あんまりお仕事のお邪魔をするのもいけませんから、それからはおみくじを引いて、そしてお守りを受け取ってお二人と別れます。
「私たちのこと、あんなに応援してくれて…これからも頑張らなきゃ」「ですです」
 別れ際もとっても名残惜しんでくれましたし、私にあそこまで応援してくださるファンがいてくれるなんてやっぱり自分で少し驚いてしまうんですけど、励みになりますよね。
「声のお仕事のほうだけじゃなくって、私と夏梛ちゃんの関係についても応援してくれたし…こっちも期待に応えられる様に頑張ろうね」
「ですです…って、はわはわっ、それは…!」
 あっ、夏梛ちゃんったらまた赤くなっちゃった。
「あれっ、夏梛ちゃんったら、どうしたの?」
「べ、別に別に…それよりそれより、はやくはやくおみくじを開いて開いてみましょう!」
「うん、そうだね、夏梛ちゃん」
 慌てちゃうあの子はやっぱりかわいくってぎゅってしたくなるのですけれどその気持ちを何とか抑えて、さっき引かせてもらったおみくじを開いてみます。
「えっと…あっ、大吉」
「ですです、私も大吉です」
 同時におみくじを開いてみてそう声をあげます。
「うふふっ、夏梛ちゃんと一緒だなんて、大吉っていうことより嬉しいかも」
「も、もうもうっ、そこは大吉だってことを喜んで喜んでくださいっ」
「うん、そうだね、夏梛ちゃん。私も、夏梛ちゃんも、今年はいい年になりそう」
「…今年は、です?」
「あっ…ううん、去年もいい年だったし、夏梛ちゃんと一緒なら来年も、その先もいい年になるよね」
「で、ですです、解ってるならいいんです」
 顔を赤くしちゃう彼女ですけれど、私が微笑みかけると微笑み返してくれました。
 うんうん、こうして夏梛ちゃんと一緒に初詣をしてる、これだけで大吉です。
「それじゃ、おみくじは、えっと…あっ、あっちの木の枝に結べばいいね。夏梛ちゃん、届く?」
「むぅ〜っ、失礼失礼です! あのくらい、届く届くに決まって決まってます!」
 でも、いざ結ぼうとするとちょっと背伸びをしたりして…そんな彼女も微笑ましいです。
「むぅ〜っ、麻美ったら、何を笑って笑ってるんです?」
「ううん、ただ夏梛ちゃんはやっぱりかわいいなって」
「やっぱりやっぱり、失礼失礼なことを考えられてた気がするんですけど…」
 そうしてふくれちゃう彼女もやっぱりかわいいのでした。

「ほら、さっさと準備しなさいよね?」「はぅ、解ってますけど…どうして私がこんなことしてるんでしょう…」
 おみくじも結んでこれからどうしよう、と考えていると少し離れたところからそんな会話が耳に届きました。
「…あれっ? この声って…」
「麻美ったら、どうかどうかしました?」
「うん、今、聞き覚えのある声が…」
 声のしたほうを見てみると、社殿の奥にある建物から出てきたと思われる二人の女のかたの姿が目に留まります。
「ヘッドが自分から手伝いたいって言ってきたんでしょ?」「そ、そうでしたっけ…まぁいいんですけど」
 巫女さんの服を着たそのお二人、そんなことを言いながら境内の一角にあった長い机に何かを置いたりしていますけれど…うん、やっぱり間違いありません。
「夏梛ちゃん、あそこの人たち…」
「何です何です…って、あの人たちってこの間の…」
 夏梛ちゃんも覚えててくれていたみたいで、二人でそちらへ歩み寄ってみます。
「あの、松永さん…?」
「…ふぇっ? わわわっ、石川先輩、それにかなさまですっ?」
 背後から片方の人へ声をかけてみると、慌てた様子で振り向かれましたけれど、やっぱり見知った人。
「あによ、ヘッドったらそんな慌てて…って、えっ?」
 彼女と一緒にいた女の子も私たちのことを見て少し驚いた表情を見せます。
「あの、松永さん、それに冴草さんも、お久しぶりです…それに、あけましておめでとうございます」「ですです、あけましておめでとうございます」
「は、はいっ、あけましておめでとうございます…先輩やかなさまがきてくださるなんてびっくりですぅ」
 私のことを先輩と呼ぶかわいらしい女の子は松永いちごさん…私の二つ年下の、同じ学校に通っていた後輩さんです。
「え、えっと、あけましておめでとうございます…」
 少し戸惑った様子で小さく頭を下げるのは、金髪でしたりといかにも日本人離れした外見の女の子…冴草エリスさんといって、私の卒業と入れ替わるかたちであの学校へ入ったというかたで、この間の学園祭ライブの翌日にお会いしたんです。
「石川先輩もかなさまも着物姿で、とっても素敵ですぅ」「そうよね、確かに…」
 お二人がそんなことを言ってくるものですから少し照れてしまい、それにお二人にお会いできたことは嬉しいのですけれど…。
「えっと、ありがとうございます…でも、松永さん、何をしていらっしゃるんです?」
「何をって、麻美ったら見て解らない解らないんです? 明らか明らかに巫女さんのお仕事だと思うんですけど」
「うん、それは解るけど、でもどうして松永さんがそれをしてるのかな、って…」
 さっきの子はこの間もお会いしましたし解るんですけど、彼女の場合は…う〜ん?
