第5.6章
―私と夏梛ちゃん、二人にとって声優デビュー作となるゲーム。
けれど、そのゲームは同時に私たちのユニットデビュー作でもあって…正確には、私たちのユニットデビュー曲が主題歌となっているんです。
ゲームの音声収録ももう終わっていまして、歌の収録のほうも終えることができました。
私が歌を、なんて少し前までは考えてもいなかったことでしたけれど、夏梛ちゃんにレッスンをつけてもらったりしまして何とか無事に収録できました。
これで、あとはゲームの発売を待つだけ…ではなくって、それまでにすることがまだ残っていました。
「あら、まぁ、『kasamina』のお二人とも、今日はよろしくお願いします〜」
「おはようございます、如月さん。こちらこそよろしくよろしくお願いします」「よ、よろしくお願いいたします」
今日のお仕事場所で出迎えてくださったマネージャの如月さんと挨拶を交わす夏梛ちゃんと私。
如月さんがおっしゃられた『kasamina』とは先日私たちで考えました、私たちのユニット名です。
夏梛ちゃんのお名前と私の名前を合わせて、というもので、夏梛ちゃんのお名前に挟まれて嬉しい…ちなみにユニット名は夏梛ちゃんからの提案でときどき名称を変えてみよう、ということにしてます。
私にはちょっと思いつきませんからそのあたりは夏梛ちゃんにお任せしようって思いますけど、次はどんなお名前になるんでしょう…楽しみです。
「いえいえ、こちらこそ〜。今日からの数日は、お二人のお写真とか、あとビデオも撮っていきますね〜」
その如月さんの言葉どおり、今日の私たちがやってきましたのはスタジオ…といっても普段よく使う音声収録用のスタジオではなくって、撮影用のスタジオです。
「もうもう、麻美ったらずいぶんずいぶん緊張してますけど、大丈夫大丈夫です?」
「あっ、う、うん、夏梛ちゃん…プロモーションビデオとか、上手にできるか心配で…」
今日はここで、私たちのユニットとしてのデビュー曲のそんな映像や、あるいはCDにつける写真を撮ったりすることになっています。
歌はすでに収録しましたけれど、そこにダンスを加えて、というものは今回がはじめてになりますし…写真にしてもすぐに写真集が出てもいいってくらいかわいらしい夏梛ちゃんならともかく私がそういう対象になるなんて、そのあたりも含めて、心配や不安になります。
「全く全く、麻美は心配性です。ダンスの練習もちゃんとちゃんとやってきているんですし、大丈夫大丈夫です」
「…う、うん、そうだね、夏梛ちゃん」
夏梛ちゃんの言葉に少し気が楽になります…うん、夏梛ちゃんに気遣ってもらえるなんて嬉しいですけど申し訳もないことですし、しっかりしなきゃ。
「あら、まぁ、では今日はお写真のほうを撮っていきますから、控え室に用意してある衣装を着てきてくださいね〜」
ダンスをするのはまだ先みたいですし、あまり気負わずにいかなきゃ。
でも、お写真用の衣装…夏梛ちゃんは今のゴスいおよーふく姿で十分すぎる、って感じちゃいますけど。
「え、えっと、こんな服装、私に似合ってるのかな…?」
私と夏梛ちゃんとで別々に用意されていました控え室へ入って、そこに用意されていました何着かの衣装…順番が振ってありましたのではじめに着るものへ着替えたのですけれど、着替え終えて鏡の前に立って、思わずそうつぶやいちゃいます。
私って元々おしゃれとかに…誰かと一緒にお出かけとかそういう機会がなかったこともあってあんまり気を配ってこなかったのですけれど、今着ているものはそういうこととは別の次元のものでしょうか。
こういう服装、アニメやゲームの世界では見かけますけれど現実の世界では見たことありませんし、ましては私に似合っているか…ってなりますと、恥ずかしかったり不安になったりしてきちゃいます。
「…い、いえ、そんなことを言っている場合じゃありません」
これもお仕事なんですから…しっかりしなきゃ。
何とか気を取り直して、スタジオへ戻ります…けれど、直前の扉で足が止まっちゃいます。
夏梛ちゃんに今の服装を見られて何て思われるか…そんなことを思うと緊張がまた出てきちゃいます、けれど。
「…ううん、大丈夫です、よね」
夏梛ちゃんが私なんかの見た目とかをわざわざ気にするはずありませんから。
そう思うと…さみしい気持ちも出てきちゃいましたけれど、とにかく大きく深呼吸をして扉を開きました。
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