お弁当もちゃんと持って、お家を出発です。
 外は夏梛ちゃんも言っていたとおりとってもいいお天気…気温も過ごしやすく、絶好のお散歩日和です。
「夏梛ちゃんとお散歩、とっても嬉しいです」
「もうもう、大げさです、麻美は…いつもいつもしてることじゃないですか」
「それでもやっぱり嬉しいの」
 とっても幸せで自然に手も繋いで…ううん、腕を組んじゃいます。
「うふふっ、夏梛ちゃんっ」
「もうもう、麻美ったら…しょうがないんですから」
 恥ずかしそうに顔を赤らめる彼女ですけれど、振りほどこうとしたりはしなくって…よりあの子のぬくもりが感じられます。
「えとえと、それでそれで、どこか特に向かう場所とか、あるんです?」
 腕を組んで歩きはじめたところで改めてそうたずねられます。
「うん、ちょっと夏梛ちゃんと行きたいところがあるの」
 特に目的地もなく、というのもいいと思ったんですけど、少し思い出したことがあって…そこへ行ってみたくなったんです。
「そうなんです? どこへどこへ行くんです?」
「それは、着いてからのお楽しみ、だよ」
 うふふっ、でも夏梛ちゃんとならこうしているだけで十分なんですけど、ね。

 夏梛ちゃんと一緒に、私が生まれ育った町をのんびり腕を組んで歩きます。
 私の実家まわり…というよりもあの学園の周辺は、道や建物などかなり整然とした印象。
 これは何もない場所にまずあの学園ができて、その後計画に基づいて周囲の町を発展させていったからみたいです。
 そうした街中を、まず実家から駅前へ向かいますけれど、ここまでは先日、この町へやってきたときにも歩いてきた道のりです。
「やっぱりやっぱり、おしゃれなお店が多い多いです」
 改めて駅前を見てあの子がそう言いますけれど、確かに…駅のデザインといい、おしゃれというかかわいらしさを感じられたりして、学園の生徒の好みに合わせているみたい。
「あそこのケーキ屋さん、おいしそうです…あれあれっ、ケーキ屋さんなのに白たいやきなんて置いてます」
 夏梛ちゃんの目に留まったのは一軒のお店…ひよこ屋、というまた何だかかわいらしいお名前のお店でした。
 でも、あんなお店って前からありましたっけ…ほとんど駅前になんてきたことのない私ですけれど、でも私があちらに住むために駅へきたときまではなかったと思いますし、この半年くらいの間にできた新しいお店みたいです。
「白たいやき、買ってこっか」
 白たいやきは夏梛ちゃんの大好物…あちらの町でも屋台が出ていることがあってそこでよく買っています。
「ですです…あ、でもでも、麻美の作ってくれたお弁当がありますし…」
 そんなこと気にしちゃうあの子はかわいいですし、それに嬉しいです。
「うふふっ、それじゃ帰りに買っていこっか」
「ですです、そうしましょう」
 学生時代はこうやって誰かとお店に行って何かを一緒に食べる、なんてこともなかったのですけれど、その学生時代をすごした町で夏梛ちゃんとそういうことできるなんて…うんうん、とっても幸せです。

 駅を越えると町の風景にちょっと雑然としたものが感じられる様になってきましたけれど、この町には大きな商業施設などはなくって、こちら側も閑静な住宅地なのは変わりません。
 そこを抜けた先にはのどかな田園風景が広がっていて、ちょうど稲刈りをしているのが見られる中を二人で歩いていきます。
「えとえと、麻美、どこまでどこまで行くんです? この先は山があるくらいみたいですし、そろそろ引き返したほうが…」
 あの子の言うとおり、木々に包まれた山々がすぐ近くにまで迫ってきています。
「う〜ん、確かこのあたりだっていうことだったんだけど、どこかな…」
「…まさか麻美、迷った迷ったとか?」
「う、ううん、そんなことないよ?」
 ただ、これから行きたい場所は話で聞いただけで、それどころか駅のこちら側へきたのもこれがはじめて、でしたりするんですけれども。
「…あっ、うん、多分あれだよっ。夏梛ちゃん、行ってみよっ」
 ちょっと不安になってきちゃったところで、木々の間に目的の場所っぽいものが見えましたからそこへ向かってみます。
「これは、鳥居に石段…です? 石段の先が見えない見えないですけど、これを登るんです?」
 私たちがやってきた先には木々にちょっと隠れちゃってる鳥居、そしてその奥には木々の間をのびる石段がありましたけれど、彼女の言うとおり石段の先が見えません。
「うん、この上が目的地のはずだし、行ってみよっ」
「ちょっと気が進みませんけど…ここまできたんですし、仕方ないですね」


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