終章
―夏梛ちゃんと出会ってから、もう一年。
日々を共にするようになったのは今春からなのですけれど、ともかくこの間には本当に色々なことがあって、私のこれまでの人生の中でももっとも密度の濃い期間でしたかと思います。
夏梛ちゃんとの日々は、どれもかけがえのない想い出として私の、そしてきっと彼女の中にも強く残っていて、今日のこともずっと残っていくって思います。
「夏梛ちゃん、お疲れさま。今日のライブも、とってもかわいかったよ」
「麻美こそお疲れさまでした…そんなそんな、麻美もとってもとっても素敵でした」
「そんな、夏梛ちゃんったら…」
如月さんに用意していただいたホテルの一室、そこで二人きりになれた私たち、そんな言葉を交わします。
今日、十二月二十四日はライブハウスで夏梛ちゃんと私のユニットによるライブがあって、もちろん泊りがけになりますからライブ終了後にここへ戻ってきたわけです。
ユニットとしての私たちの活動はまだはじめて半年くらい、それで単独ライブをさせてもらえるのですから、やっぱり夏梛ちゃんはすごいです。
「もうもう、何を言うかと思えば…麻美の力でもありますよ? 麻美の歌、とってもとっても上手なんですから」
思ったことをそのまま口にした私に彼女はそんなことを言ってきて…夏梛ちゃんの歌声のほうがずっとかわいくって聞き惚れてしまうくらいなのに。
「とにかくとにかく、こうやってクリスマス・イブの夜を麻美と二人きりで過ごすことができて、嬉しい嬉しいです」
「うん、私も…お仕事、それもお泊りのものが入ってたからちょっとだけ不安だったけど、よかった」
如月さんが気を利かせてくださったこともあり、こうして無事に二人きりに…と、その如月さんも、同じくこちらへいらしている月宮さんのところへ行かれたみたいです。
きっと、今頃は山城センパイと里緒菜さんもご一緒にいらっしゃるはずですよね。
「本当は、私がお料理やケーキを用意したかったんだけど…」
お部屋には、ホテルのほうで用意していただいたお料理が並べられていて、ケーキもあります。
「私も麻美の手料理が一番一番…えとえと、とにかくとにかくそれを言っても仕方ないですし、まずはまずはお食事にしましょうか」
「うん、そうだね、夏梛ちゃん」
ライブもあって彼女もおなかをすかせていると思いますからもちろんうなずきました。
「ごちそうさまでした…なかなかなかなかおいしかったです」
「うん、ケーキもやっぱり私が作るよりおいしかったし…」
のんびりお食事を楽しんで、ケーキも食べて…ケーキはパティシエさんが作ったのでしょうし、私と較べるなんておこがましいですよね。
「そんな、そんなことありません。やっぱりやっぱり、麻美の作ったもののほうが…」
「ありがと、夏梛ちゃん…ちゅっ」
すぐ隣に座る彼女の頬へ軽く口づけ。
「ななな…何を何を…!」
「夏梛ちゃんのほっぺにクリームがついてたから…ん、おいし」
「そ、そういうのは言葉で言ってくれるか、手で取ってくれればいいんです…あぅあぅ」
真っ赤になったりして、夏梛ちゃんったら本当にかわいいんだから。
「うふふっ…夏梛ちゃん、ちょっと待ってて」
そんな愛しい人に渡すために持ってきたもの…立ち上がった私は、きれいにラッピングしたそれを手にして再び彼女へ歩み寄ります。
「それってそれって…」
夏梛ちゃんも私が何をするのか解ったみたいで、その場に立ち上がります。
「これ、ちょっと前に見られちゃったけど…夏梛ちゃんへの、クリスマスプレゼント。受け取って?」
「あ、ありがとうございます…開けて開けて、いいです?」
微笑みながらうなずく私に、プレゼントを受け取った夏梛ちゃんはきれいにラッピングをはがして、中のもの…ゴシック・ロリータなおよーふくを取り出します。
「わぁ、わぁ…素敵素敵です。これ、麻美が作ったんですよね…すごいすごいです」
「ううん、そんな、すごいなんて…私はただ、夏梛ちゃんに喜んでもらいたくって…」
「とってもとっても嬉しいです…麻美、ありがとうございます」
この間プレゼントを作っているところを見られたときにはどうなるかと思いましたけれど、今の夏梛ちゃんは笑顔で、そんな彼女を見ることができてよかったです。
「うふふっ、夏梛ちゃん…じゃあ、さっそく着てみる?」
嬉しさのあまり、ついそんな提案をしちゃっていました。
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