「はぁ、ふぅ…か、夏梛ちゃん、待って…」
「もうもう…麻美ったら、大丈夫ですか?」
 元気よく石段を登りはじめた私でしたけれど…思ったよりも石段が長くって、息切れしてきちゃいました。
「全く全く、私は麻美がこうなっちゃうと思って気が進まなかったんですけど…」
「はぅ、ご、ごめんね、夏梛ちゃん…」
 ちょっと呆れた様子のあの子は特に息切れもしていなくって元気…さすが、ステージの上でも元気いっぱいで素敵な夏梛ちゃんです。
「麻美って何でも何でもこなせますけど、体力はないですよね」
「はぅ、それでも、昔よりはよくなってるはずなんだけど…ふぅ」
 声優になるには体力も必要、って一緒に練習してきた子にも言われたりしましたっけ…今でも練習の合間に私なりに身体を動かしているつもりなんですけど、まだまだみたいです。
「こうなったら、私が麻美の運動をちゃんとちゃんと見てあげないとです」
「わぁ、それって…はぁ、ふぅ、夏梛ちゃんが一緒にしてくれる、ってこと? ありがと…ふぅ」
「べ、別に別に…それよりそれより、もうあと少しで石段は終わりみたいですから、頑張ってください」
 彼女が応援してくれて、それにあんな約束をしてくれたこともあって、ちょっと元気が出てきました…ですから、何とか石段を登り切ることができました。
「はぁ、ふぅ…よかった、何とか着いたみたい…」
「お疲れさまです、麻美…それでそれで、ここが目的地ですか?」
「ふぅ、はぁ…うん、そうだよ、夏梛ちゃん」
 何とか息を整えようと深呼吸…ここの空気は不思議と他の場所とは違う感じがして、自然と落ち着いていきます。
「なるほどなるほどです…静かで雰囲気のある神社です」
 夏梛ちゃんの言葉につられて、息の整った私も改めてあたりを見回してみます。
 石段の終着点からは参道がのびていて、その先にはあまり大きくはない、けれどきれいにはされている社殿…夏梛ちゃんの言うとおり、厳かな空気を感じる神社です。
 私たち以外に人の姿はなく、とっても静か…さらに、森に包まれた空間ですけれど不気味さなどはなくって、むしろ神秘さを感じさせるほどです。
「でもでも、どうしてわざわざここにきたんです? さっきの口ぶりから、麻美も今までここにきたことなかったなかったみたいなんですけど」
「うん、ここの神社にはすごい御利益がある、って聞いたから、夏梛ちゃんときたくなっちゃって」
「もうすっかりすっかり元気みたいですね…でもでも、そうなんです?」
「うん、特に百合な二人がお参りしたらその二人はずっと幸せでいられる、って…だから、私たちにぴったりだよね」
「な、な…そ、そんなそんな御利益、ちょっとちょっと信じられないんですけど…!」
 夏梛ちゃん、真っ赤になっちゃいました。
「う〜ん、学生時代の後輩の子がそう教えてくれたんだけど…」
 百合好きで百合な物語を書いちゃう様な子でしたけれど、嘘を言ったりする子じゃないと思います。
「あぅあぅ、第一第一、私たちはそんなのわざわざ神さまにお願いお願いしなくっても…!」
「わぁ…うん、夏梛ちゃん、私たちはずっと一緒だよねっ」
「…むぎゅっ! あぅあぅ…!」
 あの子の言葉が嬉しくって思わずぎゅっとしちゃいました。
 そう、私たちは永遠を誓い合った関係ですし、それはずっと続くって信じてもいます。
「でも、せっかくこうしてここにきたんだから、お参りはしていこ?」
 ゆっくり身体を離して彼女へ微笑みかけます…うん、お参りしておいて悪いことは何もないんですから。
「もうもう、しょうがないですね…ではでは、そうしましょう」
「うん、夏梛ちゃんっ」
 ということで、ひとまずお弁当の入った包みを参道の脇へ置いておいて、夏梛ちゃんと一緒にお参りです。
 お願いすることは…お互い口にはしませんけれど、決まっています。
 …大好きな夏梛ちゃんと、この先もずっと一緒にいられますように。


次のページへ…

ページ→1/2/3/4/5/6

物語topへ戻る