私たちの分だけじゃなくって事務所の皆さんのお守りも受け取って。
 久しぶりにお会いできた松永さんともう少しお話ししたい気持ちもありましたけれど、夏梛ちゃんの言う通りお仕事のお邪魔をしてはいけませんから、お互いにまたお会いできるのを楽しみにしてお別れしました。
「やっぱりやっぱり、麻美の地元だけあってお知り合いによくお会いします」
「うん、私ってほとんど知り合いなんていないはずなんだけど…」
 ここでさらにあの子にお会いしたりしたらすごい偶然なんだけど、さすがにそんなことは…。
「…あっ、アサミーナ先輩とかなさまだ〜。やっぱりきてたんだねっ」
 と、背後からまさにそのとき思い浮かべた子の声が聞こえました?
 振り向くと、石段のほうから一人の…夏梛ちゃんよりも小さな女の子が駆けてくるのが目に留まります。
 …わっ、まさか本当に、しかもその子のことを考えた瞬間に登場するなんて、すごい偶然です。
「アサミーナ先輩、それにかなさまもあけましておめでとうございます、だよ〜」
 私たちのそばで足を止めて笑顔で挨拶してくださるのは、一見小学生くらいにも見える女の子。
「はい、あけましておめでとうございます、藤枝さん」「ですです、あけましておめでとうございます」
 その子は藤枝美紗さんといって、私より一つ年下、ですので高校三年生なかた…先ほどの松永さんと同じく、私にとって学生時代に親しくしていただいた数少ないかたのお一人。
「アサミーナ先輩、もしかしてみーさがここのこと教えたからきてくれたのかな〜?」
「はい、でも昨年…あの学園祭ライブの次の日にもきましたから、これで二回めなんです」
「わっ、そうだったんだ〜。でもやっぱりアサミーナ先輩とかなさまならここにこられるよね〜、うんうん」
 そう、この神社のことは私が学生でした頃に彼女から教えてもらっていたのですけれど…?
「あの、藤枝さん?」「今のって、どういうどういうことです?」
「お二人とも、どうしたの〜?」
 お互いに首をかしげることになっちゃいました…と。
「もう、美紗ちゃんったら、はやいわね…あら」
 藤枝さんの後ろから誰かの声が届きましたけれど、今のは…。
「麻美ちゃん、それに夏梛ちゃんも、あけましておめでとう。ここで会えるなんて嬉しいわ」
 藤枝さんの隣にやってきてそう声をかけてくるのは、背はあまり高くはないもののお姉さんといった雰囲気を感じさせる女のかた。
「あっ、はい、あけましておめでとうございます、美亜さん」「ですです、美亜さんもこちらにきていらしたんですか」
「ええ、お正月だもの、美紗ちゃんに会いに、ね」
 そのかた、藤枝美亜さんは私たちが暮らしている町にある喫茶店で店員さんをしている大学生のかたなんですけど、美紗さんの姉でもあるんです。
「麻美ちゃんも里帰りかしら? 二人とも、着物姿も素敵ね」「うん、かなさまのそういう服装って珍しいけど、よく似合ってるよ〜」
「えとえと、ありがとうございます」「うん、夏梛ちゃん、普段のゴスいおよーふく姿もとってもかわいいけど、着物姿も新鮮でいいですよね」
 うんうん、やっぱり晴れ着を用意しておいてよかった。
「あら、麻美ちゃんもとってもよく似合っているわよ?」「うんうん、とっても素敵だよ〜」
「えっ、あの、その…あ、ありがとうございます。でも、美亜さんのほうがお似合いになると思うんですけど、着てこられなかったんですね…」
「あら、そうかしら? でも、私はもうすぐ別に着る機会があるし、それに……やっぱり、見ているほうが好きだもの」
 他に着る機会、って…何かあるんでしょうか。
「新年早々に麻美ちゃんと夏梛ちゃん、しかも着物姿な二人に会えるなんて、やっぱり今年も帰ってきて、そしてここにきてよかったわ」「うんうん、今年もいいものが見られて嬉しいよ〜」
 お二人は姉妹揃って仲のいい女の子同士を見るのが好きですから、私と夏梛ちゃんを見て幸せそうにしているのは解るんですけど…。
「えとえと、美亜さん、それに妹さんも、毎年毎年ここにきてるんです?」「それは普通の初詣かも…ですけど、今年もいいものが見られた、っていうことは、毎年ここで私たちみたいな人が見られるんですか?」
 さっきのお二人の言葉が引っかかっちゃって、二人でそう訊ねちゃいました。
「ええ、だってここはそういう場所だもの」
「そういう場所、ですか…? 確かに、藤枝さんにはここは百合な恋愛に御利益があるって聞いてますから、そういう人たちがきやすい、のかな…?」
 実際、私はそういう理由で夏梛ちゃんと一緒にここへきてみたわけですし…。
「きやすい、っていうより、ここはそういう人しかこないんだよ〜」「ええ、だからここにくるととっても幸せな気持ちになるわね」
「えっ、あの、それって…?」「えとえと…もしかして、ここにはその、そういう関係の人しかこれないこれない、ってことです…?」
「うん、そうだよ〜。まわりを見てみても解るよね〜」「あっ、でも、片想いの子でもこれるわよ? 幸せになってくれるといいわね」
 その言葉に思わずまわりを見回しますけど、さっきよりは少し増えている参拝者は皆さん女のかたに見えます。
 中には見知った人…学園祭ライブで私たちの前に歌っていた今の生徒会長さん、それに私が学生寮まで案内をしたことのある長い金髪な外国人のかたもいらっしゃいましたけれど、そのお二方を含めて誰かと、それもやっぱり女のかたと一緒にいる姿が目立ちます。
 でもそんな、お二人のお話からするとそういう…百合な恋愛をしたりしていない人はそもそもくることもできない、ということとか、そんなことってあるのでしょうか。
 う〜ん、普通はあり得ないことですけど、ただ美亜さんのお店もなぜかそれに近いことになっている気がしますし、それにここの何だか不思議と落ち着く空気を感じているとそういうこともあるのかな、って思えてきます。
「…あれっ? じゃあ、藤枝さんと美亜さんは…」
「うふふっ、私と美紗ちゃんは百合を愛しているからくることができているのかもしれないわね」
 悪戯っぽく微笑まれましたけれど、お二人ならそれもあり得そうって感じるのでした。

