「はぅ、やっぱり昔のことを聞かれるのってちょっと恥ずかしいですよね…」
 学食、それに渡り廊下から中庭へ出て、外の空気に当たって気持ちを落ち着けます。
 中庭もやっぱり木々が多く、それに小さな池もあったりして、風も涼しくよい気持ちです。
「そういえば、私も夏梛ちゃんの昔のことを聞いてませんけど、私の昔のことも特に話してませんでしたっけ…」
 松永さんたちはどんなことを話してるのかな…いけない、落ち着くつもりがまた恥ずかしくなってきちゃいました。
 大きく深呼吸をして気持ちを…。
「…おや? 誰かと思えば、石川さんか…昨日みたいに制服を着たりして、何をしているのかな?」
「…えっ?」
 と、そんなとき後ろからかかってきた声にはっとして振り向くと、そこには一人の女のかた…。
「あっ、綾瀬先生、お久し振りです。はい、今日は夏梛ちゃ…私と一緒にユニットを組んでいる子にこの学園の案内をしてまして、今はちょっと外の空気に当たりにきたところです」
 ちなみに、今日も私はここの制服姿…目立たなくするためですけれど、夏梛ちゃんがいつもの服装ですからあまり意味はないかもしれません。
「なるほど、そうだったのか…昨日のライブ、私も妹の咲夜と一緒に観させてもらったよ」
 そうおっしゃるのは、私の高等部時代に担任をしてくださっていた綾瀬先生です。
「こんなにはやく石川さんの活躍を見ることができて、嬉しいよ」
「あっ、そんな、これも綾瀬先生や咲夜さんのおかげです…ありがとうございます」
「いや、私など微々たることしかしていないし、今の石川さんがあるのは石川さん自身の力、それに…あのパートナーの子の力だと、思うよ」
「そんなこと…でも、夏梛ちゃんの存在は、確かにとっても大きいよね…」
 彼女がいなかったときのことなんて、考えられないもの。
 そんなことを考える私を見て、先生はふっと微笑みます。
「これからも、二人で頑張っていってね…そうすれば、石川さんの望む未来だって叶うから、ね」
「はい、ありがとうございます、先生」
 うん、ちゃんと先生に会えてよかった。
 それに、昔がどうあれこれから先夏梛ちゃんと一緒に歩めたら、それ以上言うことなんて何もないよね。

 先生とお話しして気持ちも落ち着きましたから学食へ戻りましたけれど、夏梛ちゃんたちのいる席のあたり、少し人が増えていました。
 もしかして夏梛ちゃんファンの子が集まっちゃったのかな…そんなことを思って歩み寄ってみましたけれど、少し違ったみたいです。
「あっ、麻美ったらやっとやっと戻ってきました…どこに行ってたんですか?」
 松永さんたち同様にさっきと同じ席に座ったままの夏梛ちゃんが私の姿を見つけて声をあげました。
「あ、うん、ちょっと…それより、この人たちは…?」
 この学園のものではない制服を着た女の子が数人、それにこの学園の生徒の子も数人…って、あれっ?
「あの、もしかして、昨日私たちの前にライブをしていた草鹿彩菜さん、ですか?」
「はい、石川先輩に名前を覚えてもらえていたなんて…こんにちは」
 ぺこりと頭を下げた、クールな雰囲気の少女が何者か解り、そのため他の皆さんがどういうかたがたなのかということも解りました。
「なるほど、皆さん、昨日草鹿さんとライブに出ていらしたかたがたなんですね」
 違う制服の皆さんは、昨年からこの学園と姉妹校になった燈星学園のかたがたでした。
 そう、皆さんは昨日の草鹿さんのライブに参加された両学園の生徒会のかたがた…といっても草鹿さんなどはすでに退任されていらっしゃいますけれど、とにかく学園祭の反省会などを行うために今日は集まり、その後お昼ごはんのためにこうしてここへいらしたそう。
「それに、あーやちゃんはみーさの運命の人なんだよ…きゃ〜、きゃ〜っ」
「あらあら、みーさちゃんったら…うふふっ」
 と、藤枝さんにも恋人さんができたみたいで、燈星学園のやさしげな雰囲気をした少女に抱きついてしまいました。
 そういう藤枝さんつながりもあって、皆さんここへ集まられたみたいです。
「それで皆さん、集まってどういったお話をされていらしたんですか?」
「そんなの、麻美の昔のことに決まって決まってますよ? 松永さんや藤枝さんと出会ったときのこととか、聞かせてもらっちゃいました」
 わっ、やっぱりそうだったんだ…さっき気持ちを落ち着けてきたとはいっても、こんなたくさんの人に聞かれたっていうのは、やっぱりちょっと恥ずかしいです。
 そして、お話を全て聞いたらしい夏梛ちゃん、私のことをじっと見つめてきます。
「…麻美って、いじめにあってたわけじゃないですよね? 一人でお弁当とか…」
「わっ、そ、そういうわけじゃないよ?」
 そう、私の過去ってそんな感じですし…はぅ、ちょっと不安になってきちゃいました。
「夏梛ちゃん、もしかして…私のこと、嫌いになっちゃった…?」
「えっ、ど、どうしてどうしてそうなるんですか? 別に別に、何かとても悪いことしてたわけじゃないんですし、嫌いになる理由なんてどこにもどこにもありませんよ?」
 よかった…夏梛ちゃん、ありがと。
 ほっとしちゃった私の気持ちを読んでか、彼女はため息をついちゃいました。
「全く全く、相変わらず麻美は心配性なんですから。もし昔さみしい思いをしてても、これからはそんな思いをすることなんてないんですから、それでそれでいいじゃないですか…!」
 そして顔を赤くしてそう言われちゃいましたけれど、それって…夏梛ちゃんが、これからも私もそばにいてくれる、っていうことだよね…?
「うん…うん、夏梛ちゃん、大好きっ」
「わっ、も、もうもうっ、こんなみんなの前で…本当本当に、しょうがないんですから…!」
 思わず後ろから抱きしめちゃった私に、彼女は顔をさらに赤くしちゃって…もう、本当にかわいくって、愛しいんですから。
 うん、これからも夏梛ちゃんと一緒に歩んでいこう…そして、二人で幸せになろうねっ。
 松永さんや藤枝さん、それにそのお二人の想い人さんたちにあたたかく見守られながら、改めてそう強く思ったのでした。


    -fin-

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