私と同じ夢を目指して、かつての私が練習していたのと同じ場所で頑張っている松永さん。
 夢は今でも変わらないみたいで…ううん、私の影響もあってより強くなったみたいです。
 こうして卒業式の日以来久しぶりにゆっくりお話しする機会ができまして、お互いに積もる話もありましたけれど、ちょうどお昼どきということで皆さんで一緒にお昼を取ることにしました。
 お昼はスタジオのある特別棟のさらに隣にある学食で食べることに…これが今日、私がしてみたかったことの一つです。
「学生時代は、学食を利用したことって一度もなかったから…ちょっと楽しみ」
「わっ、そうだったんですか…だから今日はお弁当を作らなかったんですね。でもでも、今日って学校お休みなのに学食なんてやってるんです?」
「あっ、かなさま、それは心配いりませんよぅ?」「部活したりしてる人たちのために休日でもやってますから…って、私たちは部活じゃないけど」
 松永さんたちの言葉通り、やってきた学食はきちんと営業中でした。
「はぁ…ずいぶんずいぶん立派な立派な学食ですね」
 明るく広い学食はレストランなどにも負けない雰囲気で、夏梛ちゃんが少しため息をついちゃいました。
 私も実際にここへくるのははじめてですから、ため息は出ませんけれど新鮮な気分です。
 そんな広い学食ですけれど、学園がお休みということでお客さんはまばらにしかいなくってちょっとさみしく、メニューもそういう日ですから少なめになっていて、けれどそのメニューは全て無料になっているみたいです。
「えとえと、こんなレストランで出るみたいなお料理、本当本当に無料で食べちゃっていいんです…?」
 それを知った夏梛ちゃん、少し不安げになっちゃいました。
「学園がそうしてるんだから、気にしなくってもいいって思うんだけど…」
「でもでも、私と麻美は生徒ってわけじゃないんですよ?」
「…あ」
 そう言われてみると、あの子の言うとおり…無料なのはあくまで生徒に対してでしょうし、どうしましょう。
 私まで不安になってきちゃいましたけれど、学食の人に大丈夫と言ってもらえて一安心…卒業生の見学者は立派なお客さん、みたいです?
 お料理を受け取って席に着く私たちですけれど、他の子たちの視線を集めてる様な…気にしないでおきましたけれど、やっぱり夏梛ちゃんが注目を浴びているみたいです。
 そうして、卒業後にしてはじめて食べる学食での料理…うん、なかなかですよね。
「もきゅもきゅ…なかなかおいしいおいしいですけど、麻美のお弁当のほうが…」
 私の隣に座る夏梛ちゃん、一口口にしてそう言いかけながら口をつぐみましたけれど、もちろん聞き逃すはずがありません。
「うふふっ、夏梛ちゃん、ありがと」
「な、何の何のことです…それよりはやくはやく食べちゃいましょうっ」
 相変わらずかわいらしい彼女に頬が緩んでしまいます…向かい側に座ってます松永さんたちも微笑ましげです。
 そうしてお昼ごはんを食べて、私と松永さんとでお互いの近況を伝え合います。
 松永さんは今日もいらしたことからも解ります様に、私の卒業後もあのスタジオで日々練習をしていたみたいなのですけれど、新学年になってすぐくらいに偶然スタジオへやってきた冴草さんとお知り合いになったそうです。
 冴草さんも声優などに興味があるのかな、と思いましたものの、少なくとも松永さんに出会うまでは特に興味はなかったそう…というより、そういうものについて全く知らなかったそうです。
 けれど、たまたま訪れたスタジオで声優になるための練習をしていた松永さんと出会って、それから気になっていったそう。
「全く、昔は普通の文学少女だったのに、今では色々アニメとかに手を出しちゃって…ヘッドのせいなんだから、責任取りなさいよね?」
「ふぇ、せ、責任って…そもそも副ヘッドさんが普通の文学少女だったとか、そんなの…」
「…あによ、何か言った?」
「はわっ、い、いえ、何でもないですぅ。で、でも、確かにはじめにアニメのDVDを見せたのは私ですけど、それから先は副ヘッドさんが勝手に…!」
「あによ、スタジオにあんなにDVD持ってきてるヘッドが悪いんじゃない。さすがワルね?」
「ワルですっ…じゃなくって!」
 松永さんと冴草さんのやり取りは微笑ましいですけれど、お二人がお互いのことを「ヘッド」とか「副ヘッド」なんて呼び合っているのは、お二人がその呼び名でラジオ番組の練習をしていらして、それでそう呼び合うのが自然になっていったみたい。
 ああして言い合っちゃうことなどもお二人の仲がいいからこそでしょうし、やっぱり微笑ましく、そんなお二人の会話の邪魔をするのは心苦しいのですけれど、きちんと言ったほうがいいですよね。
「あの、その、DVDを持ち込んだのは、私なんですけど…」
「…え?」
 私の告白に、冴草さんだけでなく夏梛ちゃんまで固まっちゃいました。
 そう、スタジオには結構たくさんのアニメDVDやドラマCDなどが置いてあったりするのですけれど、私の卒業後に松永さんが持ち込んだりしていない限り、あれらは全て私が持ってきたものです。
 それらは声優さんの演技を練習の参考にしよう、ということで持ってきて、卒業時にそのまま松永さんに差し上げたのでした。
 もちろん遠慮されましたけれど、松永さんがいつか私と同じ舞台に立つ日がこれますように…っていうプレゼントということで何とか納得していただけたのでした。
「ふ、ふぅん、まぁ、アサミーナが持ってきたっていうなら、しょうがないわね…」
 そんな話を聞いた冴草さんはちょっとばつが悪そうになっちゃいました。


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