あの本を受け取って喫茶店を後にした私…本当は予定になかったのですけれど、少し街のほうへ出てみました。
 もう本当に間近に迫った、私と夏梛ちゃんとが出会って一周年の記念のための準備のことと、もう一つ…美亜さんに言われたことについて考えたくって。
「う〜ん、どうしようかな…?」
 あのお祝いについてはもう日もなく、またちょうど夏梛ちゃんが帰ってくる日がそうということもありますからいつもよりさらに腕によりをかけたお料理を用意することにしましたけれど、あちらのほうは悩ましくって…たまたま通りかかった雑貨屋さんの前でふと足を止めて考え込んでしまいます。
 かわいらしい小物類なんて、かわいらしい彼女にぴったりだと思いますけれど…。
「あれっ、麻美ちゃんだ…こんにちはっ」
「…きゃっ?」
 と、不意にすぐそばから声がかかってきたものですから、びくってしちゃいました。
「あっ、ごめんごめん、びっくりさせちゃったみたいだね。はいっ、じゃあこれ、お詫びの印…サクサク」
「いえ、そんな、謝られることではありませんけれど…あ、ありがとうございます、山城さん」
 私へ声をかけてきたのはよく見知ったかたで、チョコバーを差し出されるのも彼女の挨拶の様なものですから受け取らせていただきます。
「ううん、いいっていいって…でも、私のことはああ呼んでくれると嬉しいなぁ」
「あっ、ごめんなさい…えと、山城センパイ」
 今でもふとしたことでさん付けにしてしまうことがあります…気をつけなきゃ。
「うん、それで、私はアルバイトに行く途中だったんだけど、麻美ちゃんはお買い物? 何だかとっても幸せそうな顔してたけど…サクサクサク」
「えっ、私…そんな表情していましたか?」
「うん、まるで夏梛ちゃんと一緒にいるときみたいだったよ」
 あの子のことを考えていましたから、そう見えたのでしょうか…実際、悩んではいましたけれど、それはよいことを考えて、でしたし。
「はい、あの…もうすぐクリスマスですから、夏梛ちゃんへのプレゼントを考えていて…」
 そう、美亜さんに言われたのはそのこと…大好きな人と一緒に過ごすのが不文律になっている日のことでした。
 私にとっては、昨年までは家族とさえそういう時間をともにできていませんでしたから縁がなくって忘れていたのですけれど…今年は、違いますものね。
「…クリスマス?」
 と、山城センパイ、一瞬首をかしげるのですけれど…。
「あっ、そっか、クリスマスか…私には縁のない日だからすっかり忘れちゃってたよ」
 どうやら山城センパイも私と同じみたいでした?
「山城センパイは、里緒菜さんとご一緒に過ごされないのですか?」
「ううん、もちろんそうしたいけど、そっかそっか、クリスマスか…あっ、みんなでパーティするのもいいかも。麻美ちゃんはどう思う?」
 そんな提案をされてしまいましたけれど、山城センパイは賑やかなのが好きそうですしそう考えられるのも自然なのかもしれません。
「えっと、私と夏梛ちゃんは、クリスマスの日にお仕事が入ってまして…」
「あっ、そうだったんだ…やっぱり二人はアイドルやってるし、そういう日はライブとかあるのかな?」
「はい…」
 センパイのおっしゃったとおりなのですけれど、でも夏梛ちゃんと一緒にお仕事ですからその後は一緒に過ごせるはずです。
「それに、その…山城センパイは、里緒菜さんと二人きりで過ごしたいとは思わないんでしょうか…?」
「…へ? うん、私もそうしたいって思うけど、その前にパーティとかしてもいいんじゃないかな、って…あ、でも里緒菜ちゃんは騒がしいの好きじゃないし、やめといたほうがいいのかな。梓センパイだって睦月さんと過ごしたいだろうし」
 どうやら思い直されたみたいですけれど、里緒菜さんのことを思ってそうされるなんて、やっぱり気持ちが伝わってきます。
「それで、麻美ちゃんは夏梛ちゃんへのプレゼントを考えてたんだ。どう、決まった?」
「いえ、それはまだ…何を贈れば夏梛ちゃんに喜んでもらえるかな、って思うととっても悩ましくって…」
 彼女とはこれから先もずっと一緒にいるつもりですけれど、それでもはじめて一緒に過ごすことになるクリスマスですから、さらに特別です。
「そっか、でも麻美ちゃんからのプレゼントなら何でも喜んでくれるって思うよ。今の麻美ちゃん見てたら、気持ちがこもってるのはとっても伝わってくるし、なおさらだよ」
「そうでしょうか…ありがとうございます。でも、そうだとしても少しでもより喜んでもらいたいですから…」
「好きな子へのプレゼントだもんね、そう思うのは当たり前か」
 センパイ、うんうんとうなずきます。
 ですからどうすれば一番喜んでもらえるのか、それが悩ましく…今までこうした経験がないだけになおさらです。
「あの、山城センパイ…何を贈れば、夏梛ちゃんは一番喜んでくれるでしょうか」
 ですので、ついそんなことをたずねてしまっていました。
「う〜ん、それは私には解んないかな…私より麻美ちゃんのほうが夏梛ちゃんのことよく知ってるって思うし」
「そ、そうですよね…うん」
 私は、あの子の恋人なんですから。
「ごめんね、私も好きな人にプレゼント、なんて経験ないからいいアドバイスできなくって」
「そんな、こちらこそおかしなこと聞いてしまって…」
「ううん、何にもおかしいことなんてないって。でもね、さっき言ったとおり、麻美ちゃんの気持ちがこもってるものだったら大丈夫だって思うよっ」
「あ、ありがとうございます」
 センパイは満面の笑顔でああ言ってくださって、少し気が楽になります。
 …うん、そこまで難しく考えなくってもいい、のかな。
「私も里緒菜ちゃんへのプレゼントを考えなきゃ…って、そろそろアルバイト行かなきゃ。じゃ、麻美ちゃん、またねっ」
 そうして山城センパイは元気に手を振って行ってしまいました。
 …とりあえずは、目前に迫ったあちらの準備を、かな。


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