第一章

「ん…あれっ?」
 ―目が覚めると、カーテンの外はすでに明るくなっていたのですけれど、まず少しの戸惑いを覚えます。
 視線の先にありました天井が普段と違う、けれど懐かしさを覚えるものになっていて、寝起きということもあって思考が止まってしまいます。
「えっと…」
 ゆっくり身体を起こしてあたりを見回してみますと、やっぱり懐かしさを覚えます。
 私が今いるのは、私の部屋…ただし、声優になる前までの。
 ということは、これは夢の中…そう考えそうになりましたけれど、私のすぐ隣からぬくもりが感じられることに気づきます。
「あ…夏梛、ちゃん…」
 私のすぐ隣で穏やかな寝息を立てていたのは、灯月夏梛ちゃん。
 私…石川麻美と一緒に声優としてデビューをし、一緒にユニットを組んでいる、そして何より私とお付き合いをしている女の子。
 とってもかわいらしい寝顔をした彼女がこうしてここにいるのを見て、これは夢みたいだけれども夢じゃないって…先日の記憶が蘇ってきました。
「うん、そうでした、昨日は…」
 目を閉じると、その光景が浮かんできて…あれもまた、夢みたいなことでした。
「うふふっ、夏梛ちゃん…」
 目が覚めてすぐ隣に彼女がいるなんてとっても幸せで、思わずやさしくなでなでしちゃいます。
「んん、麻美…」
 と、あの子が私の名前を呼んできます?
「夏梛ちゃん、起きちゃった?」
「むにゃむにゃ…すぅすぅ」
 様子をうかがってみますけれど、あの子は気持ちよさそうに眠ったまま。
 寝言みたいでしたけれど、私の夢を見てくれているのかな…だとしたら、とっても嬉しいです。
 夏梛ちゃん、昨日のことで疲れてるって思うし、ゆっくりお休みさせてあげなきゃ。
 私は…このまま夏梛ちゃんの寝顔を堪能するのもいいんですけど、起こしてしまってはいけませんし、私にできることをしておこうかな。
「夏梛ちゃんは、ゆっくりお休みしててね…んっ」
 眠っている彼女の唇へ軽く口づけをして、私はベッドから降りました。

「麻美、おはようございます」
 お台所で朝ごはんを作っていますとかわいらしい声が届くものですから手を止めて振り向きますと、そこにはあの子の姿。
「あっ、夏梛ちゃん、おはよ。もう起きちゃったんだ…もっとゆっくりお休みしててもよかったのに」
「でもでも、麻美だってもう起きてますし、しかもしかもごはん作ったりしてますし、悪い悪いです」
 そんなことを言う夏梛ちゃんは髪もツインテールにまとめていて、服も何着が持ってきていたゴスいおよーふく姿になっていて、完全に起きちゃってます。
 ちなみに私もお料理前に着替えは済ませていて、夏梛ちゃんと同じくらい長い…腰にかかるくらいの長さの髪は束ねたりすることはありませんけれど軽くといてます。
「そんなこと気にしなくっても大丈夫なのに…私、夏梛ちゃんのためにお料理作るのが、とっても大好きなんだもの」
 お料理は元々嫌いじゃなくってある程度できましたけれど、大好きな人に食べてもらえる、となるととっても幸せを感じます。
 ですから、自分で言うのもあれですけれど、夏梛ちゃんに喜んでもらいたいという気持ちが強くって、お料理がどんどん上手になっていっている気がします。
「それに、夏梛ちゃんはお客さんなんですから」
「それはそうかもですけど、ここにお泊りしてるのってたまたまお仕事の場所に近かったからですし…お仕事は麻美も一緒に一緒にしてますのに私だけのんびりのんびりしちゃうのは気が引けます」
 そういうことを気にするなんて、やっぱり夏梛ちゃんはいい子です…と、彼女は私よりも背など色々小さくってそこがまたかわいいんですけど、でも同い年ですし彼女のほうがしっかりしていますよ?
「それにそれに…私だって、麻美のために何かしたい、って思ってるんですから」
「わ…夏梛ちゃん」
 そんな、顔を赤くして恥ずかしそうにしながらそんなこと言われたりしたら…我慢できなくなっちゃいます。
「うん…ありがと」
「…むぎゅっ! あぅあぅ、麻美…!」
 ですから、あの子へ歩み寄ってそのままぎゅってしちゃいました。


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