夏梛ちゃんにもお手伝いをしてもらって、そうしてできあがりました朝ごはんを一緒に食べます。
「もきゅもきゅ…おいしいおいしいです」
「わぁ…うん、ありがと、夏梛ちゃん」
 私の作ったお料理をおいしそうに食べてくれる夏梛ちゃんを見ているだけで、幸せでおなかいっぱいになっちゃいます。
「べ、別に別に、本当本当のことを言っただけなんですから、お礼なんて…」
 そうして恥ずかしがったりしちゃうところがやっぱりとってもかわいいです。
「それにしても、やっぱりやっぱり麻美のご実家ってとってもとっても大きいですよね」
 と、朝ごはんを食べ終えて一息ついたところで彼女がそんなこと言ってきます。
 そう、今の私たちがいるのは、山あいにあるあまり大きくない町にあります、声優になるまでの間ずっと過ごしてきました私の実家で、夏梛ちゃんがここにくるのはもちろんこれがはじめてです。
「う〜ん、そう…だね、一人で暮らすには、ちょっと広すぎるかも」
「一人、って…あ、そういえば麻美って…」
 私の言葉にあの子は少し声を詰まらせちゃいました。
 夏梛ちゃんには私の家庭環境をみんな話してありますし、それで気にしちゃったんですね…。
「もう、夏梛ちゃん? 私にはこうして夏梛ちゃんがいるんだから、気にしないで?」
「は、はいです…」
 私は母をはやくに、そして父も私が学園の高等部を卒業する少し前に亡くして、兄弟などもいません…というと夏梛ちゃんが心配げになる気持ちも解らなくはないんですけど、今の私にはその彼女がそばにいてくれるんですから、大丈夫。
「あ…でもでも、その割にはこのお家、きれいにきれいにされてます。麻美はあっちで暮らしてるんですし、普段は誰も誰もいないはずなのに」
「あっ、うん、ここは普段は管理人さんに住んでもらってるから」
「そうなんです?」
「うん、私が父の跡を継いだとき、声優をしていくうえで必要のないものはほとんど手放したんだけど、ここはやっぱり色々思い入れもあるから、そのままにしておきたくって…」
 将来的には夏梛ちゃんとここで暮らせたら…といいたいところですけど、声優をしていくうえで事務所とも離れていますし交通の便もよくありませんからさすがに無理そうです。
「手放した…って、何を何をです?」
「えっ、うん、父の会社の経営権とか…」
「そ、そんなそんなものを手放しちゃうなんて、ずいぶんずいぶん思い切ったことするんですね、麻美って…」
 あれっ、驚かれちゃいました…このことはまだ夏梛ちゃんに話していませんでしたっけ?
「だって、私は声優になるって決めてましたし、それに経営の能力なんてないと思いますから世襲しちゃうより他の人にしてもらったほうが色々といいはずですから…あ、でも、このお家と夏に夏梛ちゃんと一緒に過ごした別荘、あと牧場は手元に残してあるんだけど」
 といいましても牧場は幼い頃によく行ったことがあって思い入れもあって、ということに対して別荘のほうはちょっと存在を忘れちゃってた、っていう対照的な理由だったりするんですけど。
「今はそれらの維持は父の残してくださった財産や牧場の収入で賄ってしまっていますけど、いずれはちゃんと私の収入…声優のお仕事でしっかりやっていければいいな」
「う〜ん、それは…かなりかなりの売れっ子にならないと難しそうですし、頑張ってくださいね?」
「うん、夏梛ちゃん。私、頑張るよっ」
 そのこともありますし、私の選んだ道でもあります…それに私のことを応援してくださる人もいたりしますし、そしてこの先も夏梛ちゃんとともに歩むためにも、もっと頑張らなきゃ。
「もうもう、やっぱり麻美はかわいすぎます…」
 と、そんな私を見て、あの子が少し顔を赤らめながら何か呟きます…?
「夏梛ちゃん、どうしたの?」
「い、いえいえ、何でもありません…それよりそれより、麻美ってずいぶんずいぶん欲がないですよね」
「…えっ、そうかな?」
 話をそらされちゃった気もしましたけど、ちょっと意外な言葉に首をかしげちゃいます。
「ですです、それだけの財産とかがあるのでしたら楽に楽に生きていけると思いますのに、それらのほとんどを手放しちゃったりたくさんたくさん使ったりしようとしないで、普通にお仕事頑張ったりしているんですから」
「それはさっきも言ったとおり、私は声優としてやっていきたいから…それに、私にだってどうしてもほしいものとか、あるよ?」
 ゆっくり立ち上がりながら彼女へ微笑みます。
「麻美がどうしてもほしいもの…何です何です?」
「そんなの…夏梛ちゃんに決まってるよっ」
 あの子へ歩み寄った私、そう答えながら椅子に座っている彼女を背後から抱きしめちゃいます。
「はわはわっ、あ、麻美…!」
「大好きな夏梛ちゃんのことは何でも知りたいし、夏梛ちゃんが喜ぶことなら何でもしてあげたいし、夏梛ちゃんとずっと一緒で幸せにいられたらいいな、って思うもん」
 うん、夏梛ちゃんのことを思うと、私は何でも欲しがっていくらでもわがままになっちゃいそう。
「あぅあぅ、あ、麻美ったら私のことばっかりです…! 恥ずかしい、恥ずかしいですっ」
「でも、本当のことだもん」
「もうもうっ、そ、そんなこと、わざわざ強く強く思わなくっても叶うことなんですし…!」
「わぁ…うん、そうだね、夏梛ちゃんっ」
 うんうん、私たちはこれからもずっと一緒です…それが嬉しくって、彼女のことをさらにぎゅってしちゃうのでした。
「それに、夏梛ちゃん…私と一緒に暮らしてくれるんだよねっ。うふふっ、本当、これからもずっと一緒、だねっ」
 そう、先日の学園祭ライブの際に、夏梛ちゃん…そう約束をしてくれたんです。
 まだいつからとか、そういうことは決まっていませんけれど、まずはその約束をしてもらえたことだけで十分すぎます…そのことを思い出すとますます嬉しくなっちゃって、今度はあつい口づけを交わしちゃうのでした。


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