翌日からさっそくプレゼントの準備…をしようと思ったのですけれど。
「麻美もだいぶだいぶ体力ついてきたんじゃないでしょうか」
「ふぅ…そうかな、ありがと」
 夏梛ちゃんも今日はお仕事お休み、っていうことで一緒にジョギングをしたりします。
 準備はしたいのですけれど、やっぱり一緒にいるときはなるべく一緒にいたい、ってなっちゃって仕方ないですよね…。
「麻美はこれからこれからお仕事でしたっけ?」
「うん、webラジオの収録があるの」
 ジョギングも一息ついたところで、いつもの公園で足を止めてそんなやり取り。
「ではでは、終わる頃にお迎えに行きましょうか?」
 夏梛ちゃんの言葉はとっても嬉しくって、思わずうなずきそうになります…けれど。
「…ううん、夏梛ちゃんはせっかくのお休みなんだし、今日はゆっくり、ね?」
「まぁ、麻美がそう言うならそうしますけど…」
「うん、私がお仕事で夏梛ちゃんがお休み、なんてそうないことなんだからなおさら、ね?」

 名残惜しさはありますけれど夏梛ちゃんとお別れして、収録の行われる事務所へ…行く前に、少しお買い物へ向かうことにします。
 本当でしたらお買い物も夏梛ちゃんと一緒にしたほうが楽しいに決まっているのですけれど、今日はちょっと事情があって…。
「…うん、これを使ったら、夏梛ちゃんに似合うかな」
 そう、あの子へのプレゼントに使う材料を買いにきたのです。
 当日まで内緒にして渡してあげたいですから、こうして一人でくる必要があったわけです。
「そうだ…あと、何か私と夏梛ちゃんとでお揃いのものもあるといいかも」
 材料を買いながら、ふとそんなことを思っちゃいました。
 彼女へのプレゼントと同じものをもう一つ作って、とも思いましたものの、私に似合うとは思えない上に二つも作る時間はとてもなさそう。
「う〜ん、ちょっと難しそうかな…」
 そのことについては諦めようかな、って考えそうになりますけれど…?

 材料も買い揃えましたから、あとはそれを使って作るだけなのですけれど、作るものは結構大掛かりなもの。
 ですから大きな作業はお家でしか…幸いミシンなどはありますので、お仕事もなくって夏梛ちゃんのいないとき、練習の合間にすることにしますけれど、先日のwebラジオの収録内容がクリスマスの話題になっていましたしあまり時間がありません。
「…あれっ? 麻美さん、何してるの?」
 ですから小さな作業は事務所でのお仕事の合間にも、休憩所の端に座ってさせてもらっていたのですけれど、そんな私に声がかかってきました。
 まさか、夏梛ちゃん…は今日はいないって解っていますし、ではどなたかと顔を上げてみますと、そこには近所の学校の制服姿な女の子の姿。
「あっ、えと、里緒菜さん、こんにちは」
「こんにちは、っていうよりこんばんは、な時間だけどね。で、こんなところで何してるの…お裁縫?」
 その少女、里緒菜さんは相変わらずクールな表情ながら首をかしげてそうたずねてきます。
 彼女は以前には必要最小限にしか事務所でお姿をお見かけしませんでしたけれど、最近はそうでもなくって…やっぱりあのかたの影響でしょうか。
「はい、夏梛ちゃんへのクリスマスプレゼントを作っていまして…」
「…クリスマスプレゼント? あぁ、もうそういう時期なのね…すっかり忘れてたわ」
「えっ、忘れて…?」
「ええ、そんな面倒なイベント、私には関係ないし」
 う〜ん、私や山城センパイといい、何だか去年までは縁がなかった、という人が多い気が…。
「あの、でも、今年は…」
「…そうね、センパイと過ごせたらいいわね。まだ何も言われてないけど」
 そして、お二人も今年がはじめての、になるのですね…山城センパイ、プレゼントがまだ決まっていなかったりして切り出せていないのでしょうか。
「大丈夫です、お二人で幸せなクリスマスを過ごせるって思います」
「…あ、ありがと」
 わずかに赤くなる里緒菜さん…うん、先日のあのかたを思い返すと、問題なさそう。
「それにしても、クリスマスプレゼントね…手作りにするの? しかもだいぶ手が込んでるというか…普通、そういうのってお店で買うと思うんだけど」
「はい、やっぱり手作りのほうがより気持ちが伝わるって思いまして…もっとも、失敗しないできちんと完成させることができれば、ですけれど」
 失敗したらもう作り直す時間はありませんし、気をつけなきゃ。
「ふぅん、私にはそんな面倒なこととてもできない…という以前に、お裁縫もそこまで器用にできないし」
 話しながらも作業を再開した私のことをしばらく観察するかの様に見る里緒菜さん…。
「…麻美さんって、いいお嫁さんになれそうね」
「えっ…わっ、そ、そうですか?」
 危ないです…唐突な言葉に思わず指を針で刺しそうになっちゃいました。
「ええ、だってそんなにお裁縫もできて、お料理も上手だし、性格もいいし…。麻美さんと結婚する人…夏梛さんになるのかしら、とにかく幸せ者よね」
「あ、ありがとうございます…」
 うぅ、少し…いえ、かなり言いすぎの気もしますけれど、夏梛ちゃんのいいお嫁さんになれる、と言われるのは素直にとっても嬉しいです。
「でも、同じ女の子なんだし、夏梛さんのほうがお嫁さんになってもおかしくないのか。そのあたり、どう考えてるの?」
「えっ? う〜ん…」
 夏梛ちゃんも普通にお料理できますし、あんなにかわいい彼女がお出迎えとかしてくれるって思ったら…はぅっ。
 でも、お仕事の量は彼女のほうがずっと多いですし、やっぱり私がお出迎えする側になりそう…あっ、でもお仕事はお互いに、そして一緒にこれからも続けていきたいですよね。
「…いや、別にそこまで真剣に考え込まなくっても」
「あっ、ごめんなさい…えと、では、里緒菜さんたちはどうなんですか?」
「え、私たち? そりゃ…どうなるのかしらね?」
 思わずあんなことを聞き返してしまいましたけれど、山城センパイがお嫁さん…というイメージはあまりわかない気がします?
「お嫁さんなすみれ…ふふっ、かわいらしそう」
 でも、里緒菜さんはそうなったあのかたを想像したみたいです。
「…とにかく、まぁ、そんなプレゼントを作るなんてすごいわね。私はもう行くけど、無理しないでね」
 彼女はすぐにクールな表情に戻りましたけれど、好きな人のそういう姿はやっぱり想像しちゃいますよね。
「はい、ありがとうございます…あっ。あの、このこと、夏梛ちゃんには…」
「解ってるって、黙っておいてあげるわよ」
 そのお返事に安心して、私は作業を続けたのでした。


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