「夏梛ちゃん、おかえり…それに、おめでとっ」
 あれから数日後、お仕事を終えて帰ってきた、そしてまず私の部屋にきてくれた夏梛ちゃんのことを私は笑顔で迎え入れました。
「はい、ただいまです、麻美…でもでも、おめでとうって何です?」
 帰ってきた彼女はいつも通りで疲れた様子などは見られませんでしたけれど、少し戸惑った様子です。
「うん、それはね…と、その前に。ちゅっ」
「んっ…は、はわはわっ、あ、麻美ったら、何を何を…!」
 軽く口づけをすると彼女は真っ赤になっちゃいました。
「何って、おかえりなさいとお仕事お疲れさまのキスだよ?」
「も、もうもうっ、そういうそういうのは言葉だけで十分十分ですのに…!」
 そう言う彼女、でもどことなく嬉しそうに見えるのはきっと私の気のせいじゃないですよね。
 こういうお出迎え、新婚さんみたいでいいですよね…と、こんなことを言ったらますます彼女が慌てそうですけれども。
「うふふっ、夏梛ちゃん、こっちきて」
 そんな愛しくってかわいらしい夏梛ちゃんの手を引いてリビングへ向かいます。
「…わぁ、すごいすごいです。このお料理、どうしたんです?」
 テーブルの上にはこのときのために私が作ったお料理が並べられていて、それを見た彼女は少し驚いちゃってました。
「うん、お祝いってことでちょっと頑張ってみたの」
「お祝い、って…さっきもおめでとうなんて言ってましたけど、何です何です? ケーキまでありますけど、今日って麻美のお誕生日でしたっけ?」
「ううん、違うよ…夏梛ちゃん、解らない?」
「う〜ん、えとえと…あぅあぅ、ごめんなさいごめんなさい、解らないです」
「あっ、そんな、気にしないで。私もふとしたことでようやく気づいたくらいだから、きっかけもなく突然聞かれた夏梛ちゃんが解らなくってもしょうがないよ」
 それに、解らないことでしゅんとしてくれて、それはそれでちょっと嬉しいですし。
「そうなんです? えとえと、じゃあ今日は何のお祝いなんです?」
「うん、今日はね…私と夏梛ちゃんがはじめて出会った、その一周年記念なの」
「はじめて出会った…あっ、あのオーディションの日です?」
「うん、夏梛ちゃん、覚えててくれた?」
「そんなの、もちろんもちろんです。色々な意味で、今の私はあの日からはじまったんですから」
 夏梛ちゃんの言葉通り、あの日は私たちが出会っただけじゃなくって、あのゲームの最終オーディションもありましたからね…。
 もしあのとき夏梛ちゃんに出会えていなければ、私はきっとオーディションに落ちてしまっていて、ですからもちろんその後の夏梛ちゃんとの再会もなくって…やっぱり、あれは運命の出会いだったって思えます。
「うふふっ、食後に夏梛ちゃんに見せたいものがあるから、楽しみにしててね」
「何です何です、気になります…けどけど、まずは麻美が用意してくれたお料理を食べましょうか」
「うん、夏梛ちゃん」

 お料理は夏梛ちゃんに喜んでもらえて、ケーキも一緒に食べて。
 食後のひと時、私は彼女へ先日美亜さんからいただいた本…藤枝さんの書いた、私と夏梛ちゃんの物語を渡しました。
「夏梛ちゃん、どう? 読み終わった?」
 読んでもらっている間に私は食事の後片付けなどをして、それが一段落ついたところで彼女のところへ戻って声をかけます。
「は、はい、ちょうどちょうど読み終わりましたけど…これはすごいすごいですね。まるでまるで実際に見たかの様に書かれてて…しかもしかも私と麻美のことですから、ちょっと恥ずかしい恥ずかしいです」
 本を閉じる夏梛ちゃんは少し顔を赤らめたりして、予想通りの反応です。
「でもでも、前半は学生時代の麻美のことがよく解って興味深かったです」
 あっ、いけない、そういえばそうなっていましたっけ…!
「はぅ、は、恥ずかしい…」
「赤くなったりして、麻美はかわいいかわいいです」
 うぅ、立場が完全に逆になっちゃってます…。
「それにしても、一年前に麻美と出会って、それから色んな色んなことがありましたね…これを読んで、つい昨日のことみたいに思い出しちゃいました」
「うん、そうだよね」
 遠い目をする夏梛ちゃんのお隣へ静かに座らせてもらいます。
「夏梛ちゃん、これからもたくさん、二人の想い出を作っていこうね」
「ですです、もちろんです」
 そして、これから先、間近にあるもので一番大きな想い出になりそうなのは、やっぱりあれですよね…。
 こんなにかわいくて、愛しくって仕方のない夏梛ちゃんに喜んでもらえてさらに強く想い出に残る様なプレゼント…と、少し考え込む私ですけれど、夏梛ちゃんのことを見つめているとふとあるものが浮かびました。
 そうです、これでしたら…夏梛ちゃんに相応しい気がします。
「…麻美、何か何かありました?」
 我に返ると、夏梛ちゃんがこちらをじぃ〜っと見つめてきていました。
「ううん、何でもないよ、夏梛ちゃん…ちゅっ」
「んんっ…あぅあぅ…!」
 そんなすぐ間近にあった彼女の唇へ口づけると途端に彼女は赤くなっちゃいました。
 …うふふっ、私、頑張るから楽しみにしててね、夏梛ちゃん。


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