その後も時間の空いているときには練習をしつつ作業も進めて。
 夏梛ちゃんがいるときにはもちろん隠してきて、何とか知られずにすんできました。
 そうして何とかもうすぐ完成、というところまでやってこられたのは、クリスマスまでもうあと数日、というところ…クリスマス当日にはライブイベントがあって、その前日なども移動や準備があることを思えばかなりぎりぎりです。
「でも、あとはもう仕上げだけだし、これなら大丈夫そう…」
 よく晴れた午後、いつもの公園のベンチへ座って作業をする私はそうつぶやいて胸をなでおろします。
 外はやっぱり肌寒さを覚え、そのためか公園に他の人の姿はなく…私はあの場所で練習をした帰り道でちょっと気分転換という意味も込めてここにいるのですけれど、あの子への想いに包まれて気持ちがあたたかくなっていますから寒さも気になりません。
「夏梛ちゃん、喜んでくれるかな…」
 完成した先のことを想像して、さらに幸せな気持ちに包まれたりして…。
「…麻美? 何をしているんです?」
 その愛しい人の声がすぐそばから…って!
「…きゃっ、か、夏梛ちゃん!?」
 はっと顔を上げると、愛しいあの子がこちらへ歩み寄ってくるのが見えて…私は慌てて作っていたものを背後へ隠します。
「う、ううんっ、何にもしてないよっ?」
「…じぃ〜」
 突然のことにあたふたしてしまう私のことを、彼女は前に立ってじっと見つめてきちゃいます…!
「か、夏梛ちゃん…え、えと、お仕事は…?」
「はやくはやく終わりましたから麻美のお部屋へ行こうと思いましたら、ここにいるのが見えましたから…」
「そ、そっか、お疲れさま…」
 私に会いにきてくれた、そのことはとっても嬉しいのですけれど、こんなことになっちゃうなんて…。
「それよりそれより、何か怪しい怪しいんですけど…何か隠してませんか?」
 さらにじと〜っと見られちゃいますけれど、一応私がしていたことには気づいていないみたい?
「う、ううんっ、何にも何にも隠してないですよっ?」
「…何で何で敬語になるんです?」
 は、はぅ、やっぱり全然落ち着かなくって、どきどきが収まりません…。
「まあまあ…いいですけど、麻美には人に言えない怪しい怪しい趣味があるんですね…」
「って、そ、そんなっ! わ、私には夏梛ちゃんに言えない様な趣味はないよっ?」
「いいんですいいんです…麻美にだってプライベートはありますものね?」
 うぅ、夏梛ちゃんがさみしげです…私は、夏梛ちゃんになら何だって知られてもいいのに。
 それは、確かに今のことは隠していますけれど、これはそういうのとは違いますから…!
「そ、そんな、夏梛ちゃん…そ、その、えっと…!」
 何とか説明をしようとしますけれど、どう言えばいいのか解らなくって、でも彼女につらい思いをさせてしまっている事実がつらくって、自然と涙があふれてきちゃいます…。
「ちょっ、何も何も泣くことはないじゃないですか!?」
 そんな私を見た夏梛ちゃんはあたふた…い、いけません。
「あっ、ご、ごめんね…え、えっと、ほ、本当に何にもないから、ね…?」
 涙をこらえて、そして微笑みかけて何とか安心してもらおうとします。
「全く全く…最近最近何かこそこそしてるみたいでしたけど、やっぱりやっぱり私には言えないんですね…」
「えっ…か、夏梛ちゃん、気づいて…?」
「何をしてるのかまでは解りませんけど…そのくらいのこと、麻美を見ていたら解ります」
 やっぱり夏梛ちゃん、私のことなんてお見通しみたい…。
「あっ、え、えっと、夏梛ちゃん、あのね…?」
「…ぷいっ」
 うぅ、そうですよね、私が隠れて何かをしている、ということまで気づいていたのですから、泣きたくなるのは私じゃなくって彼女のほうです。
 あんな様子の夏梛ちゃんを見たら…も、もうダメですっ。
「…ご、ごめんなさいっ、隠し事をして夏梛ちゃんを悲しませたりして…!」
 ついに我慢できなくなって頭を下げます。
「ななな…何で何で謝るんですか?」
