「まさかまさか、睦月さんに双子のお姉さんがいるだなんて、全然全然知りませんでした…」
「うん、私も…とってもよく似てたし、びっくりしちゃった」
 あれから、如月さ…葉月先生に学園内を見学する許可をいただきまして、私たちは先生とお別れして並木道を歩いていくんですけど、さっきの衝撃はまだ残っています。
 確かによく見ると如月さ…睦月さんのほうが髪が短かったり、口癖も少し違ったりもしましたけれど、それでもやっぱり、言われるまで気づけないほど似ていました。
「でもでも、麻美はつい半年くらい前までここの生徒だったんですし、あの先生のこと知らなかったんです?」
「う〜ん、初等部の先生ってことだったし、若い先生だから私が初等部の頃にはいなかったと思うから…」
 今日みたいなことで顔を合わす機会はあったのかもしれませんけれど、私はあまりそういうことは気にしてきませんでしたから…。
「それにしても、睦月さんもこの学園に縁のある人だったんですね…世間は広いみたいで狭い狭いです」
 夏のイベントでも会って昨日の神社で再会したあの人もここの生徒だといいますし、確かにそうです。
「何だか何だか、私だけ仲間はずれな気が…」
 もう、夏梛ちゃんったらまたあんなこと言って…。
「夏梛ちゃんはあの講堂でライブしたし…それに、ここの卒業生の私とユニットを組んで、そして恋人なんだから、十分すぎるくらい縁はあるよっ」
 目前にまで近づいてきた講堂へ目をやりながらも、夏梛ちゃんとの腕をよりぎゅっと組んじゃうのでした。

 学園の敷地の中心にある、一昨日に私たちが学園祭ライブをした講堂。
 すでに学園祭に関するものは片付け終えられていて、今は私たち以外に人の姿もなく、とっても静かです。
 正門からここまで並木道をまっすぐにやってきた私たちですけれど、ここから講堂を中心にして道が十字にのびています。
「正門方向から見て、このまままっすぐに行けば高等部、左右に行くと初等部と中等部だよ」
「いずれにしても、校舎は見えない見えないです…敷地がほとんどほとんど森みたいになってます」
 夏梛ちゃんの言うとおり、並木道の外側は桜の木がいっぱい…春になるととってもきれいで、夏梛ちゃんと一緒にお花見できたらどれほど素敵でしょう。
「それでそれで、これからどこにどこに行くんです?」
 そう、ですね…学園の敷地内には他にもそれぞれの部の学生寮や幼稚舎などもあったりしますけれど、全部を案内しても仕方ありませんし、そもそも時間が足りません。
「うん、じゃあこのまままっすぐ…高等部の校舎に行ってみよっか」
 ですから、一番想い出も多いそちらへ行ってみることにしました…夏梛ちゃんときたのなら、なおさら行っておきたい場所もありますし。

 やがて見えてきた高等部の校舎は、歴史を感じさせる古い木造校舎。
 昇降口には来客用のスリッパも置かれていましたから、それをお借りして中へ入ります。
 校舎内もやっぱりもうすでに学園祭に関するものはきれいに片付けられていて、そして人の姿もなく、すぐ近くにあるグラウンドで活動している運動部の生徒の声がかすかに届くくらい。
「ここで麻美が高校生活を送っていたんですね…」
 ゆっくり廊下を歩いて教室を回っていきますけれど、夏梛ちゃんはもの珍しそう。
 私は、卒業してからまだあまり間が空いておらず、でももう二度とここに通うことはないのは確かで、何だか複雑な気持ち。
「歴史もありますし、ここはとてもとてもいい環境です…こんなところに通っていた麻美が少し少し羨ましいです」
「そうかな?」
 今こうしているみたいに、もし学生時代に夏梛ちゃんもここにいたら…わぁ、とっても素敵です。
 でも、学生時代の私じゃ夏梛ちゃんに声をかけることなんてできなかったと思いますし、夏梛ちゃんもあんなに地味で目立たなかった私のことなんて気にも留めなかったと思いますから、きっと何の接点もないままに卒業を迎えていましたよね。
 そう思うと、今こうして私が夏梛ちゃんと一緒にいられるのってとっても、本当にとっても幸せなことなんですね、って心から感じます。
「…麻美、どうかどうかしましたか?」
「あっ、ううん、何でもないよ?」
 いけません、ついあの子と組んだ腕をさらにぎゅってしちゃってました。


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