炬燵に入って夏梛ちゃんとぎゅってしたりして過ごしているうちに、気づけば時間はもう午前〇時を回っていました。
「あ…いつの間にか、もう年が明けちゃってたね」
「そ、そうみたいですね…」
 ちょっと気づくのが遅れちゃいましたけど、でも…夏梛ちゃんとぎゅってして年越しをしたのですから、これはとっても幸せなことですよね。
「えとえと、あけましておめでとうございます、麻美」
「うん、あけましておめでとう、夏梛ちゃん」
 改めて、お互いに年明けの挨拶をします。
「去年は色々色々ありましたけど、今年もよろしくよろしくお願いします」
「うん、こちらこそ。今年も、それにその先も、一緒に色んなことしようね」
「ですです…って、麻美ったら、さっきもさっきも似た様なこと言いましたよ?」
「あれっ、そうだっけ?」
「ですです」
 うん、確かに言いました…だって、本当に心の底からそう思いますから。
「うふふっ、夏梛ちゃん…」
 そんなさっきみたいに、私はまた彼女へ顔を寄せて…。
「…って、麻美、待って、待ってくださいっ」
 と、あの子は手で私のことを押しとどめてきちゃいました。
「もう、夏梛ちゃんったらどうしたの? 恥ずかしがることなんてないのに」
「そ、そうじゃありません、新年になったらすることがありましたよね?」
「…すること?」
 う〜ん、挨拶はしましたし…。
「…あっ、新年はじめての口づけ?」
「ななっ、ち、違います、違いますっ。初詣に行くって行くって言ってたじゃないですかっ」
 今年一番の慌てる彼女を見ることができましたけれど…そうでした。
「うん、そういえばそうだっけ」
「もうもうっ、麻美から言い出したことなんですから、あそこに行こうって」
 そう、私たちがこちらで年越しをすることにした理由の一つがそれでした。
 声の練習などでとってもお世話になっている、事務所のある町の神社にしようとも思ったんですけど…そちらには、帰ってから改めてお参りしましょう。
「はやいはやいうちから行くんですよね?」
「うん、夏梛ちゃん」
 年明け前に向かってそこで年明けを迎える、ということも考えたんですけど、そこはこうやって二人きりで、という気持ちが勝っちゃって…でもせっかく二人で迎えたはじめての新年です、初詣もしっかりしましょう。
 ですからさっそく炬燵から出る…んですけど。
「…うぅ、ちょっと寒いかも」
「で、ですです、寒い寒いです」
 思わず二人とも炬燵の中に戻っちゃいました。
 いえ、いくら炬燵以外の暖房をかけていないとはいってもずっとこの部屋にいますから外に較べれば全然暖かいはずなのですけれど、あの子とぎゅってしたりしてたこともあってよりそう感じちゃったのでしょうか。
 ちょっと炬燵の外に出ただけでこうなんですから、部屋、そして家の外へ出たらと思うと…。
「…やっぱり初詣行くの、やめておこっか」
 ですから、ついそんな言葉が出ちゃいました。
「えっ、それって本気で本気で言ってます? 初詣、麻美から言い出したことなのに」
「そ、それはそうなんだけど…」
「麻美をこんなダメ人間にしちゃうなんて、炬燵の魔力は怖い怖いです」
「あぅ、ダメ人間って…」
 でも、彼女の言う通りかもしれなくって…炬燵から出られない、ってよくアニメなどで見かけるシーンでしたけど、今でしたらよく解っちゃいます。
「まぁ、私も寒い寒いですし、麻美がそう言うんでしたら初詣に行くのはやめてやめておきましょうか。晴れ着も用意用意してあるって聞いてましたけど、仕方仕方ありません」
「うん、そうだね…って」
 彼女の言葉にうなずきかけましたけれど、最後の一言で重大なことを思い出しました。
「ではでは、そういうことで…」
「わっ、夏梛ちゃん、待って…!」
 さらに炬燵へ入り込もうとするあの子に対して、私は慌てて立ち上がります。
「夏梛ちゃん、やっぱりちゃんと初詣に行こっ?」
「でもでも、寒い寒いからやめる、って言ったばかりですよ?」
「そ、それはそうなんだけど、やっぱり新年だしちゃんと行っておいたほうがいいかな、って…」
「…じぃ〜っ」
「え、えっと…それに、夏梛ちゃんの晴れ着姿を見たいかも、って…」
「かも、って…それが目当て目当てじゃないんです?」
「そ、それは…そ、そう、なんだけど」
 まさに彼女の言う通りで、そんなことだけで言ったことをころころ変えちゃうなんて、呆れられたかな…うぅ、でも私にとってはそんなことじゃないし…!
「うぅ、夏梛ちゃん…ダメ、かな?」
「つっ…し、仕方仕方ありませんね、元々行く予定だったんですし、そうしましょうか」
 今度はこちらから見つめ返しての言葉に、あの子は顔を赤くしながらもそうお返事をして立ち上がってくれました。
「わぁ…ありがと、夏梛ちゃんっ」
「…むぎゅっ!」
 とっても嬉しくって、ついあの子のことをぎゅってしちゃったのでした。


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