「だ、だって、私、夏梛ちゃんに隠し事をして、さみしい思いをさせちゃったから…だから、本当にごめんなさいっ」
 私が夏梛ちゃんの立場なら…やっぱり、とってもさみしくなっちゃうと思います。
 そんなことにも気づけなかった自分が情けなくって悲しくなります…でも彼女のほうがずっと悲しい思いをしてきてしまっているのですし、これ以上隠し続けることなんてできません。
「え、えっとね、実は…これを夏梛ちゃんに、って作ってたの…」
 意を決して、立ち上がって……背後に隠していたものを彼女へ見せます。
「これってこれって…およーふく?」
 ちょっときょとんとした彼女の言葉通り、私が見せたのはゴシック・ロリータな服です。
「う、うん、その、数日後…クリスマスの日にこれをプレゼントしようって思って、それで夏梛ちゃんに隠れてこれを作ったの…か、隠しててごめん、ね…?」
「あぅあぅ、ななな…何で何で言っちゃうんですか!」
 私の告白を受けて、彼女は赤くなりながらあたふたしちゃいます。
「だ、だって…このこと、当日まで内緒にして夏梛ちゃんにびっくりしてもらおうと思ったけど、でも隠し事をすることになっちゃって、そのせいで夏梛ちゃんがとってもさみしそうになっちゃって…。そんな夏梛ちゃんを見てると私も胸が痛くって…やっぱり、私には夏梛ちゃんに隠し事なんて無理なの」
「べ、別に別に、さみしくなんてないです、けど…」
 しゅんとしてしまう私に彼女はそう言いますけれど、強がってるって解ります。
 さっきの夏梛ちゃんの反応を見るとやっぱり当日にはじめて見せたほうがよかったのかもとも感じられましたけれど、でもそのために今の彼女をさみしい思いになんてさせられませんし、難しいです…けれど。
「あ、あのね、これ、夏梛ちゃんのことを想って作ってるのは確かだって言えるし、当日まで楽しみにしててくれると、嬉しいな…」
 うん、いつ知られてもこれは確かなんですから…そう言いながら微笑みます。
「も…もうもう! 麻美はかわいいかわいいんですからっ」
「…きゃっ? か、夏梛ちゃん…!」
 と、あの子がぎゅっと抱きついてきたものですからびっくりしちゃいます。
「確かに確かに、隠し事をされてたのはちょっとちょっとさみしかったですけど、私を喜ばせようとしてたことなんですし、そういうのは気にせず隠して隠してくれてていいんですよ?」
 私を抱きしめつつ、夏梛ちゃんがやさしく声をかけてくれます。
「でも、夏梛ちゃんにさみしい思いは…」
「大丈夫、大丈夫です、私は麻美のこと、信じて信じてますし…実際、隠して隠してたのは私のことを思って、でしたよね?」
「う、うん…」
 私も夏梛ちゃんのこと、信じてますし…今回はしゃべっちゃったけど、最後に喜んでもらえるなら少しの間内緒にしていてもよかった、のでしょうか。
「でもでも、私のことを思って隠し事を話して話してくれた、その麻美の気持ちも嬉しい嬉しいです。麻美がこんなにこんなに私のことを想っててくれて…幸せ幸せです」
「もう、そんな…私が夏梛ちゃんのことを想うのなんて、当たり前のことなのに…」
 そんなことで幸せになってくれるなんて、こちらが幸せで胸がいっぱいになって、嬉しさで涙があふれてきちゃいます。
「もうもう、やっぱりやっぱり泣き虫さんなんですから、麻美は…」
 そっと私の涙を拭ってくれる夏梛ちゃん…そのまま、私の唇へ唇を重ね合わせてきました。
 夏梛ちゃんから口づけしてくれるなんて…とろけてしまいそうです。
 この後の夏梛ちゃんの反応も想像できちゃいますけれど、本当に全てが愛しいです…そんな夏梛ちゃんに似合う様に頑張ってプレゼントも作っていますから、楽しみにしていてくださいね。
「夏梛ちゃ…んっ」
 私の想いの全て…それを伝えるために、私からも抱きしめ返してあつい口づけを交わすのでした。


    (第6章・完/終章へ)

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