舞台を照らすスポットライトの中心に、私と夏梛ちゃんが並んで立ちます。
 はじめにつけたユニット名『kasamina』からか「アサミーナ」と呼ばれる様になった私は、母校でのライブということで高等部の制服を着ていますけれど、ちょっと緊張気味。
 一方、お姫さまみたいにかわいいこともあって「かなさま」とファンから呼ばれている夏梛ちゃんはやっぱりゴスいおよーふく姿で、皆さんの歓声を受け笑顔で手を振っています。
 暗くてよくは見えませんけれど観客席は満席、そして舞台の端に立っています私の見知った子は涙をあふれさせていました。
 私たちのライブがあることは秘密にされていましたから、しょうがないですよね…と、夏梛ちゃんが私の服の袖を引っ張ります?
「…今日は麻美が挨拶してください」
 いつもならまず夏梛ちゃんが挨拶をして場を盛り上げるんですけれど、今日は特別だものね…意を決して、一歩前へ出ます。
「み、皆さん、今日は私と夏梛ちゃんのライブ、楽しんでくださいね?」
 このお嬢さま学校でも私たちの知名度はそこそこあるのか、私がこの学園の出身ということをみんな知っているのか、そんな挨拶でも歓声が上がりましたけれど、さすがにこんな普通の挨拶じゃいけませんよね…。
「その、今年の春に卒業証書を受け取ったこの場所にこんなかたちで立つことになるなんて、本当に夢の中のことみたいで、まだ少し頭がほわほわしています。人見知りですぐに緊張してしまう様な私が今こうしていられるのは、たくさんの人のおかげ…中でも、松永さんにはとっても感謝しています。ありがとう、松永さん」
「えっ、そ、そんな、私こそ、こ、こんなところで先輩にお会いできるなんて…!」
 しばらく会っていませんでしたけれど、元気にしていたみたい…安心して、ふっと微笑みかけます。
「え、えっと、私も絶対先輩やかなさまみたいに声優さんになってみせますから、待っていてくださいねっ」
「うん、楽しみにしています…ね、夏梛ちゃん?」
「はい、けれどその子がデビューするまでに麻美が消えちゃったら意味ないんですから、頑張ってくださいね」
「う、うん、そうだね」
 私にとってすれば結構切実なことなのですけれど松永さんには冗談に聞こえたのか、彼女は涙をぬぐいながら少し笑っていました。
 …うん、本当に冗談で終わる様に、頑張らなきゃ。
「アサミーナ先輩、お久し振りだよ〜」
 と、そんな元気な声がかかってきたかと思うと、舞台袖から小さな女の子が元気よく駆け寄ってきました。
「あっ、藤枝さん、お元気そうで何よりです」
 その子はさっきまで草鹿さんのライブに参加していた、そして私が夢を目指すきっかけを作ってくれた子。
「うんっ、アサミーナ先輩とかなさまのデビュー作なゲームをしたけど、とっても面白かったよ〜」
「えっ、あのゲームをしたって…小学生の子にはちょっとちょっとはやい気がしますよ?」
「わわわ〜、かなさま、みーさは高等部三年生だよ〜」
「え…あっ、そ、それはごめんなさいっ」
 顔を赤くして頭を下げる夏梛ちゃんですけれど、私がしてしまったのと同じ間違いに、私も会場の皆さんも少し笑ってしまいました。
「ううん、気にしなくってもいいよ〜。それより、アサミーナ先輩たちに聞きたいことがあるんだけど、いいかな〜?」
「うん、もちろんいいですけれど、何ですか?」
「えっとね、声優さんの世界には百合ップルっていわれるカップリングが結構あって、アサミーナ先輩とかなさまのお二人もそう言われてるんだけど、実際のところのお二人の関係ってどうなのかな〜?」
 藤枝さんも相変わらずみたい…夏梛ちゃんはさっきのことでちょっと固まっちゃってるみたいですし、私が答えなきゃ。
 これがラジオ番組のお便りや普通のイベントでしたら微笑んで大好きです、って言うくらいなんですけれど、相手は藤枝さん、それに松永さんなども聞いているのですから、ちゃんと答えなきゃいけませんよね。
「うん、夏梛ちゃんのことが大好きでしょうがないから、一緒に暮らしませんか、ってこの間お願いしたの。夏梛ちゃんからのお返事はまだだけれど…」
「わわっ、ちょっとちょっと、麻美っ? ひ、人前で何て何てこと言ってるんです…!」
 歓声をあげる藤枝さんや皆さんですけれど、夏梛ちゃんはますます赤くなってしまいます。
「でも、本当のことだよね? そうだ、そのお返事、今ここで聞かせてもらえないかな?」
「えっ、そ、そんなそんな…!」
 もう、そうやって慌てる夏梛ちゃんはかわいらしすぎてきゅんとしちゃいます…けれど、そんな姿を見たくって意地悪なことを言っているわけじゃありません。
 一緒に暮らしたいというのは私の心からの望みで、また彼女もきっと望んでくれているんじゃないかな、って思うんです…ただ、私と一対一ですとなかなか素直になってくれないんですけれど、この状況でしたら…。
 私、それに会場も静まり返り、全ての視線が夏梛ちゃんに集中する中、顔を真っ赤にしてちょっと震えちゃってる彼女、少しうつむいていた顔を私に向けました。
「も、もうもう、そんな…すっ、好きに好きにしたらいいじゃないですかっ」
「わぁ…夏梛ちゃん、夏梛ちゃんっ」
 あまりの嬉しさに、お返事を聞いたと同時にぎゅっと抱きついてしまいます。
「わぁ、これはさっそくお二人のお話を書かなきゃだよ〜…きゃ〜、きゃ〜っ」
 そばで見守る藤枝さん、それに皆さんも歓声をあげて祝福をしてくださいます。
「こ、こんなこんなところであんなこと言うなんて、麻美は本当本当に大胆になりましたね…!」
 確かに、人と話すだけで緊張をしていた私が…と思うと、自分でも少し驚きがわいてきます。
 でも、こうして運命の人、とっても愛しい人のことを想うと、他のことなんて気にならなくなっちゃうんです。
 私をこんなに変えたのは…夏梛ちゃん、貴女なんだから。
「…夏梛ちゃん、私はこれからもずっとずっと、夏梛ちゃんのことを大好きでい続けますから」
「そ、それはそれは私だって…!」
「うん、ありがと、夏梛ちゃん」
 そして、私たちは歓声に包まれる中で交わしました。
 満場の聴衆に見届けられ、誓いの口づけを。


    -fin-

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