第一章

「夏梛ちゃん、今年一年もお疲れさま」
 ―十二月三十一日、大晦日。
 外もすっかり暗くなって、もうあと少しで今年も終わり…そんな中、私はすぐそばにいるあの子へ声をかけます。
「ですです、麻美もお疲れさまでした」
 かわいらしい笑顔でお返事をしてくれる彼女ですけれど、すぐに首をかしげます?
「…夏梛ちゃん、どうしたの?」
「いえいえ、麻美は今年も、って言いましたけど、私たちがこうして一緒に一緒にいるのって今年からの気がします」
「…あ」
 そう言われてみると確かにそうです。
 私と夏梛ちゃんがはじめて出会ったのは昨年の十二月のことでしたけれどそれはほんのわずかのことで、再び出会って一緒にいる様になったのは今年の春のことでまだ一年もたっていないのでした。
「こうして夏梛ちゃんと一緒にいるのが当たり前のことになってて、もっとずっと長く一緒にいるって感じちゃってた」
「もうもう、麻美ったら…でもでも、私もそう感じないこともないかもないかもです」
「うふふっ、うん、夏梛ちゃん」
 嬉しくなって自然と微笑んじゃいます。
「あ、あぅあぅ、そ、それよりそれより、はやくはやくお蕎麦を食べましょう、冷めちゃいます」
「あっ、うん、そうだね、夏梛ちゃん」
 誤魔化す様に急かされちゃいましたけど、私たちの前にはおいしそうに湯気を立てるお蕎麦が置いてあるのも確か。
「それじゃ、いただきます」「ですです、いただきます」
 そうして一緒に年越しそばを食べます。
「こうやって自分のお部屋で誰かと…それも大好きな人と年越しを迎えられるなんて思ってもみなかったよ。本当、夢みたい…」
 お蕎麦を食べながら、ふとそんなことをつぶやいちゃいました。
 そう、こんなことをしている私たちがいるのは私の、それも高校卒業までを過ごした実家にある部屋。
「それは私も同じ同じかもですけど、どうしてどうして年越しをこちらですることにしたんです? 別に別に、あちらでもよかったよかった気がするんですけど」
「う〜ん、それは…何となく、かも。私も、どちらで過ごすのがいいか、少し迷ったんだけど…」
 つい先日までお仕事があって、そこからすぐにこうしてここにきたわけですけど、交通の便などはもちろん今暮らしている場所のほうがずっといいです。
「何となく、こっちのほうがのんびりできる気がしたから、かも」
 別に環境はそう大きく変わらないはずなんですけど、でもそう感じたのも確か。
「あぁ、それは解らないこともないかもです。この町は静か静かで落ち着きます」
「うん、夏梛ちゃん。それに…やっぱり、昨年までずっと過ごしてきたお家で夏梛ちゃんとお正月を一緒にお迎えしたかった、っていうのもあるかも」
 彼女と一緒にいられるのならどこでも、とも思いますけれど、でもできれば…ということです。
「わ、私も…麻美がずっとずっと過ごしてきたお部屋でこうして一緒に一緒に年越しするの、嬉しい嬉しいかも、です」
「うふふっ、ありがと、夏梛ちゃん」
「べ、別に別に…」
 恥ずかしそうに赤くなりながらお蕎麦を口にする夏梛ちゃん…本当、かわいいです。
「うぅ〜…そ、そういえばそういえば、こちらのお部屋には炬燵あったんですね。あっちの麻美のお部屋にはないのに」
 今度は話をそらされた気もしますけれど、そんな彼女の言葉通り、今の私たちは部屋の中心に置かれた炬燵に入ってお蕎麦を食べています。
 あちらの町にある私の部屋には夏梛ちゃんがよくきてくれていて、そんなそちらには炬燵がない、というのもその通りなんですけど…。
「あっ、ううん、元々はこっちにもなかったよ? 私、炬燵に入るのって今日がはじめてだし」
「えっ、そうなんです? ではでは、この炬燵は?」
「うん、今日こうして夏梛ちゃんと一緒に入ろうって思って用意したの」
 アニメとかでそういうシーンを観てちょっと憧れるシチュエーションでしたから、こうして思い切ってしてみたわけです。
「え…わざわざ今回のために用意用意したんです? しかもしかも、今まで今まで炬燵に入ったことなかったなんて…まぁ、こんな冷暖房完備で個室だらけなお屋敷じゃ不思議不思議じゃないかもですけど、ではでははじめてはじめての炬燵はどうですどうです?」
「うん、とってもあったかくって、幸せな気持ちになってきちゃう」
「ちょっとちょっと、大げさ大げさすぎる気もしますけど…」
 そう言われても、私は本当にそう感じていて…でもそれは、炬燵があるということ以上に夏梛ちゃんと一緒だから、というところが大きそうですけれども。
「あちらのお家に戻るときに、炬燵も一緒に持っていこうかな」
「いいんじゃないです? 私もこうして麻美と一緒の一緒の炬燵に入るのは…じゃなくて、えとえと、お部屋全体全体に暖房をかけるより電気代が安く安くなりそうですし」
「うふふっ、うん、夏梛ちゃん」
 わざわざ言い直さなくっても、そのまま素直に言ってくれてもいいのに。
 でも、ああいう態度になっちゃうのも夏梛ちゃんのかわいらしいところですし、つまりどちらにしても夏梛ちゃんはとってもかわいい、ということになるのでした…うん、やっぱりとっても幸せです。


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