「もきゅもきゅ…やっぱりやっぱり、麻美の作ったお弁当はとってもとってもおいしいおいしいです」
「うん、夏梛ちゃん、ありがとっ」
 お参りを終えて、もうお昼時でしたから、境内の一角をお借りしてお弁当を食べることにしました。
 朝ごはんのときもそうでしたけれど、あの子にああ言ってもらえるととっても幸せ…心の中がとってもあったかくなります。
 そんな幸せをかみしめながらゆっくりお弁当も食べ終えましたから、後片付けを…。
「…あら? 誰かいるわね」
 と、そのとき、そんな声が社殿のほうから届きます?
 ちょっとびっくりしちゃいながらもそちらへ目を向けてみると、人影が一つ…。
「あっ、ご、ごめんなさい、勝手にお弁当広げちゃったりして…!」「すぐにすぐに片付けますから…」
「…へ? あによ、そんな慌てなくても…ごみさえ残したりしなかったら、全然問題ないわよ?」
 お弁当箱とか慌てて片付けようとする私たちに、現れた人はそう言ってくださいました。
 そうしてこちらへ歩み寄ってくるその人はどうでしょう、私たちと同い年、あるいは年下っぽい女の子。
 長めの髪を大きなリボンでツインテールにした背の高めな、つり目でしっかりした雰囲気の人…巫女さんの装束を身にまとっていることから、この神社の人みたいです。
 一体どこから…と、よく見ますと社殿の後方、半ば森に入っちゃってるところにお家らしい建物があるのが見えて、そこから出てきたみたいです。
「あなたたち、今日はピクニック? いい日和だものね」
「ですです、そんなところです」「あ、えっと、でもまずお参りをさせていただきました」
 お弁当も片付け終えましたから、立ち上がって…と、何かが心に引っかかります。
「あれっ…このかた、どこかでお会いした様な…」
 巫女のかたを改めて見て思わずそう呟いちゃいましたけれど…気のせい、でしょうか。
「…ん? あんた…いえ、あなた、どっかで会った気がするんだけど…」
 と、その人も私を見てそんなことつぶやきましたし、どうやら気のせいじゃないみたいなんですけど…?
「あれあれっ、どうしたんです?」
 夏梛ちゃんは首を傾げるばかりで、どうやら彼女に心当たりはないみたいなんですけど…う〜ん。
「…あっ、そうだわ。あんた、え〜と、確か…アサミーナ、じゃなかったっけ?」
 先にはっとしたのはその人のほうで、自信なさげながらもそうたずねられました。
「あっ、はい、私はそう呼ばれることもありますけれど…ということは、やっぱりどこかでお会いしましたか?」
「ええ、実際にこうやって顔を合わせたのは、ほら、夏の…何かものすごい人のイベントあったでしょ? あのときに…」
「…あっ、思い出しました。あのときの…」
 夏のあったものすごい人のイベント、でようやく思い出すことができました。
「何です何です? 二人は会ったことあるんです?」
「うん、えっとね…」
 一人事情を知らない夏梛ちゃんに説明をしてあげることにしました。

