「夏梛ちゃんは何をお願いしたの?」
「それは秘密秘密です。そういう麻美こそ何を何をお願いしたんです?」
「私も内緒かな…うふふっ」
「も、もうもう、何なんです…」
 お参りをしてそんなやり取りをする私たち…夏梛ちゃん、顔を赤くしたりしてかわいい。
 ちなみに私がお願いしたのはもちろん夏梛ちゃんのこと…夏梛ちゃんが今年も、それにその先もずっと元気でいてくださいますように、って。
 私たちの関係はお願いしなくってもこれからもずっと一緒ですし、お仕事は自分で頑張ることですから…あの様子だと、夏梛ちゃんも私のことをお願いしてくれたのかも。
「ではでは、おみくじでも引いて引いていきます?」
「うん、そうだね、夏梛ちゃん…って、あれっ?」
「麻美ったら、どうかしたんです?」
「あっ、うん、あの人って…」
 私の視線の先…おみくじ売り場には、一人の巫女さんの姿。
「あれっ、あなたたち、秋にもきた…アサミーナとかなさま、よね? あけましておめでとう」
 歩み寄る私たちに気づいてそう声をかけてくるその人は、長めの髪を大きめのリボンでツインテールにした…その言葉通り秋にもここで、さらにいえば夏でも別の場所で一度お会いしたことのある人でした。
「あっ、はい、そうです…あけましておめでとうございます」「おめでとうございます」
「ええ、でもアイドルをしてるっていうお二人がこんな…ってあたしが言うのもあれだけど、こんな田舎の神社に初詣しにくるなんてちょっと意外ね。この前はあの学校でのライブがあったからこの町にきてたんでしょうけど」
 そのかたの言う通り、私たちが以前ここへきたのは、あの学園祭ライブの翌日…ちなみにこのかたもあの学園の生徒で、私たちのライブを見てくださったといいます。
「あっ、それもありますけど、私はこの町の出身で、学校もあそこに通っていましたから。それに…」
「あぁ、そういえばこの前そんなことも言ってたわね…じゃあ里帰り、ってことか」
 続きの理由を言う前に納得されちゃいました…いえ、いいんですけど。
「ま、とにかく見ての通り人も少ないし大したことはできないけど、ゆっくりしてって。あ、おみくじ引くの?」
「ですです、そうですけど…神社の人、巫女さんお一人なんです?」「あっ、そういえば…この間もお一人でしたけど、今日みたいな日でもそうなんですか?」
 境内にいる他の数人のかたがたも初詣客みたいですし…。
「いや、あたし以外にもいるわよ? でも今は…あのかたは社殿の奥にいるし、あの二人はまだ作業中でいないっぽいわね。あとは…」
「…あ〜っ! まままさか、アサミーナさんとかなさま、ですかっ?」
「…きゃっ?」「は、はわはわっ?」
 突然の大声に私も夏梛ちゃんもびくっとしちゃいました。
「ちょっ、いきなり大声出すんじゃないわよ、二人とも驚いてるじゃない」
「ご、ごめん、でもお二人がきてくれてるなんて感激で…。冬のイベントはでもお会いできたのにまた、しかもこんな素敵な晴れ着姿なお二人にお会いできるなんて! これで落ち着くってほうが難しいよ…」
 そんなことを言いながら売り場の奥から出てきたのは長めの黒髪をした、そして今まで話していた人同様に巫女の装束を着た女の子。
「あ、あの、お久しぶりです…それにあけましておめでとうございます」「おめでとうございます」
「は、はひっ、おめでとうございますっ」
 その人も以前…いえ、つい先日あったイベントにもきてくださっていたかたなのですけれど、とっても緊張した様子です。
 それはそのかたが私たちのファンだから、ということで…私のことをはじめて「アサミーナ」と呼んだのもこのかたでしたりして、嬉しくありがたくありますけれど、恥ずかしさとかのほうが大きいかも。
「先日のイベントにもきてくださってありがとうございました。その前は学園のカフェでお会いしましたけれど、今日は…ご一緒に巫女さんをしているんですか?」
「は、はいっ、一応アルバイトってかたちですけど、でもここはそもそも私にとって…あ、いえ、何でもないんですけど、とにかくそのおかげでこうしてまたお二人にお会いできて、とっても嬉しいです」
 何でしょう、少し引っかかる言葉でしたけど…。
「あ、あのっ、もしよかったら握手してくださいっ」
「え、えと、はい」「もちろんもちろんいいですよ」
 でも、その人の勢いに圧されて言われるままに握手をして、小さな引っかかりは消えていってしまいました。
「ふんっ、ずいぶん幸せそうじゃない…よかったわねっ」
 と、気づくとはじめからいたかたのきつい視線が向いていて…。
「わわっ、もう、そんな、いつも言ってる様にアサミーナさんやかなさまはそういうのじゃなくって憧れ、純粋にファンなだけですってば…!」
「ふ〜ん、そうなの? 本当かしらね?」
「うぅ、信じてくれないんですか? こうしてここで巫女をするのだって、本当ならちょっとまずいことなのに…一緒にしたいから思い切ったのに」
「うっ、そ、それは…ま、まぁ、信じて、あげるけど」
 見つめられて少し赤くなっちゃってます。
「よかった…でも、やきもちやいてくれるのも、かわいいんですけどね」
「…んなっ、う、うっさいっ!」
 そして真っ赤になっちゃいましたけど、ああ思う気持ちはよく解ります。
「…って、あ、あによ、あんたたちまで何か微笑ましげなもの見る様な顔して」
「えっ、ご、ごめんなさい」「そ、そんなつもりはなかったなかったんですけど…」
 赤い顔をしたそのかたににらまれちゃいましたけど…でも、微笑ましいものはそうなのですし、仕方ないですよね。
「あ、あの、でも、お二人で一緒のお仕事をされるって、幸せな気持ちになりませんか…?」
「そ、そりゃ、まぁ…否定はしないけど」
 まだ少し恥ずかしそうなお返事ですけど、お相手の子は笑顔になります。
「そうですよね、私も夏梛ちゃんと一緒にお仕事できて、とっても幸せですし」
「はわはわっ、あ、麻美ったら…!」
「わぁ…素敵ですっ」「ふ、ふぅん、よ、よかったんじゃない?」
「ですから、その…お二人も、これから色々なことを一緒にされて、ずっと幸せでいてください」
「んなっ…!」「わぁ、アサミーナさん……あ、ありがとうございますっ」
 私の言葉にあのかたはまた真っ赤に、お相手のかたは目を輝かせましたけれど…そう、このお二人も私たち同様、女の子同士ですけどお付き合いしていらっしゃるんです。
 私たちのファンであるうえにそういうご関係…こちらからも応援したくなりますよね。
「アサミーナさんとかなさまも、どうかお幸せに…まぁ、ここでお参りしたんですし、お二人なら絶対大丈夫ですけどっ」
「はい、ありがとうございます」
 その子と私とで微笑み合っちゃいます。
「も、もうもうっ、麻美ったら、おみくじ引くんじゃないんですか…!」「そ、そうよ、さっさとしたらどうなのかしらね…あ、あと、あんたははやく仕事に戻りなさいっ」
 そんな私たちに夏梛ちゃんたちは顔を赤くしちゃったりして、やっぱりとってもかわいいですよね。


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