私のせいでちょっと場の空気が悪くなっちゃって。
「…あれれ〜? そこにいるのって…わわっ、アサミーナ先輩とかなさまだ〜」
 と、お昼も食べ終えましたしそんな空気になっちゃいましたからそろそろ席を立とうかと思っていますと、その空気を破る元気な声が届きました。
 見ると、小学生くらいに見える小さな、でも高等部の制服を着た女の子がこちらへ駆け寄ってきていました。
「あっ、藤枝さん、こんにちは」「えとえと、こんにちは…先日は失礼しました」
「そんな、気にしなくってもいいよ〜」
 私と夏梛ちゃんの挨拶に明るくお返事してくれるのは、藤枝美紗さん…私が夢を目指すことになるきっかけを与えてくれた女の子。
 ちなみに夏梛ちゃんが謝っているのは、学園祭ライブで彼女のことを初等部の子と間違えちゃったから。
「アサミーナ先輩とかなさまのデビュー作なゲーム、みーさもさせてもらったよ〜。中の人も百合だなんて素敵すぎるよ〜…きゃ〜、きゃ〜っ」
「そ、そうですか? えとえと、そういえばライブのときもそんなそんなこと言ってましたけど、ありがとうございます」
 藤枝さんの元気さに、夏梛ちゃんはちょっと戸惑い気味です。
「あっ、先輩たちのゲーム、私もしました…感激しちゃいました」「私もヘッドの付き合いでやってみたけど、よかったんじゃない?」
「わぁ…松永さん、それに冴草さんも、ありがとうございます」
 私と夏梛ちゃん、この夏に出た百合なゲームで声優デビューをしたんです。
 はやくも冬に携帯ゲーム機への移植が決定していることから評判は悪くないと感じていますけれど、身近な人たちがしてくれているというのは…恥ずかしくもなりますけれど、嬉しいです。
「あっ、いちごさんとエリスさんも一緒だったんだ〜。もうすぐお二人のお話も完成するから、楽しみにしててね〜」
 と、松永さんたちへ目を向けた藤枝さん、そんな声をかけました。
「ふ、ふぇっ、わ、私たちのお話って…?」「え、それってまさか私とヘッドの…あ、あんな話ってこと?」
「うん、もちろんお二人の百合なお話だよ〜」
 藤枝さんは百合なお話が大好きで、学園にいるそういう関係な子をモデルにしてそういうお話を書いたりしているんです。
「は、はわわっ、わ、私と副ヘッドさんは、そんな、えっと…!」「ど、どうしようかしらね…」
 一方の松永さんたちは顔を真っ赤にしてしまいましたけれど、明確に否定していませんし…つまり、そういうことなのでしょうか。
 そうなのでしたら…うん、お似合いですよね。
「松永さん、よかったですね…お幸せに」
「…ふぇっ? い、石川先輩、えとえと…!」
 私にとって松永さんは一番近しい後輩といえる存在ですから、祝福せずにはいられません。
「あっ、もちろんアサミーナ先輩とかなさまのお話もちゃんと書くよ〜。完成したらお二人にも送るね〜」
 そして、今度は私たちにそう言ってきます。
「わぁ、それは楽しみです…ねっ、夏梛ちゃん?」
「私たちの物語を書いてくれるんです? でもでも、さっきの会話の流れからして、この子が書くのって…」
「うん、百合な…私たちのラブラブなお話だよ。これはぜひ読みたいよね」
「はわはわっ、やっぱりやっぱり…!」
 夏梛ちゃんのお顔が見る見る赤くなっていっちゃいます。
「うふふっ、夏梛ちゃん、かわいい。でも、どうしてそんなに慌てるの?」
「だってだって、そんなの恥ずかしいですし…」
 そういえば、学生時代の私ももし自分が書かれるとしたら、と想像したら恥ずかしく思いましたっけ…でも、こうして実際に好きな人ができると、嬉しさのほうが勝っちゃいます。
「そ、それにそれに…も、物語にしたりしなくっても、私には本物の麻美がすぐそばにいますし…」
 さらに、最後のほうは掻き消えそうなほど小さな声でそう続けられて…もう、そんなこと言われたら気持ちを抑えられなくなっちゃいます。
「うふふっ、夏梛ちゃん、ありがと」
 ゆっくり席を立った私、すぐ隣に座る夏梛ちゃんの背後に立って、そのまま抱きしめちゃいます。
「はわはわっ、もうもうっ、麻美ったらしょうがないんですから…!」
「うふふっ、夏梛ちゃん、大好きっ」
「わ、私だって大好き大好きなんですから…!」
 あぁ、もう、やっぱり幸せです…。
「わぁ〜、やっぱりお二人はラブラブなんだね〜…きゃ〜、きゃ〜っ」「全く、人前でこんないちゃいちゃして、羨まし…って、な、何でもないわよっ?」
 と、皆さんがいらっしゃるのですし、いつまでも二人の世界に浸っているわけにはいきません…名残惜しいですけれど、彼女からゆっくり身体を離します。
「あっ、えっと、夏梛ちゃん。この子は藤枝美紗さんだよ」
 そういえばまだきちんと紹介していなかったと思いますから、ここで改めて。
「高等部三年の藤枝美紗だよ〜。かなさま、よろしくだよ〜」
「はい、灯月夏梛です…こちらこそです」
 夏梛ちゃん、ぺこりと頭を下げます。
「夏梛ちゃん、藤枝さんは美亜さんの妹さんなんだよ」
「わわっ、そうなんです? そう言われると…ものすごい百合好きなところが、とてもとてもよく似ています」
「あっ、アサミーナ先輩、お姉さまの喫茶店の常連さんなんだよね〜。お話は聞いてるよ〜」
 私が今暮らしている町の行きつけの喫茶店、そこの店員さんが藤枝さんのお姉さんで…すごい偶然で、私もそれを知ったときには驚きました。
「あっ、じゃあ完成したお話はお姉さまに渡しておくよ〜。お二人とも、楽しみにしててね〜」
「ありがとうございます、藤枝さん…うふふっ、楽しみだね、夏梛ちゃん」
 再びあの子の隣に座って微笑みかけます。
「はぅはぅ…そ、そうですね、麻美…」
 あの子はまだ赤くなってて恥ずかしそうにしてきます…もう、かわいすぎます。
「それにしても、石川先輩、ずいぶん変わりましたよね」「うん、みーさもちょっとびっくりかもだよ〜」
 と、そんな私を見ながら、松永さんや藤枝さんがそんなことを言ってきました。
「そうなんです? そういえば、学生時代の麻美がどんなだったかほとんどほとんど知らないですし、気になります。いい機会ですし、聞かせてもらえませんか?」
「うん、いいよ〜」「はいです、私が先輩にお会いしたところとかなら…」
 …はぅ、何だか話が恥ずかしい方向に流れはじめてしまいました。
 特に、私の学生時代ってあんなのでしたし…うぅ、恐くなってきてしまいました。
「あ、あの、私、ちょっとお散歩に行ってきますね?」
「えっ、麻美ったら急に急にどうしたんです? 麻美の学生時代のこと、聞きたいです」
 唐突な私の言葉にじぃ〜っとこちらを見つめてくるあの子…。
「え、え〜と…か、夏梛ちゃんは、皆さんのお話を聞いてていいからっ」
 いたたまれなくなって、慌てて立ち上がると思わずそのままその場を後にしちゃったのでした。


    (第2章・完/第3章へ)

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