「う〜んう〜ん、思ったよりたくさんたくさんの人にお会いしましたね」
 藤枝さんたちとお別れした後も咲夜さんと綾瀬先生にお会いしたりして、一息ついたところで夏梛ちゃんがそう言ってきます。
 今日の初詣は特に誰かと約束をしたりしていたわけではないんですけど、すごい偶然…ううん、もしかするとやっぱりこの場所に特殊な力があって、なのかもしれません。
「うん、それに皆さん、想い合うかたとご一緒で…これからも幸せでいてもらいたいよね」
「ですです」
 そんな皆さんのことを思い返すと、私たちをつなぐ手も自然とぎゅってしちゃいます。
「もちろん、私たちも…皆さんに負けないくらい、幸せになろうね」
「うぅ…ですです」
 あ、夏梛ちゃんが赤くなっちゃった。
「これからもずっと、一緒に、幸せに…夏梛ちゃん、私と一緒に暮らしてくれるんだよね?」
「はぅ、それは…で、ですです。約束、約束しましたから」
 そう、クリスマスの日、彼女はそう約束をしてくれたんです。
「少し少し準備に時間がかかるかもですけど、待ってて待っててください」
「うん、夏梛ちゃん…とっても楽しみ」
 そうして二人で初の日の出を拝みますけれど、私の気持ちはその空みたいに晴れやかで…うん、今年も夏梛ちゃんと一緒にいい一年にしていけるといいな。


    (第2章・完)

ページ→1/1/2/3/4

物語topへ戻る