「えとえと、お正月ですしアルバイトじゃないんです?」
「いえ、かなさま、お金は貰ってないんですぅ」
「えっ、そうなんです?」
 夏梛ちゃんが首をかしげますけど、私もますます解らなくなってきちゃいました。
「そうなんです、かなさま。ヘッド…松永先輩は善意でお手伝いしてくれているんです」
「善意って、何だか微妙ですぅ…」
「…何か言った?」
「ふぇっ、い、いえ、そうです、善意でお手伝いしてるんですぅ」
 松永さん、冴草さんににらまれてびくってしちゃってますけど、本当なんでしょうか…。
「あ、あの、では、冴草さんはどうして…」
「あぁ、私ですか? 私はまぁ、ここで居候させてもらってますから、このくらいのことはって」
 そのさらにお手伝いとして松永さんが呼ばれた、ということでしょうか。
「冴草さんは、松永さんとご一緒にお仕事をしたかったというわけですね」
「んなっ、あ、アサミーナったら何言って…違うわよ、ヘッドのほうからきたんだから。そうよねっ?」
「ふぇっ、は、はいですぅ」
 冴草さんだけでなく松永さんまで赤くなっちゃったりして、どちらが言い出したのかはともかくお互いにそういう気持ちはあったみたいです。
 さっきのお二人もそうですけど、やっぱりそう思うものですよね…私だってそうですし。
「えっと、それでお二人は…お守りを並べていたんですね」
 机の上に置かれたものを見てそう言います。
「はい、そうですぅ」
「でもでも、お正月なのに参拝のかたってほとんどほとんどいないです…こんなのでお守り売れます?」
 夏梛ちゃんの言葉通り、やっぱり人影はまばら…。
「ま、そのあたりは別に気にしてないみたいですよ? きた人にしっかり渡せればそれでって考えてるみたいですし」
「そうなんですか…」
「それに、この神社は毎年こうらしいし」
 冴草さんがそう説明してくれましたけど、そういえば私も人に教えていただくまでここのことは知らなくって、実際にきたのもあの学園祭ライブの翌日がはじめてでしたから、ここはあまり知られてない場所ということっぽいです。
 そうなるとお手伝いは必要なさそうな気がして、そうなると…やっぱり、そういうことですよね。
「…ふぇ、石川先輩どうしました?」「私とヘッドの顔見て微笑んだりして、何かありました?」
「あっ、いえ、ごめんなさい、何でもありません」
 そんなお二人の関係が微笑ましくって、つい顔に出てしまったみたいです。
「…麻美、あんまりあんまり人がいないっていっても、お仕事の邪魔をしてはダメです」
「あっ、そ、そうだね、夏梛ちゃん。じゃあ、えと、お守りを二つ…ううん、そうだね、六ついただけますか?」
「六つ? 麻美ったら、そんなにそんなにどうするんです?」
「うん、山城センパイと里緒菜さん、それに如月さんと月宮さんにもお渡ししようかな、って」
 ここの神社は百合な恋愛に御利益があるっていいますし、きっと喜んでもらえますよね。


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