同じ夢を目指して、かつての私と同じ場所で頑張っている松永さん。
 夢は今でも変わらないみたいで…ううん、私の影響でより強くなったそうで、ともかくお互い積もる話もありましたけれど、お昼時だということもあり、まずはみんなで学食へ行くことになりました。
「学食もずいぶんずいぶん立派です。それにそれに、休日でもやっているんですね」
 学生時代の私はここを利用することはなかったのですけれど、その夏梛ちゃんの言葉通り、私たちのやってきた広くて明るい学食は今日も営業中。
 休日ながら少しだけ食事をする生徒などの姿もあり、私たち…主に夏梛ちゃんが注目されちゃいますけれど、気にせずお料理を手にして席につきました。
「これは…なかなかおいしいですけど、麻美のお弁当のほうが…」
 一口お料理を口にしました夏梛ちゃん、そう言いかけて口をつぐみましたけれど、もちろん聞き逃すはずがありません。
「うふふっ、夏梛ちゃん、ありがと」
「な、何の何のことですっ、それよりはやくはやく食べちゃいましょう」
 相変わらずかわいらしい彼女に頬が緩んでしまいながらもお食事をして、そして私と松永さんとでお互いの近況を伝えあいました。
 松永さんは私の卒業後もやっぱりあのスタジオで日々練習を頑張っていたみたいなのですけれど、新学年になってすぐくらいに偶然スタジオへやってきた冴草さんとお知り合いになったそうです。
 冴草さんも声優さんなどに興味があるかと思いましたらそうではなく、松永さんに出会うまでは特に興味はなかったそう…なのですけれど、たまたま訪れたスタジオで声優になるための練習をしている松永さんを見て気になっていったそう。
「全く、昔は普通の文学少女だったのに、今では色々アニメとかに手を出しちゃって…ヘッドのせいなんだから、責任取りなさいよね?」
「ふぇ、せ、責任って、確かにはじめにアニメのDVDを見せたのは私ですけど、それから先は副ヘッドさんが勝手に…!」
「あによ、スタジオにあんなたくさんのDVDを持ってきてるヘッドが悪いんじゃない。さすがワルね?」
「ワルですっ。じゃなくって…!」
 松永さんと冴草さんとのやり取りは微笑ましいですけど、お二人がお互いのことを「ヘッド」とか「副ヘッド」なんて呼び合っているのは、お二人で普段その呼び名でラジオ番組の練習をしているからみたい。
 そんなお二人の会話の邪魔をするのは、心苦しいところですけれど…。
「あの、その、DVDを持ち込んだのは、私なんですけど…」
「…え?」
 私の告白に、冴草さんだけではなく夏梛ちゃんまで固まっちゃいました。

「あれれ〜? そこにいるのって…わわ、アサミーナ先輩とかなさまだ〜」
 学食でのんびりしていますと、元気な声とともに一人の小さな女の子がこちらへ駆け寄ってきました。
「あっ、藤枝さん、こんにちは」「こ、こんにちは…昨日は失礼しました」
「そんな、気にしなくってもいいよ〜」
 それは、昨日のライブでもお会いした藤枝美紗さん…そうそう、そのとき夏梛ちゃんは彼女のことを初等部の子と間違ってしまったのでしたっけ。
「って、あっ、いちごさんとエリスさんも一緒だったんだ〜。もうすぐお二人のお話も完成するから、楽しみにしててね〜」
「ふ、ふぇっ、わ、私たちのお話って…?」「え、それって私とヘッドの…あ、あんな話ってこと?」
「うん、もちろん百合なお話だよ〜」
「は、はわわっ、私と副ヘッドさんは、そんな、えっと…!」「ど、どうしようかしらね…」
 藤枝さんの言葉にお二人は顔を真っ赤にしてしまいましたけれど、明確に否定していませんし、お二人ってそういう関係なんでしょうか…?
 そうなのでしたら…うん、お似合いですよね。
「あっ、もちろんアサミーナ先輩とかなさまのお話もちゃんと書くよ〜。完成したらお二人に送るね〜」
「わぁ、それは楽しみ…ね、夏梛ちゃん?」
「私たちの物語を書いてくれるんですか? でもでも、さっきの会話の流れからして、この子の書くのって…」
「うん、私たちのラブラブなお話だよ。これはぜひ読みたいよね」
「わわっ、やっぱりやっぱり…!」
 夏梛ちゃんのお顔が見る見る赤くなっていっちゃいます。
「うふふっ、夏梛ちゃん、かわいい。でも、どうしてそんなに慌てるの?」
「だってだって、そんなの恥ずかしいですし、それにそれに…も、物語にしなくっても、私には本物の麻美がすぐそばにいますし…」
 最後のほうは掻き消えそうな小さい声ながらちゃんと私には届いて…もう、そんなことを言われたら気持ちを抑えられなくなっちゃいます。
「うふふっ、夏梛ちゃん、ありがと」
 ゆっくり席を立った私はすぐ隣に座っている彼女の後ろに立って、そのまま抱きしめてしまいました。
「わっ、わっ、もうもう、麻美ったらしょうがないんですから…!」
「うふふっ、大好き、夏梛ちゃん」
「わ、私だって大好き大好きなんですから…!」
 あぁ、もう、やっぱり幸せです…。
「わぁ〜、やっぱりお二人はラブラブなんだね…きゃ〜、きゃ〜っ」「全く、人前でこんないちゃいちゃして、羨まし…って、な、何でもないわよっ?」
 と、皆さんがいらっしゃるのですし、いつまでも二人の世界に浸っている場合ではありませんよね。
「それにしても、アサミーナ先輩、ずいぶん変わりましたよね」「うん、みーさもちょっとびっくりかもだよ〜」
 夏梛ちゃんからゆっくり身体を離す私を見ながら、松永さんや藤枝さんがそんなことを言ってきました。
「そうなんですか? そういえば学園時代の麻美ってどんなだったのか気になりますし、いい機会ですから聞かせてもらえませんか?」
「うん、いいよ〜」「はいです、私たちが先輩とお会いしたところとかなら…」
 …うっ、何だかちょっと恥ずかしい方向に話が流れていっている気がします。
「あ、あの、私、ちょっとお散歩に行ってきますね? 夏梛ちゃんは、皆さんのお話を聞いていていいから…」
 いたたまれなくなって、思わずその場を後にしちゃいました。


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