翌日…今日は夏梛ちゃんもお仕事がありませんので、さっそく一緒に練習をすることになりました。
 普段、普通に一緒に過ごすときもだいたいは夏梛ちゃんのほうから私の部屋へきてくれて、今日もそういうことになっています。
 あとは事務所やあの喫茶店などで待ち合わせ、ということで実はまだ一度も夏梛ちゃんのお家に行ったことがなかったりします。
 夏梛ちゃん、私と一緒に暮らす約束をしてくれましたけれど、それもやっぱり私の部屋で、ということになっていますし、もしかするとこのまま機会がなかったり…う〜ん。
 お弁当を作ったりしながらそんなことを考えているうちに、インターホンが鳴りました。
「夏梛ちゃん、おはよっ」
「はい、おはようございます、麻美」
 それはもちろん約束をしていたあの子でしたから出迎えますけれど、顔を合わせてみてちょっと違和感が…?
「…あれっ、夏梛ちゃん、その格好って?」
「見て解りませんか? ジャージです」
 そう、私の前に現れた夏梛ちゃん、そんな服装をしていて…ダンスの練習のときなどもある程度動きやすい服装はしていますけれど、ジャージ姿というのははじめて見ます。
「それってもしかして…夏梛ちゃんが学生時代に使ってたものなのかな?」
「えっ、ち、違います違います、普通に普通に買ったものです」
 気になってじぃ〜と見ちゃう私に、彼女は少し赤くなっちゃいました。
「そっか…ちょっと残念」
 私はこの間の学園祭ライブのときに制服姿になりましたけれど、夏梛ちゃんのそういう格好は…イベント用のものはありますけれど学生時代に実際に、というものは見たことがありませんから、ジャージでもいいから見てみたかったかも。
 でも、そうでなくっても彼女のこういう格好は少し新鮮かも。
「え、えとえと、とにかくとにかく、練習するんですよね? でしたらでしたら、麻美も動きやすい服装してきてください」
「…あれっ? そういえば今日は何をするの?」
 少し慌てた様子な彼女の言葉に、そういえばそのことを聞いていなかったことに気づきます。
「はい、今日は麻美の一番一番苦手なことを頑張ってもらおう、って思ってます」
「えっ、それって…」
 ちょっと…ううん、結構嫌な予感がするんですけど、もしかしなくっても…。

「はぁ、ふぅ…か、夏梛ちゃん、待って…!」
「…もうもう、麻美ったらもう限界限界なんです? まだまだ全然全然走っていませんよ?」
 あまりに苦しくって思わず足を止め、そして息切れしながら声をかける私に、少し前を走っていた夏梛ちゃんも足を止めて振り向いてきます。
 そう、よく晴れた空の下、私と夏梛ちゃんはジョギングをしているんです。
「全く全く、やっぱり麻美は体力ないですね」
「はぁ、ふぅ…はぅ」
 まだ息切れが激しくってうまく言葉が出てきませんけれど、夏梛ちゃんの言うとおりで…そんな私の体力不足を何とかしようということで、今日はジョギングになったんです。
「…まぁ、あまりあまり無理をするのもよくありませんし、ちょうどすぐそこに公園がありますから、そこで少し少しお休みしましょう。そこまでは走れますよね?」
「う、うん、何とか…」
 夏梛ちゃんに何とかついていって、ときどき二人でのんびりしたりもする近所の公園まで走ります。
「はぅ…」
 誰もいない公園、何とかベンチにまでたどり着いて倒れるかの様に座り込みました。
「もうもう、麻美ったら大丈夫大丈夫ですか?」
「う、うん、何とか…はぁ、ふぅ…」
 何とか笑顔を向けて心配をかけない様にしようとしますけれど、息切れがなかなか収まりません…。
「う〜ん、全然全然大丈夫そうじゃないです…ここまで体力ないなんて、さすがに問題問題かもしれません」
 隣に腰掛ける夏梛ちゃんはそんなことを言ってきちゃいます。
「はぅ、ご、ごめんね…?」
「別に別に謝ることはないんですけど、でもでも今までは何とか何とかなっていても、これからもっともっとライブとか多く多くなってきたら大変大変かもしれません」
「はぅ、そ、そうだね…」
 夏梛ちゃんの言うとおり、この数ヶ月のユニット活動でアイドルの活動にはかなり体力がいる、ということが解りました。
 声優の活動にも体力がいる、ということで学生時代にも松永さんと多少の運動はしていたつもりだったのですけれど、ユニット活動をするなんてその頃には予想もしていませんでしたから…。
「麻美は歌やダンスのほうは上手上手ですから、これからは体力作り中心中心の練習をしましょう」
「うっ、うん…」
 私の歌やダンスを彼女がほめてくれたのは嬉しかったですけれど、それでも言葉を詰まらせちゃいました。
 うぅ、だって、学生時代の頃、体育の授業は特に苦手でしたし…。
「もうもう、大丈夫大丈夫です。なるべくなるべく私も付き合ってあげますから…ですからですから、頑張りましょう?」
 そんな私を見かねて、夏梛ちゃんがそう言ってくれました。
 …うん、そうだよね、夏梛ちゃんのパートナーとして、そしてこれから先も一緒にいるためには何とかしないといけないことなんですし、それに彼女が私のためにここまで言ってくれているんです。
「うん、夏梛ちゃん…私、頑張るねっ」
 ですから、しっかりとそうお返事をします。
「…もうもう、麻美はかわいいんですから」
「えっ、か、夏梛ちゃん、そんなこと…」
 そんな私のことを彼女はなでなでしてきて…彼女のほうがずっとかわいいのですけれど、でも嬉しいです。


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