 あれは夏、東京のほうで三日間にわたって行われた大きなイベントがありました。
 私と夏梛ちゃんはその二日めにお仕事があったんですけど、三日めには夏梛ちゃんにだけお仕事があって、ですから私はお客さんとして彼女に会いに行くことにしたんです。
 けれど、会場で迷子になってしまって…そんなときにたすけてくれたのが、この人ともうお一人の二人連れだったのでした。
「そういえばそんなことがあったって、その日も麻美が言って言ってましたけど、あなたが麻美をたすけてくれたんですね…ありがとうございます」
 話を聞いた夏梛ちゃん、その人へぺこりと頭を下げます。
 うん、あそこであのお二人に会えていなかったときのことを思うとぞっとしちゃいます…本当に感謝しなきゃ。
「いや、そんな、あたしはただあの子に付き合ってついていってただけだし…」
「…あっ、そうです、その子は今どうしてますか?」
 あのとき私に声をかけてくれたのは、この人の言うとおりもう一人の少女でした。
 思えばその人がはじめて私のことを「アサミーナ」と呼んできたと思いますし、私のファンだなんてはじめて言われたのも…ですから、とても印象に残っています。
「あぁ、あの子は今はアルバイト中ね。あたしは、今日は学園祭の片付けも特にないからこっちのお仕事してるけど」
「そうですか、お会いできないのは少し残念です…って、あれっ? もしかして、貴女はあの学園、明翠女学園の生徒ですか?」
「ええ、そうだけど…」
「わぁ、そうでしたか…私、そこの卒業生なんです」
「あ、そういえば昨日のライブでそんなこと言ってたわね。そのライブ、二人で出てたでしょ…そっちはかなさま、だっけ?」
「あっ、ですです、よろしくです」「私たちのライブを見てくださっていたなんて…ありがとうございます」
「いや、別に…あの子に付き合って見ただけだし」
「それでも見てくれたことに変わりないですし…やっぱり嬉しいよね、夏梛ちゃん?」「ですです、ありがとうございます」
「あ、あによ、もう…」
 その人、顔を赤くしちゃったりして照れてしまったみたいです。
 でも、あの日少し会った人とこうして再会できただけでなく、それが私たちのライブを見てくれた、あの学園の子だなんて…すごい偶然です。
 そして、この人がここの巫女さん、ということは…。
「夏梛ちゃん、やっぱりこの神社は百合な御利益があるんだよ。だって、私たちと同じ関係な人が巫女さんしてるんだもん」
「う〜ん、確かに確かに…」
「…って、んなっ、何言ってんのよっ?」
 私の言葉に夏梛ちゃんは納得しかけましたけれど、あの人はさらに赤くなっちゃいました。
「あれっ、あのときご一緒にいた子は恋人さん、でしたよね?」「ですです、私も麻美にそう聞かされてましたけど、違いました?」
「い、いや、え〜と…ち、違わないけど、そうじゃなくって、あたしはあくまでお手伝いで、この社はあのかたが見てるところなんだから、あたしがそういう関係だからっていうのは別に関係ないっていうか…」
 あっ、そうですよね、この人はまだ学生さんなんですし、ここの管理はもちろん別の人がしていらっしゃいますよね。
「じゃあ、ここの神社は百合な御利益はないんですか?」
「いや、それはどうかしらね…。ここにくる子って不思議とそういう子ばっかだし、あのかたもそういう関係の人だし…って、百合って言葉の意味が解っちゃうなんて、あたしもずいぶんあの子に毒されてきてるわ…」
「あれっ、じゃあやっぱりここって…」「ですです、そこまででしたらもう認めないわけにはいかなさそうです」
「あ、あによそれ…か、勝手にすればいいじゃない」
 しかも、何だか絵に描いたみたいなツンデレのかたが巫女さんをしていらしたりと、色々とよい場所です。

「ではでは、失礼します…お守り、ありがとうございます」「あの子とこれからもお幸せに、です」
「ええ、お気をつけて…って、んなっ、そ、そっちこそ、これからも幸せでいなさいよねっ?」
 それから、その人からお守りを渡してもらえて、私たちは神社を後にしました。
 帰りももちろんあの長い石段を降りなくてはいけませんから大変ですけれど、夏梛ちゃんが手を繋いでくれてゆっくり降りますから大丈夫。
「お守りまでもらっちゃったし、これでこれからも私たちはずっと一緒だね」
「もうもう、ですからですからそういうの関係なしに私たちは…」
 ちょっと恥ずかしそうになるあの子…さっきの人ほどのツンデレではないかもしれませんけれど、かわいいですよね。
「でもでも、ここにかきてみてよかったと思います」
「うん、夏梛ちゃん」
 楽しいひとときを過ごせましたし、意外な再会もありましたし…あっ、あの巫女さん、結局お名前聞いてません…。
「明日は麻美の通っていた学校に行くんですね…楽しみ楽しみです」
「うふふっ、うん…あ、でも、その前に、今日は駅前のお店で白たいやき、買っていこうね」
「あっ、そうですそうです…はやくはやく行きましょう」
「わっ、か、夏梛ちゃん、待って…!」
 石段を駆け下りようとする彼女を何とか引き止めましたけれど…もう、本当にかわいいんですから、夏梛ちゃんは。


    (第1章・完/第2章へ)

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