第二章

「うぅ、やっぱり外は寒いね…夏梛ちゃん、もっとこっちきて?」
「少し少し歩きづらいんですけど…しょうがないです」
 ―お家の外に出ると星空がきれいなものの、真冬の真夜中ですからやっぱり寒くって、夏梛ちゃんと身を寄せ合っちゃいます。
 その彼女は着物に慣れてなさそう…私は大丈夫なんですけど、身を寄せ合いつつゆっくり歩きます。
「だいぶ周りに何も何もなくなってきました…これ、晴れて晴れてなかったらとってもとっても危なかったんじゃないです?」
「う、うん、そうかも…」
 住宅地を抜けると明かりもなくって、月の光が頼りという状況…こちらにいた頃には夜間にこんなところへきたことはありませんでしたし、少し失敗したかも。
「もしかして、麻美ったら怖い怖いんです?」
 少しだけ不安になって繋いだ手をぎゅってしたら、そんなこと言われちゃいました。
「ううん…って言ったら嘘になっちゃうかもだけど、夏梛ちゃんが一緒だから大丈夫だよ」
「そ、そうですか、ならよかったよかったです」
 ちょっと恥ずかしそうにする彼女を見て、不安よりあたたかい気持ちのほうが大きくなります。
 そんな気持ちのままで目的地に…もうすぐたどり着くところまできたのですけれども。
「…うぅ、そうだっけ、これを登らないといけないんだっけ」
 暗い木々の間に伸びる石段を見て、思わず足を止めちゃいました。
「先が真っ暗真っ暗です…今度こそ怖く怖くなっちゃいましたか?」
 また不安げになった私を見て彼女がそんなことを言ってきます。
「ううん、そうじゃなくって、体力が持つかなって…」
「…あぁ、そっちですか。確かに確かに、前にきたときには疲れ果ててましたっけ」
「う、うん…」
 特に今回はお互いに晴れ着ですからより動きづらいわけですし、大丈夫でしょうか…。
「大丈夫、大丈夫です。ゆっくりゆっくり行きましょう?」
「…うん、そうだね、夏梛ちゃん」
 彼女の言葉に気持ちが楽になって、一緒にゆっくり石段を登りはじめます。
「う〜んう〜ん、本当本当に真っ暗真っ暗で静か静かです…」
 と、私の息が上がらないうちからあの子がそんなことを言ってきました。
「あっ、もしかして夏梛ちゃん、怖くなっちゃった?」
 それならもっと私にぎゅってしても、なんて思ってしまったりします。
「いえいえ、そうじゃなくって、お正月からこんなこんな状態で、参拝とか受け付けてるんでしょうか、って…」
「…って、そう言われてみるとそうかも」
 秋にきたときには人がいたこと、そして聞いていた話から普通に初詣できると思ってここまできましたけれど、こうもひと気がないとなると…。
「…だ、大丈夫かな」
「と、とにかくとにかく、ここまできたんですから行って行ってみましょう!」
 そ、そうです、もしも誰もいなかったりしても、お参りはできるはずなんですし…!
「う、うん、そうだね、夏梛ちゃん」
 不安な気持ちを抑えつつお返事をして、まだまだ続く石段を登っていきます。

「はぁ、ふぅ…や、やっと着いた…?」
「もうもう、麻美ったら大丈夫大丈夫です? どうやらどうやら…心配心配いらなかったみたいですよ?」
 石段を登り切った頃にはやっぱり息を切らせちゃっていた私ですけれど、そんな私に夏梛ちゃんがそう声をかけてきました。
 確かに疲れちゃいましたけど、この間ここへきてから今までの間に運動もしていましたし、大丈夫…一息ついて、顔を上げてみます。
 すると、夏梛ちゃんの言葉通り…視界に入るのは灯りのついた、森に囲まれた小さな、そして厳かな空気の流れる神社。
「うん、よかった…ちゃんと初詣できるみたい」
 ここで初詣をしようと提案したのは私ですし、ほっとして疲れも一気に軽くなっていきます。
「でもでも、それにしては人が少ない少ないです」
 と、よく見るとその彼女の言葉通り、境内には数人程度の人影しかなく、人で混み合うっていう初詣のイメージとはずいぶん違っています。
「そのほうがゆっくりできるし、いいんじゃないかな?」
「う〜んう〜ん、まぁ、麻美は人混みが苦手苦手ですし、このほうがいいのかもです。ではでは、深く深く考えるのはやめて、お参りしましょうか」
「うん、そうだね、夏梛ちゃん」


次のページへ…

ページ→1/2/3/4

物語topへ戻る