありがとうございます」
机の上に用意されたお便りを手にするのは私…基本的には私がお便りを読む役になっています。
「えっと、はじめのお便りはペンネーム・あやちゃんさんから」
「麻美、そのペンネームにさん付けをするのはちょっとちょっとおかしくないですか?」
「う〜ん、そうかな? それで、内容は…あっ、夏梛ちゃんへの質問だよ。『かなさまはどうして単語を二回繰り返すのですか?』だって…そういえば、そうだよね。私も気になっていたんだけど、かわいいから何も言わないでおいたんだっけ…どうしてなのかな?」
「えっ、そんなのそんなの、特に理由はありません…自然とそうなっちゃうだけです」
「う〜ん、普通の答えだね…」
「もうもう、そんなのそんなの当たり前ですっ」
もう、相変わらず夏梛ちゃんはかわいいなぁ…放送を忘れてぎゅってしたくなっちゃいます。
リスナーの皆さんにもそれは伝わっているらしくって、ただお便りを紹介しているだけにも関わらず、私たちのやり取りはなかなか好評みたいなんです。
「じゃあ、次のお便りはペンネーム・かなさま大好きさんから…私のほうがずっと夏梛ちゃんのことを大好きなんですからね?」
「いや、リスナーのかたに張り合わないでください、麻美」
「はぅ、ごめんね?」
でも、誰が相手でも私が一番夏梛ちゃんのことを好き、というのは譲れません。
「えっと、それではお便りのほうは…あっ、私たちの休日の過ごしかたについてたずねてきてるよ?」
「休日ですか…私はお散歩したり、のんびりのんびりしています」
「でも、外を歩くのは気をつけてね、夏梛ちゃん…夏梛ちゃんのおよーふくはとっても目立っちゃいますし、有名人なんだから」
「そ、そんなの、心配心配しなくっても大丈夫です。およーふくだって、麻美が選んでくれたものなんですし…」
「理由になってない気もするけど…でも、嬉しいな。もちろん、私がいつも着せ替えをしてあげてるんだよ」
「はわ、はわっ、そ、そんなそんなことは言わなくってもいいですから…!」
また夏梛ちゃんが赤くなっちゃった…うふふっ、本当のことなのに。
「そ、それよりそれより、麻美のほうはどうなんですか?」
「どう、って…あっ、休日の過ごしかた? もう、一緒に暮らしてるんだから、そんなこと聞かなくっても解るよね?」
「はわっ、もうもう、そんなこと言って…あ、麻美のバカバカっ」
もう、夏梛ちゃんは恥ずかしがりやさんなんだから。
「と、とにかくとにかく、麻美もちゃんとちゃんと答えてくださいっ」
「もう、しょうがないなぁ…夏梛ちゃんと一緒にお散歩したり、あとはお家で夏梛ちゃんの出てるアニメを観たりゲームをしたりと、こんなところかな?」
後者は夏梛ちゃんがお仕事でいないときにさみしくって、という場合に多いでしょうか。
「あとは、夏梛ちゃんに着てもらうゴスいおよーふくを買いにいったり…」
「な、何だか何だか私のことばっかりで恥ずかしくなってきました…も、もういいですから、次のお便りにいきましょう」
「もう、しょうがないなぁ…」
…って、何だかこればかり言っている気もしますけれど、気にしないでおきましょう。
「今日最後のお便りは、ペンネーム・みーささんから…いつもお便りありがとうございます」
このペンネームのかたからは毎週お便りが届いているんですけれど、もしかしなくても藤枝美紗さん、でしょうか。
「えっと、内容のほうは…私や夏梛ちゃんはクリスマスや年末年始をどう過ごすのか聞いてきてるよ?」
「そういえば、もうそんな時期が近づいてるんですね…はやいはやいです」
本当にそうですよね、夏梛ちゃんとのはじめての出会いからもう一年がたとうとしているなんて…こうして一緒に過ごせる様になったのは春からになりますけれど、とにかくはやいものです。
「年末は三十一日までお仕事がありますから、そちらですね」
「でも、その後の予定はないし、クリスマスも含めて夏梛ちゃんとのんびりできるね」
「はわはわ、そ、そうですけど…!」
「…あれっ、もしかして夏梛ちゃんは嫌なの?」
「そ、そんなことありませんっ。わ、私だって、麻美と一緒にいられるのはとってもとっても嬉しいんですからっ」
「うん、よかった…夏梛ちゃん、大好き」
「も、もうもう、麻美、放送中だっていうのに…!」
うふふっ、顔を真っ赤にしたりして、とってもかわいいです…彼女と一緒に過ごす冬も楽しみです。
それに、この放送だって、私たちがラブラブなところが人気だっていうんですから…あ、でも、ああやって恥ずかしがる夏梛ちゃんも好評みたいなんですけれど。
「と、とにかくとにかく、最後は私たちの歌で締めましょう」
最後はスタジオ内に用意された小さなステージに立って、ユニットの歌を披露して無事に放送終了です。
その頃には眠気なんてどこかへいっていて、あるのは幸せな気持ちばかり…うん、来週も頑張ろうね、夏梛ちゃん。
-fin-
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