序章
―私には誰よりも大切な、ずっと一緒にいたい、と心から思う人がいます。
その人にお会いできたのは、私が抱いてきた夢…声優さんになる、ということを叶えることができたから。
その夢を叶えることができたのは、学生時代に夢を目指して自分なりに頑張ってみたから。
こうして思い返しますと、今の私があるのはその頃からの想いが繋がっていった結果なのですね、と感慨深くなります。
そんな私が学生時代を通してずっと過ごしてきた学園。
学生時代の私は…いえ、今でも同じだって思いますけれど、地味で目立たない、存在感のとっても薄い子でした。
自分から周囲と触れ合うこともしませんでしたから、友人もほとんどいなかったのですけれど…それでも、大切な出会いがいくつもありました。
皆さんがいらしたからこそ、今の私がある…愛するあの子もそうですけれど、この私がそれだけの出会いをしてきたこと、感謝をせずにはいられません。
夢が叶って、学園を卒業して…あの子と出会って。
私の原点となったその場所へ、いつかは、あの子を連れて戻ることができたらいいな、と思っていました。
でも、それが思っていたよりもずっとはやく、しかもあの様なかたちで叶うなんて…本当、思ってもみませんでした。
「み、皆さん、今日は私と夏梛ちゃんのライブ、楽しんでくださいね?」
卒業式の日以来、半年くらい振りに学園やってきた私…講堂の舞台でスポットライトを浴び、満員のお客さんを前にして緊張しながらも挨拶をしました。
今の私の服装はその卒業式の日を最後に着ることのなくなった学園の制服、そしてすぐ隣には大好きなあの子の姿。
「え、えっと、私も絶対先輩やかなさまみたいに声優さんになってみせますから、待っていてくださいねっ」
舞台の端には同じ夢を目指してかつて一緒に練習をしてきた子の姿。
「アサミーナ先輩、お久し振りだよ〜」
そして、舞台袖からは私が今こうしているきっかけを与えてくださった、物語を書くのが好きな子が飛び出してきました。
こうして、こんなかたちで再会するなんて…嬉しかったり懐かしかったりと、泣けてしまいそうです。
でも…想い出に浸っている場合ではありません。
「では、私たちの歌、聴いてください…いこっ、夏梛ちゃん」
「ですです、いきましょう、麻美」
私とあの子、微笑みあって…そう、今日は私の母校、私立明翠女学園へ学園祭ライブをしにきたのですから。
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